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第15話「開催、就活バトル!」

優子さんと一緒に眠りにつき、穏やかな気持ちの中、夢を見ていた。


ぼんやりとした風景。揺らぐような感覚。現実の様で幻想の中にいる感覚。


僕は懐かしい家の中にいる。まだ母が生きていたころの幼い頃に暮らしていた家。


夕暮れの夜を迎えるまでの隙間の時間。父が帰宅するまでの空いた時間、母が包丁で食材を刻む音が聞こえる時間。


「清志、ご飯がもうすぐできるから手を洗って準備するのよ」


顔がはっきり見えない。だがその声は母の声だ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


「おかあさ…」


現実は残酷に僕を夢の世界から引きずり戻す。まだぬくもりが残る布団の中、夢の中に戻りたい欲求に狩られる。


優子さんとの添い寝のおかげだろうか。布団だけでない、まるで温かい優しさに包まれたような安心感にいつもより心地良く眠れたのかもしれない。背中から抱き締められ、彼女の温もりを感じ深い眠りについた。


「優子さん…もう起きているのかな」


二度寝したい思いを抑えて布団から出ると、そこにはガスが止まらず沸騰した味噌汁がこぼれ、朝ごはんの用意をしていたような形跡が残っているだけだった。


「優子さん?」


第六感が嫌な気配を感じた。玄関を確かめるとカギが開きっぱなしで優子さんの靴が無かった。新聞受けの所に何か紙が挟まっていたのでそれを手に取った。


『本日、7月19日より新イベントを開催します。公民館に来てください』



「新イベント? 優子さんがいなくなったことと関係あるのか?」


清志は彼女の身を案じて公民館に走った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


公民館に着くと、同じくパートナーが突然不在となり挟まった紙の内容を見て集まった清志を含め15人の参加者が集まっていた。


「アリスさんが突然いなくなったの! 清志さんは!?」

「僕も優子さんがいなくなって…」

「ママが!?」


秋穂は不安な表情を浮かべ言葉を失う。


「ったく。運営の奴らは何を考えているんだよ!」

「…今回は不意打ち過ぎて何がなんだかだわ」


小坂がいなくなった阿久津にイラつき、あずさは新たにペアを組んだ相手を心配している。


それぞれが心配をしたり愚痴をこぼしたりしていると、運営スタッフがぷろジェクターの準備をしてノートパソコンを使い映像を映し始めた。


『参加者の皆さまおはようございます。急遽集まっていただき申し訳ありません』


せらぎねら☆九樹が映し出され、動画のBGMと共に説明をし始める。


「てめー今回は一体どういうつもりだ!」

『今、君たちのパートナーは別の場所にいる。彼らを助けるには君たちにあるゲームをやってもらいクリアしてもらうことが条件となっている』

「そのゲームとは何ですか?」

『名付けて【激熱・就活バトル】だ!』


せらぎねら☆九樹のセリフと共にlure‘sのメンバーがキャビンアテンダントや看護婦等のコスプレをして現れる。


「就活だと!?」

『人は学校で青春を謳歌し、やがて大人になって仕事にほとんどの時間を費やすようになる。そこで本サバイバルでも皆さんに就活をしていただきます』


せらぎねら☆九樹が話す【激熱!就活バトル】は以下の様なゲームである。

参加者は履歴書を作り明後日の面接に備えておく。

面接では5人の面接官が30分弱の質問をしてくるので、それに応対して合格を貰った10人が採用され、パートナーと共に生き残る。不合格だった5人はパートナーと共にこのゲームが失格になるというモノだ。


「ふざけるな! 大体面接って何の仕事の面接なんだよ!」

『それはここでは言えません。ですが面接官が教えてくれるでしょう』

「対策できねえってことかよ…!」


小坂はせらぎねら☆九樹の言葉に憤慨する。


『知っていたら面白くないでしょう? ですが情報が無いのはそこの15人に公平な条件だと思います。面接官は皆厳しい方ですが、合格者が出る事を切に祈っています。それではまた』


そう言ってせらぎねら☆九樹は映像を切った。残った15人は今から面接の準備に取り掛からないといけない。


参加者は皆慌てる。節約するのに必死で仕事とは縁のない生活の中でのいきなり就活をしろと言われてもどうすればいいのかわからなかった。


「多分コンビニとかに行けばアルバイト用の履歴書にあるんじゃないでしょうか?」

「本当!?」

「僕はそうしてましたし…」


清志は以前コンビニで働いていたので履歴書のありかにある程度見当がついていた。秋穂は就活の経験が無いので清志から話を聞きながらやることにする。


「ならコンビニに先に行くぜ!」

「俺も!!」


側で話を聞いていた小坂達参加者は即座に動き出す。


「…清志、今だけでも手を組まないかしら」

「私もできれば」


最初ルームシェアで一緒だったあすさと、散歩中に知り合った洋子が清志に話しかけてきた。今は別々であるが、今はペアを組んでいる相手を助けるために必死だ。ここは協力してこのゲームを乗り切った方が良いと考えた清志は2人とも組むことにした。


「大丈夫なの?」


秋穂は心配そうに清志に小声で訪ねてくる。


「大丈夫ですよ。今は目的達成のためにやるべきことをやるだけです」


そう言って清志は皆と履歴書を買いにコンビニに向かった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


一方、運営スタッフに連れていかれたメンバーは蒼空町にある地下の倉庫兼シェルターの中の個室に幽閉されていた。4畳半ほどの空間に机と布団があるだけ。食事は1日3回弁当と飲料水が支給される。トイレに行くときは見張りをしているスタッフに必ず声をかけなくてはいけない。


「いったいこれはどういうことなの? 秋穂は…清志君はどこ!?」

「静かに。後で説明がされるので…」


スタッフに聞いてもそれしか答えず、幽閉されている者達は不安になるばかり。だが阿久津は冷静であり、体力を温存しながら布団の中に籠り隠し持っていたスマホを使い近況を記録していた。


(電波があるという事は、少なくとも蒼空町の敷地内からは出ていない。連れていかれる時に目隠しをされていたからわからなかったが、階段を下がっていくような感じがあったからここは地下シェルターの様な場所なのだろう)


利害関係とはいえ小坂に下手なことをされ素性がばれるのはまずいとともったので、消音設定にしてメッセージを送り彼に勝手に行動しないように伝えた。


(さて、ここからどうしようか。イ・チャンスウも私と同じかもしくは何かしらのゲームに参加させられている可能性がある。脱出しようにも私はこの場所の事を知らないし、見張りもいるし、武器を持っている可能性も捨てきれないからまず脱出は不可能。となると運営側から何かのアクションを起こすのを待つしかないのか…)


阿久津は待って機会をうかがう方を選び大人しくしていた。


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