6月30日。生き残り結婚ゲームにて勝ち残った参加者が月末に生活費を払いこれからの生活に向けて計画をするもの。目的のために行動をするものそれぞれが活動し始める。
ペアの生活を始めて10日程たった7月3日。
清志と優子は稀に来る秋穂と話をしながらサバイバルゲームの日々を過ごしていた。
「7月というのに日中は熱いですね」
「クーラーがあるからいいけどずっとつけていたら電気代がかかるわよね」
「切り詰める所はしっかり決めましょう」
2人で今後の予算の話し合いをしていた。
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男性同士でペアを組んだ桝谷と島雄次は公園で話をしていた。
「ますちゃん。まさかこんなところで再開するなんてな」
「ああ、ゆうちゃんとはしばらくぶりだな」
缶ビールを片手に公園のベンチに座り話をしていく。
「もう現役を引退しているのにまだ衰えていないんだな」
「ああ…。わしの立場じゃなきゃできないことがある。このサバイバルゲームの闇。富裕層への癒着。現役の警察はたどり着くこともできないだろう。だがワシはもう何者でもない」
桝谷は缶ビールを飲み干す。
「山内はこの件に関わっている。奴によって汗水流してやっと得た捜査の結果を捻じ曲げられた…。奴の出世の為に利用された同房は多くいる」
「そのためにわざと消費者金融に借金をして参加したのか?」
「ああ。感が正しければ奴、もしくは奴と癒着している奴らが必ずここに来る。表では尻尾は出すまいが、ここは裏。奴のガードが甘くなるはずだ」
「まだ、【紫龍院事件】を追ってるんだな…」
「うやむやにされたが、ワシはあきらめていない」
【紫龍院事件】
12年前に桝谷が現役警察だったころに担当した事件の1つで、カルト教団・紫龍院聖神教により多数の被害者が出た宗教詐欺事件である。
インターネットが普及した時代、ホームページで信者を集め宗教法人団体を作り信者と信者の家族、更に近辺の人間までも巻き込んだ事件であった。
その被害額はおよそ2000億と言われており、信者には企業のトップや、資産家の人間も多くいた。
教祖である・
またその当時は不景気に見舞われており、信者も藁をもすがる思いで信者になったのだろう。紫龍院は経営者に資金援助をしており、その代わりにお布施を必ず徴収する約束をしていたという。更に彼らに悪徳なマネジメントもしており、
「経営者とは組織のトップ、すなわち神です。だからこそあなた達の言葉は絶対でなくてはならない。社員を大事にするのではなくもっと粗末に扱うのです。金を貢ぐことが正しい行いであり、そのために行うことは神の名の元許されるのです」
この言葉に感化された信者の経営者は自身の抱える社員に対して横暴を行うようになり、パワハラ・モラハラにあたる行為が急増したと言われる。
当然そんなことをしても増える利益は一時的なもので、社員はいなくなり会社の評判は悪くなり倒産する。そうすると今度はそれが神の与えし運命であると紫龍院は妄言を吐き、
「破壊は創造の始まりに必要不可欠なのです。なのでこれはあらたな事業を始めろという神の啓示なのです」
悪魔の様なささやきで信者に闇の借金をさせてまで運営資金を集めさせ、更に売り上げの9割はお布施としてささげよという異常な状態だった。
そこまでして店も失い借金しかない信者がおかしいと気づき、ついに事件へと発展した。
被害者数200名、被害総額2000億の詐欺事件として捜査が開始された。しかし、被害者である信者が『自分の意志でお布施をしたのであって、紫龍院はお金を渡すように強制したわけではない』という点が詐欺事件として扱われるかどうかで難航し、被害者が泣き寝入りするかもしれなかった。
だが、桝谷と捜査チームの努力の末に、紫龍院が信者に無理やりお金を借りさせていたことの証拠を集め、紫龍院を恐喝の容疑で逮捕する許可が降りた。しかし、紫龍院はその前に信者の家族によって刺殺された。
信者の借金によって会社はつぶれ、家庭は崩壊。その娘は大学へ合格したのにそれもできず、人生を狂わされた恨みで紫龍院を殺したのだ。
その娘は現行犯で逮捕され、紫龍院事件は一転してその娘へ捜査対象が変わった。彼女は罪を認め、すぐに裁判にかけられた。懲役12年、執行猶予3年。殺人を犯したにしては軽い罪だが、彼女の事件を起こした背景に同情できる部分があり、また若く更生の余地有と判断されたためだった。
世間では彼女に同情的な意見や、英雄的な意見が出たが警察関係者や被害者はそうではなかった。
紫龍院が信者からだまし取った2000億もの大金がどこへ行ってしまったのかわからないままになったからだ。彼や関係者の自宅を調べたが、見つかったのはたった5172万だけだった。なら残りのお金はどこに行ってしまったのか? 散財した金は戻ってこないが、銀行に預けたわけでもなくかといって教団の幹部に全てを預けていたとは思えない。
桝谷は改めて紫龍院の人間関係を洗いなおした結果、ある人物に注目する。
国会議員・山内茂。彼は紫龍院と親戚関係にあり、事件に起こる数年前から何度も会っていたという証言、何より教団の立ち上げから彼の周りの政治家の資金繰りが上手くいっていることが恐らく何か関係があるのだと感じた。
桝谷は山内を調査しようとしたが、上司から【紫龍院事件】の捜査を打ち切る命令が下された。
「どうしてですか!? 山内は絶対この事件の鍵を握っているはずなんですよ!!」
「だとしてどうする? 相手は国会議員。我々が守るべき立場の方だ。それに紫龍院が亡くなり教団も解散。奴を殺した女も法で裁かれた。これ以上なんの真実がいる?」
機械的に話をする上司に桝谷は感情的に吠える。
「被害者はどうするんですか!? 金を失い、今日食べるのも困っている! 被害総額の2000億だってほとんど取り戻していない!」
「とにかく、もう捜査は終わった。上が終わったというなら、我々もそれに従い、終わらせるしかない。山内議員が黒じゃなくてもグレーであったとしてもだ! 」
「被害者の無念を晴らさずに、納得のできないまま終われというのですか…!」
「我々の仕事は空想世界にいる弱気を助ける正義の味方の様なことじゃない。法治国家の指示に従い治安維持をすることこそ我々の仕事なんだ。被害者ではなく、我々の最大の相手はあくまで司法! それをしっかり頭に入れておけ。感情的になって馬鹿な真似はするな」
上司は冷徹ながらも悔しそうな表情を浮かべ桝谷の前から去っていった。
桝谷はそれから独自で山内と紫龍院事件の事を調査していた。
危ない橋も渡ることがあった。定年退職した今も調査を続けていた。そしてこのサバイバルゲームの参加にいたったのだ。
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「わしはもう長くない。だがあの事件の決着を納得する形でつけたいんや…」
「執念っていうのは恐ろしいねえ…」
「ゆうちゃんこそ、ワシにわざわざ付き合うことはないやろ」
「友達じゃねえか…。部署は違えど共に悪党を狩り続けた」
「ありがとうな…」
島は桝谷と缶ビールで乾杯し、お互いに生き残ることを誓いゲームへの参加意思を強めた。