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第17話「面接官招集」

―滝島総合株式会社・会議室


「最近売り上げが下がっているようだがやる気があるのか!?」

「確かに総合的な売り上げは下がっていますが、顧客は着実に増えていますので…」


社長・滝島の圧に耐えながら重役の男は現状を説明する。


「物価高で消費者も慎重になっているんです。今は少し売り上げが下がっても後に上昇を…」

「そんな呑気なことを言っていられるか!! わが社が全企業のないでもナンバーワンになるためには…!」


滝島が幹部に怒鳴り散らしていた時、


「社長! 直接話したいとお電話が!」

「後にしろ!」

「し、しかし相手は…!」


携帯電話を持ってきた部下が青ざめて滝島に渡す。


『わしだ滝島』

「あ、ああ山内様!? 遅れて申し訳ございません!!」

『そんな謝罪はいい。貴様に頼みたいことがある』


相手である山内の声を聞いて滝島は冷や汗をかいて、部下に待機するよう指示して部屋を出る。


「その…一体どのような件で?」

『大したことじゃない。貴様の会社の名前を貸せ』

「な、名前ですか? 何かやばい金が…」

『滝島、通話で金の話はしないと事前に行ったはずだ。愚か者め!』

「ひい! す、すみません!」

『万が一に通話を傍受されたら面倒ごとになるくらいわかるだろう。兎に角用件はこれで終わりだ』


そう言って山内は電話を切った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


―西海老間銀行・中央支店


「支店長。山内という方からご連絡が」

「何!? すぐに出る!」


支店長の島津はすぐに電話に出た。


『島津。貴様の銀行の名前を貸せ』

「山内様!? それは構いませんが…いえ、理由は聞きません」

『すまんな』


支店長の島津は一つ返事で了承した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


山内はその後、アパレル関連企業の川口とチェーン飲食店経営をしている錦から会社の名前を借りる連絡を入れ、最後に部下の神田に配信者を連れてくるように頼んでいた。


「あまり名前が売れていない個人で活動している奴を連れてこい。登録者の人数は問わない」

「かしこまりました。それで指導は傘下の奴らに」

「ああ、構わん」

「すぐに調達します」

「こっちもすぐに終わる」


先に山内は手下の職業安定所で働いている幹部の男に声をかけていた。


「おい。今すぐ働ける奴を手配しろ」

「労働者ですか?」

「男性3人、女性1人だ。男性は30代から50代、女性は20代の奴を用意しろ。貴様の安定所では仕事をする気はないが、助成金を受け取るために仕事を探す振りをしているホームレスもいるだろう」

「わかりました。至急手配します!」

「早くしろよ」


幹部の男は数時間で山内の注文した4人を集めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――― 


―株式会社VRワールドライブ・プロダクション事務所


そこは公共配信者達を管理している会社である。山内の命令で国会議員の神田は配信者を連れて事務所に訪れていた。


「こいつの名前は川口静子。配信歴3年、登録者は178人。お前たちの手でこいつを100万人のVチューバー風に仕立て上げてくれ。明日までにな」

「はあ? 何でそんなことをしなきゃいけないんですか! こっちだって忙しいんですよ!」


神田に対し剣崎は文句を言う。


「詳しい事情は話せん。お前たちは私達の指示に黙って従えばいい」

「そんな意見で納得できるわけねーだろ!」

「お前たちに異議を唱える権利などない。ゲームが得意なだけで、社会でロクに役に立たないお前たちが私達の役に立てられるだけでもありがたく思え」

「何だと…!」


今にも一触即発な空気だが、八神が割って入り神田と剣崎の仲裁に入る。


「わかりました。私が彼女に指導しますので」

「頼んだぞ」


八神が一つ返事で応対し、神田は連絡先を教えて去っていった。


「八神さん! なんであんな奴のいう事なんか!」

「剣崎。嫌な奴でも今あいつが俺達の上司みたいなもんだ。下手に抵抗すればどんな処分を下されるかわからん」

「それは…」


剣崎は八神の言葉に口を閉ざす。

公共配信者制度になってから不満を持ち始めた一部のライバー達は自分達の自由な活動のために反抗的な態度を取ったり、世間に訴えかけたりしたが、無理矢理チャンネルを閉鎖され辞めさせられたり、不可解な事故に巻き込まれたりして怪我をし活動が出来なくなった者もいる。


「無理に大人になれとは言わない。だが今はあいつらに従っていた方がいい。俺はライバーになる前は会社員をしていたが、組織に逆らったやつは必ず組織に潰される。政府の連中ならどんな手段を使っても証拠を残さず俺達を世間から消せるだろう。自分の活動を守るためにも、観てくれているファンのためにも今は耐えるんだ」

「…わかりました」


八神の説得に剣崎は引き下がり、神田が押し付けた仕事に目を向ける。

今から目の前の彼女を100万人クラスのライバー風に指導しなくてはならないのだ。


「とりあえず君の配信動画を観てもいいかな?」

「あ、はい! お願いします」


剣崎や他のメンバーを合わせて4人の大手ライバーが彼女の動画を観る。ゲーム実況や雑談など、面白くなければかといってつまらないわけでもない。大勢の人々に見てもらうための尖った部分の無い感想に困る内容だった。


「つまんねーな」

「桂木!?」

「八神さん、とてもじゃないけどこれで3年やってきたとは思えない実力ですよ~」


登録者209万人のトップライバー、桂木ヤオは川口の配信に厳しく評価する。


「配信も週1だし、動画も2か月も更新されてないし、ショート動画も上がってないし、配信指導以前に投稿者としてちょっとないな~っていうか」

「まあ、確かにそうかもしれないが頼まれたのは雰囲気の指導だからなあ」

「自分だけの挨拶とかでもつければ少し変わるんじゃないですか?」

「オリジナルの挨拶ですか…」


アイドル配信者の蒼空つばさが川口に専用の挨拶を付ける事を提案する。


「なら名前もちゃんと付け方が良いんじゃね? アイドル用の名前とかバズる感じのにさ♪」

「見た感じも…アイドルらしい感じにすればいける?」


そこからみんなで川口のアイドル計画が始まった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


―ワークリンク職業相談所


そこは新卒から再就職、無職からの社会復帰などを支援する職業相談所である。

幹部である堤は4人の無職、もしくは休職中の男女を集めた。


「あのー…なんか書類に不備があったって聞いたんですけど…」


ホームレスの男性がやる気なさそうに尋ねる。


「それに関して何だが、実はそれは特に問題なくてな」

「じゃあ何で呼んだんですか?」

「先にこれを渡しておく」


堤は4人に封筒を渡した。


「中には10万円が入っている。それは前金だ」

「えっ!?」


4人は慌てて封筒の中を確かめる。中には最近デザインが変わった折り目の無い1万札が10枚、現金10万円が確かに入っていた。


「どうしても頼みたいことがあってな。相手が相手だから詳しくは言えないが、仕事の出来次第では追加で報酬も支払われる」

「…あの、この仕事って闇バイトの類じゃないですよね?」


就活中の女フリーター・南は怪しさを感じ質問する。


「それは誓ってない。相手は大企業の社長を従わせられる様なお方だ。その方については話せないが、どうかわかってくれ」

「はあ…」

「まあ、お金が貰えるなら何でもしますよ」


4人はとりあえず了承し、現金を受け取った。


「君たちにはこれから指定された会社の役員を演じてもらう」

「演じるって何かお芝居とかドラマですか?」

「いや、その会社の面接官になってもらいたいんだよ」

「面接官?」

「依頼された方から質問する内容も用意されている」


堤は4人に質問文をまとめた書類を手渡す。


「明日ここのオフィス前に集合した後、迎えの車が来るからそれに乗って向かってくれ。後、ここにはいないが後もう1人明日は来るから」

「ここには来ないんですか」

「事情があってね。まあそれは気にしなく大丈夫だ。とにかく君たちは言われたとおりにしてくれば大丈夫だから」


それだけ聞いて4人は相談所から出ていった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


「はあ…」


川口はトップライバー達の指導に疲れ、ため息をついていた。


「やっぱ登録者が万人超えの人たちは実力が違うなあ…。バイトをしながら頑張っているけど…。ちゃんとやらないとダメなのかなあ」


先の4人同様10万円の前金を貰い承諾したが、正直自身が無かった。


「いえ、くじけちゃダメだ。折角力を貸してくれた方々に申し訳ないもの…!」


川口は気合を入れて翌日の面接官としての仕事に気合を入れた。



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