清志は秋穂・あずさ・洋子と共に面接会場となるオフィスビルについた。
中に入ると面談の準備をしてきた他の参加者もいる。緊張している者、余裕の表情の者、それぞれ履歴書をスタッフに渡すと待機時間を与えられて休憩ルームで待つことになった。
「こちらの準備が出来次第順に呼んでいくので、呼ばれたら会議室に入って面接を始めてください」
スタッフの説明に従い、待っていると順に参加者が呼ばれていく。
会議室に入ると30分くらいして参加者の原幸広が出てくる。
「あ~…」
表情は青ざめて疲労感溢れる顔つきで出てくる。
(一体中でどんな面接を受けたんだ?)
「面接を終えたらすぐに帰宅するように。面接内容を教えた場合は即失格にするように言われている」
「わかりました…」
スタッフに案内され、原はビルから出て行った。
「次、中井洋子さんどうぞ」
「わかったわ!」
呼ばれた洋子は休憩ルームを出て、会議室の戸をノックして入室した。
「失礼します」
「席についてください」
会議室にいたのはまず4人の男女、そして真ん中にモニターが置かれている。
「どうも、私は津島総合株式会社・人事担当、中田勇と言います」
「私は西海老坂間銀行の人事担当をしております久保沢浩作と言います」
「ブティック・ステラの南梨子です。エリアマネージャーをしています」
「レストラン【ラッキーランド】の人事担当、仁科和人と言います」
スーツを着て、いかにも重要な立場にいる4人が自己紹介をし、
『へるはろー♪ 株式会社VRワールドプロダクション事務所からやってきました! 今日も元気に地獄で留守番! へるどっぐ♡猫鳥ちゃんでーす♪ 面接は初めてだけど楽しみー! よろしくお願いしま~す♪』
ディスプレイからVチューバーが表示され、挨拶をした。
「あ、私は中井洋子と言います。本日はよろしくお願いします」
へるどっぐ♡猫鳥にあっけを取られたが、中井洋子は5人に挨拶をして椅子に座った。
「それではこれから面接を始めます。面接は私達5人からそれぞれ1つずつ質問していきますので中井洋子さんはそれに応答してください」
「わかりました」
まずは中田が履歴書を見て質問する。
「では私から質問です。あなたは元プロレスラーらしいですが、私に技をかけて取るならチョークスリーパーと三角固めのどちらをかけに行きますか?」
「え、何ですかその質問?」
「質問をしているのはこちらです。チョークスリーパーと三角固めどちらにしますか?」
予想外の質問に中井洋子は考えて、答えを出す。
「えーと、私はチョークスリーパーにします」
「その理由はありますか?」
「理由としましては、私の得意技で使いやすいというのと、後は男性が相手だと腕を捕獲して締めに行くのは負担になるのでチョークスリーパーにします」
「なるほど。ですが私は格闘技をやったことが無いので簡単に倒されると思いますが」
「格闘技をするしないに関係なく、男性と女性の体格の差は技量だけでは埋めれないので私は負担の掛からない方が良いと思いました」
「なるほど、では実際にかけてもらいますか?」
「えっと、それはあなたにチョークスリーパーに掛けるという事ですか?」
「ええ。私は身動きしないので、洋子さんは私にチョークスリーパーを掛けてください」
そう言って中田は立ちあがり洋子の前に立った。
「猫鳥ちゃん、3カウントを頼むよ」
『はーい! 任されました~♪』
チョークスリーパーを掛ける流れに持っていかれ、洋子は意を決して中田に技を掛ける。背後から首に腕を回して手加減をして、息苦しくならないレベルにする。
「おおっ! これは確かにきついぞ…!」
「くっ…」
『いーち、にーい…』
中田は後ろから技を掛ける洋子に逃げるように動きながら洋子の体に自らの体を擦り付けて感触を味わった。
(ほほっ! 役得役得)
『す~り~い!』
「いやあ参った参った! 流石元女子プロにいただけあってほんとに意識を失うかとおもいましたよ!」
「いえ、手加減したのでこちらも…ありがとうございます」
中田が席に戻ると次は久保沢が質問する。
「私からの質問ですが…。スタッフさんお願いします」
久保沢がスタッフを呼ぶと、天井からバナナがぶら下げられた。
「このバナナを取ってください」
「はあ…?」
「道具を使っても構いません」
意味のわからない課題だが、洋子は椅子を使って届くように高さを調整しバナナを手に取った。
「なるほど、ありがとうございます」
「これに何の意味が…」
「大丈夫です。結果は後で決めるので。あ、バナナは持ち帰っても大丈夫ですがどうしますか?」
「あ、ではいただきます」
続いて南からの質問があります。
「私からの質問ですが、あなたは普段からクロックスを履いて歩いているのですか?」
南は洋子の服装を上から下まで見て質問する。
「あ、そうですね。移動が楽ですし」
「面接という場に置いて不適切だとは考えませんでしたか?」
「えっと…。今は事情があってそろえれなくて…」
「その事情は面接以上に大切な物なのですか?」
理詰めのように質問していき洋子を追い詰めていく。
「えっと、人生がかかっているので…」
「面接もそうだと私は思っていますが、取るに足らないものだと思っているんですか?」
「いえ、私の考えが至らなかっただけです…。申し訳ありません…」
「謝罪は私だけでなく、今日ここに集まった方々にするべきではないですか? 貴重な時間を割いて、あなたが期待に応えうる人材だと思いわざわざ来たんですよ」
「そ、そうですね。皆様に失礼をしてしまい申し訳ございません…」
「私からの質問は以上です」
南の質問が終わると、次に仁科が質問する。
「僕から質問なんですけど、もしウチで新メニューを開発したいって頼まれたらどんなメニューを開発しますか?」
「メ、メニューですか? それはランチとかデザートとかの設定はありますか?」
「いえ、もう今簡単に考えてください。別にホントに採用するつもりじゃないんで」
「あっはい、わかりました!」
暫く考えて洋子は応答する。
「スタミナ丼を開発します! 若い方はガッツリ食べたいと思いますし、今日どうしても肉が食べたいって方に需要があると思います!」
「あ~確かに良いですね~。ありがとうございます。僕からの質問は以上です」
「いいんですか?」
「あっはい。大丈夫です」
仁科からの質問はあっさり終わり、最後にへるどっく♡猫鳥からの質問が始まる。
『は~い♡ 最後に猫鳥ちゃんからの質問をしちゃうよ~♪』
「はい」
『そんなに緊張しなくて大丈V!! 面接官のみんなも初めての面接で緊張しているから~。ちょっと固い言葉を使ったりしちゃうんだよ~♪』
「そ、そうなんですね」
『ちなみに~洋子ちゃんはこの登録者100万人のスーパープリチーで無敵なアイドルライバー猫鳥ちゃんをご存知の元~?』
「あ、いえ初めて知りました…。動画はあまり見ないもので…」
『え~♪ ガッカリンゴジュースだよ! 今日は猫鳥ちゃんの事覚えて帰っていってね~♪』
「わ、わかりました」
へるどっぐ♡猫鳥のキャラクターに圧倒され、洋子はたじたじになる。
『でー、洋子ちゃんに質問だけど~。猫鳥ちゃんの最近ハマッている事って何だと思う~?』
「ハマっていることですか?」
『10秒で応えてね♪』
「え? 10秒で!?」
『いっくよー♪ じゅーう、きゅー、はーち』
「ゲームですか!?」
『ぶー! なーな、ろーく、ごー…』
「は、配信! 配信とか!」
『ちっがーう! よーん、さーん…』
カウントダウンされ、洋子は焦りながら考えるが中々出てこない。
『にー、いーち! ぜろ! タイムアップ~♪』
「あ、えーと…」
『正解は~♪変な質問をして相手を困らせることでした~♪』
「あ…そうなんですね…」
「駄目だよ猫鳥ちゃん、面接なんだからちゃんと質問しないと~」
『めんごめんご~♪』
猫鳥に仁科が軽く注意して、猫鳥の質問は終わった。
「では質問は以上ですので、今日の応答を踏まえまして結果をお伝えします」
「はい…」
「今日はお疲れ様でした。ではあちらからお帰り下さい」
「はい、ありがとうございました…」
洋子は疲弊しながら介護室から出て面接を終えた。
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「今回結構いい線行ったんじゃないかな?」
「あの人かなり困っていたものね!」
「報酬アップに期待してもいいと思うわ~」
面接官役をしている者達は談笑しながら先の面接を振り返っていた。
「僕達が面接で相手を困らせて面白くさせれば報酬が上がるって書いてありましたもんね」
彼らが渡されたせらぎねら☆九樹によってつくられた面接の書類。
そこには最後に
『なお、当日の面接は隠しカメラで録画されており相手を困らせて面白くさせれば報酬を追加します。君たちの活躍に期待します』
と書かれていた。
彼らは金の為に参加者が応対に困る内容を用意してきたのだ。本来企業にマッチングする人材の発掘のために行う面接は、このサバイバルゲームに置いては視聴者を楽しめるための娯楽とかしていた。
その意図も知らず、参加者達の面接は次々と行われていく。