―履歴書。
それは就職活動に挑む学生やフリーターにとって社会に出るための第1関門である。
学生はより良い成績を収めることで評価されるが、社会ではいかに自分に役に立つかが評価される。
それは単にテストで100点を取れるとか、スポーツ大会で優勝したとかいう単純な優秀さではない。
『組織という枠組みに入った時に私は必ず役に立ちます』
という事を自分の存在を知らない企業の人間に伝えるための書類なのだ。そのために学生達は苦しむ。自分の事を何も知らない人間に自分の価値を知ってもらわなければならないからだ。
清志は就活に力を入れている工業高校にいたため、ある程度の書き方は知っているが秋穂はこれまで学生だったために苦戦していた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「自己アピールってどうすればいいのよおおおー!!」
秋穂は下書きに何度も書いているが、どうにも上手く書くことが出来ず苦戦していた。
「失敗したら書き直さなきゃいけないしもう嫌よおお!」
「秋穂さん、部活動とかしてなかったですか? その活動で得た事とか、自分の長所を生かして活動していたとかあれば…」
「私帰宅部だったからないわ…」
秋穂は特に部活動に所属していなかったので、その手のエピソードがなかった。
「私は水泳部」
「私は陸上部にいたわ」
あずさは水泳部、洋子は陸上部にいた時の活動を元に自己PRを書いていた。運動部はコミュニティ的な面もあるので集団の中での役割や、自分の実績の為にどんな活動をしたのが書きやすく、特技にも連携できるのでサクサクと書き進めていた。
「仕事をするなんてずっと先のことだって思っていたから、部活なんてやってなかったもの!」
「まあ、確かに仕事をする自分を想像するのは難しいですね」
「清志さんは部活をしていたの?」
「野球部にいました。最もそんなに強くないんで大会に出れませんでしたが楽しかったと思っています」
彼がいた工業高校では必ず部活に入ることが校則だった。
というのも就活をする際に自己PRをするための活動経験が必要になるからだ。清志は友人に誘われて入部し、3年間チームの潤滑剤になり円滑に活動できるようにサポートをしてきた。
コンビニを受ける際にも自己PRとして利用している。
「部活じゃなくても何かやりたいこととか…将来に夢の為にやっていたこととかなかったわけ?」
あずさの質問に秋穂は少し考えて答える。
「勉強かなあ。とりあえず点数でいい点とっておけば大学に行くための推薦とかもらえるって聞いたから、学年で上位に入れるようにはしていたわ」
「推薦を貰う為だと、目的がないと何もしないような印象を持たされるので勉強をする上での効率のいい点の取り方や、苦手な科目を克服するためにどのような工夫をしたのか書いてみるのはどうでしょうか?」
「凄いね清志君。今の話だけでそこまで膨らませることが出来るなんて」
「生活指導の先生に何度も履歴書を添削されましたからね」
清志の文章への連想の仕方に素直に洋子は凄いと思った。
「後は委員会の仕事等やっていればそれを活動として書いてみるのもいいかもしれません」
「私は、保健委員会にいたわ!」
「ならその活動で得たことを書いてみましょう。その得た経験が仕事の中でどう生きるのかを離せば面接官の方も理解していただけるかもしれません」
清志は秋穂にアドバイスを出し、履歴書に書く内容を出していった。秋穂もそれに応えるように下書きを作り書き出していった。
「それにしてもあずさちゃんは水泳を経験していたのね」
「体にあまり負担を掛けないし、私がいた学校では水泳部は人が少なくて顧問もあまりやる気のないルーズな人だったから市民プールに行って泳いだり、県大会の予選に出たりするくらい活動だったけどね。友達とだべっていつも終わることが多かったし。洋子さんはどうだったの?」
「私のとこは強豪校だったから忙しかったわね。日曜日以外は部活に出て練習していたし県大会にも出たりしていたわ。大学にはスポーツ推薦で入学して、そこにプロレス部があってそこからプロレスを始めたのよね」
「洋子さんの肉体は筋肉がついてしっかりしているからアスリートって感じですものね」
「あずさちゃんもスマートでスタイルいいじゃない」
(あずささんは水泳をしていたのか…)
6月まで一緒に暮らしていたあずさはシェアルームの中でも肉体のラインが見える服装を着ていたので、出るとこは出て、モデルのような細い体型をしているのをよく知っていた。今の話を聞いて、彼女が競泳水着で泳いでいる所を想像してしまう。
(きっと素敵なんだろうな…彼女が泳ぐ姿は)
「清志さん。何かやらしい事想像してませんか?」
「えっ、いやそんなことは…」
「さっきあずささんの事見てましたよね」
「それは…」
「それよりも履歴書が出来たので見てくださいよ」
「あ、はい」
秋穂に履歴書の添削を言われ、清志はあずさから目を逸らした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
―地下室・阿久津の部屋
拉致された参加者が地下に閉じ込められて2日目。彼らは未だに囚われたままだった。
「昼飯だ」
スッタフが扉についている小窓からビニール袋に入れた弁当とペットボトルの飲料水が手渡された。今日の弁当はのり弁当。パッケージからコンビニ店から仕入れたものだとわかる。
「お菓子とかは入ってこないんですかね」
「さあな。俺は上からの指示に従っているだけだ。もし必要なら支給されるかもな」
そう言ってスッタフの男は次の部屋に渡しに向かった。
「昨日は2色弁当。わざわざ弁当を仕入れてまで私達をここに閉じ込めておくとはよほどの理由があるはず…」
色々考えて食事を終えると、隠し持っていたスマホのバイブ機能でメッセージが届いているのに気づき、寝る振りをして布団に入り確かめる。
「八坂からのメッセージか」
弁護士事務所にいる部下からメールだった。自動車事故を起こした加害者の男が相談に来て、弁護をするらしい。そのためにまとめた内容を送ってきたようだった。
「まあ大丈夫だろう。刑を軽くしておくに越したことはない」
加害者の男は運搬作業をしている途中で、不注意で事故を起こしたらしい。幸い被害者は軽傷で済んだが、訴えられたらしく弁護を頼んできたようだった。
「加害者のいた会社は相当ブラックらしいな。この資料で見るシフト表を見れば理解できる。大方睡眠不足と疲労による注意不足から起きたのだろう。加害者に悪意が無い以上、こちらとしては弁護するべきだな」
確認をした後アドバイスのメッセージを付けて送信した。
(さて、こちらもやるべきことをやりたいが、まずここから脱出しないとな…)
った。
面接に挑む清志達と地下に囚われた阿久津。それぞれゲームに参加した者たちの思いが交差し、面接ゲームが始まる。