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第14話「現代のコロッセオ」

4月から始まったサバイバルゲームもついに3か月目を迎えようとしていた。

参加者は30人までなり、生き残った清志は優子と協力しながら生活していた。

その様子を富裕層の権力者や資産家達は衛星カメラ・隠しカメラ・監視カメラを使いって観ていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――― 


「あの男根性がないな。アイツはまだ生きているか」

「今の若い奴は根性がないと思っていたが意外に頑張るなあ~」


都会のパーティー会場を貸し切って、撮影されたデータ。生中継されている各参加者の生活の様子がスクリーンに映し出されていた。それを見ながら酒を飲み彼らは愉悦に浸っていた。


「ほお~♪ やっぱり女性は若いのに限るなあ♪」

「いえいえ、少し年を重ねていった方が…」


こちらでは隠しカメラで盗撮した女性参加者の着替えや入浴シーンを映していた。モデルのアリスや、ギャルのあずさ、子持ちの未亡人である優子は特に人気で会った。


彼らの様子を奥から見ていた山内と秘書の男性は満足げに見ていた。


「先生方に好評ですね」

「忖度無いリアルを映しているからなあ。虚偽でまみれた汚れ芸人共のバラエティとはレベルが違う。女遊びやギャンブルに飽きた方々にとっては最高の娯楽だろう」


国会議員・山内茂は秘書が先生と呼んでいる権力者達が満足している様子を見て不敵な笑みを浮かべていた。そしてとあるメールを『せらぎねら☆九樹』に向けて送った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


山内茂は国会議員に就任後、低所得者に対するベーシックインカム制度の救済策を提案したほかに近年増えつつある、ユーチューバーを含めた配信者全員を【公共発信者】という名前で公務員にする方策を出したことが有名である。


「今や配信者はただゲームをやるだけではなく多様なメディアへの対応性、これまで評価しずらかった分野の発信につながっております。これは我が国にとって革新的かつ必要的な立場の人間だと認識し、彼らの活動をバックアップすることがこの国の未来を豊かにすることだと考えております」


無論この言葉は本心ではないが、これまで政治に興味のなかった若年層を取り入れるため、そして自分の取り扱う資金の預かり場所として欲しかったからである。


山内はその気になれば1000万単位の金を集めることが出来る。だがそれらの資金は表沙汰にできないし、不正に動かせばゴシップに飢えている報道関係者に騒ぎ立てられるのは間違いない。

 だからこそ山内は自身の親戚や手中にいる連中を各分野の経営責任者に置いて、政治資金の出所をわからなくし、マネーロンダリング(資金洗浄)の場として生かすため勢力を広げる努力をしていた。


かつて自分の親戚を使って設立したカルト教団のように、山内は『どうやって楽に資金を集めるか、そしてその金の隠し場所を作るか』を考えており、自然に金が集まる場所を利用して自らの活動の寝床にしていくのだ。


「配信者と視聴者は言い換えれば教祖と信仰者の関係に近いものがある。自身で現実にできないことを信じている相手に願い、布施をする。この仕組みがあるから配信者になる者が後を絶たんのだ。自分を無条件で肯定し、金を落とす輩がいるのだからな」


配信者も今や芸能事務所を建てられるほど認知度が高い。ならばそれを利用しない手はなかった。山内は配信者のいる芸能事務所を統括する責任者を配置させ、彼らを公務員化させることで支配化に置いた。無論反対意見もあったが、社会的信頼度のある立場にする事、安定した生活のために社会保険等の福利厚生を手厚くするなどの策によって配信者達は政府に従わざるを得なくなった。


配信者達はこれまでの動画のジャンル・方向性を変える事はしなくていいが、政府が新たに作った【配信庁】から出された【奉仕配信枠】の規則に乗っ取り、社会的奉仕活動をしている動画を月に1度出すことが決まりとなった。


主にゴミ拾いのボランティアや、人材不足になっている職場のお手伝いなどを撮影して投稿する。そうすれば必要な労働力の確保になり、配信者達にとっては動画のネタになるので利害の一致により行われることが多くなった。


そして公共配信者の統括者というのが『せらぎねら☆九樹』なのである。彼は現在のユーチューバーのトップであり、配信者達の王なのである。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


―公共配信者スタジオ内


「今日は一大イベントだ! 政府の方々直接ご覧になられる! 飽きさせないようにするんだぞ!!」

「「はい!!」」


配信者達は全員、真剣な眼差しになりながらVR空間でイベントを始めていく。月に1度開かれる配信者達による対決イベントである。

VR空間に作られた競技場で配信者達は罰ゲーム付きクイズ対決やチャンバラを行ったり、サバイバルゲームをしたり、高所の鉄骨渡りなどの催しを行う。


「そこだ撃て―!」

「早く進めええ!!」


観覧している政府関係者は彼らの競い合う姿を見て楽しみ、愉悦と安心を得るのである。



「お前が言っていた〈コロッセオ〉の話は案外的を得ているな」

「はあ」

 特等席で観覧している山内はせらぎねら☆九樹に話す。

「古代ローマでは民衆の娯楽目的のため闘技場で剣闘士同士、もしくは猛獣と戦わせていた。それにより民衆の快楽を満たしコントロールしたともいえる。故にだ、動画サイトが現代の〈コロッセオ〉で、配信者達は剣闘士。誰もが彼らのくだらぬ催しを娯楽のために観れる。これを利用しない手はないな」

「そんな事を考えれるのはあなただけだ」

「わしの考えに賛同し、協力したお前こそな」

「政府に歯向かう程私は強くないですよ」

「そういう所があるからお前を選んだ。奴らがどれだけ面白い動画を作れようと、どれだけゲームがうまかろうと、先ずは大人しく考えを飲んでくれる奴を私は責任者に選ぶ。安寧を条件にな」

「おかげで将来安泰ですよ。所で例の件は進めていますか? 次のイベントに必要な事なので…」

「ああ、あの位ならわしの裁量で何とかなる。この手の場所にはわしの手ごまがいるからな」


山内はそう言ってスマホのSNSでメッセージを送った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――   


―せらぎねら☆九樹のオフィス

イベントが終了し、会社内の専用オフィスで九樹は自身の企画と動画のプロットを纏めると帰宅の準備をしていた。


「九樹さん。今時間大丈夫ですか?」

「八神さん、それに他の方々も…」


そこに八神鈴、剣崎ショウタ、蒼空つばさ、ジェーン・ステラ、佐藤一郎の5人の配信者が訪れた。


「どうしました?」

「どうしましたじゃねえ! 俺達はいつまで政府のご機嫌を取り続けなくちゃならねえんだよ!」


活動歴5年で登録者89万人のベテラン配信者の剣崎が険しい表情で九樹に食いかかる。彼はせらぎねら☆九樹の事を嫌悪していた。コツコツ努力をして来て、ようやく安定して楽しく活動したところに、年下の彼が自分の上司のようになり活動を管理しているのが嫌だった。


「大体お前あのいけ好かないジジイの相手をしてるけどよお! お前政府に媚びて何か裏でやべー事してるんじゃねーのか! じゃなきゃあんな短期間で登録者を増やせるわけないだろうがよ!」

「…だとしたらなんだとうのですか?」

「何!」

「私は私なりに動画を作っていて、それが評価されただけにすぎません」

「てめえ!」

「よせ、剣崎」


剣崎の先輩である八神が制止させる。


「…我儘かもしれないけど、みんな今の状況に不満があるし、以前の様な活動が出来ないって悩んでいる子もいるの」


蒼空つばさはアイドル配信者をしており、現状は安定した生活をできているが自由な活動が難しい現状になっている事を伝えた。


「状況は皆公平なのですから何ともいえないですね」

「これからもずっとこの状況で活動していかないといけないのですか?」


そう言って不安そうな佐藤に九樹はこう答える。


「別にフリーの配信者になっても構いません。ですが、今の生活をを捨てて食べたいものも食べれない不自由で惨めな生活を送るのは確かです。それでもいいなら止めもしませんが…」

「痛いことをついてきますネ」


配信者になる前、貧乏生活をしていたジェーン・ステラはかつての貧困状態を思い出し苦虫を潰した表情を浮かべる。


「反抗など考えない方が良いです。少なくとも公務員である以上、態度が良ければ安定した生活を送れるのですから。それでは私は失礼します」


そう言ってせらぎねら☆九樹は部屋から出ていった。


「俺はあいつのことが本当に嫌いだ…! 答え方もまるで政治家みたいな口調でこっちを馬鹿にしているようで腹が立つ!」

「…仕方ない、他の方法を考えよう。政府に監視されている限り俺達に制限が無くても自由なんてないだろうしな…」


そう言って5人はそれぞれ自分の活動に戻った。



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