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第11話「清志のパートナー」

6月25日。ゲーム終了まで後5日となった。

清志は1人、部屋の中で寝ころんでいた。


「あずささん行っちゃったなあ…」


先日の事、改めてあずさにペアになってもらうよう頼もうとしたがその前にあずさが清志にペアが出来たことを言ってきた。


『悪い。アンタとは今までシェアルーム生活してきたけど、予定が変わってな。アイツとペアに組むことになったんだ。今日でお別れだ』


そう言って参加者の淀川葵とペアを組み市役所に向かった。出来上がったペアは現時点で13組、後2組しか枠が無い。残り参加者は7人。その中で生き残れるのは4名。3名が失格になってしまう。


「こうなったらダメ元で話しかけてみるしかない…!」


清志は残る参加者に声をかけに行くために部屋を出て外出した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


公民館に行くとそこにはかつて自分に声をかけてくれた洋子が参加者の太田真とペアを組んで書類申請している所だった。


「洋子さん…」

「ああ、清志君! ごめんね、私太田さんとペアを組むことになったわ」


洋子いわく、太田が動画投稿者として頑張っている話を聞いて一緒に話をしていた所互いに意気投合しペアを組むことを決めたそうだ。


「清志君もよかったけど太田さんとの方が良いと思ったの。期待させておいてごめんね」

「いえ、大丈夫です…」


口ではそう言ったが内心は焦っていた。もう後1組分しかなく残り5人中2人しか選ばれない。つまりこの時点でペアを組まなければ失格。組まなくても30日に強制的に失格。清志は洋子と太田が出ていくのを見て、まだペアを組んでいない参加者を見て話を掛けることにした。


まだペアを組んでいないのは東雲優子、川崎圭太、狭山保、須鴨恭一郎と清志を含めた5人。


「あの、大変厚かましいのですが。娘のことが心配なのでどうしてもペアが必要なんです」

「それはこっちだって一緒だ! 失格したら折角の借金チャラも意味なくなっちまう!」

「5億円は欲しい。ならもう男同士でもいいよ!」


川崎と狭山は優子の申し入れに反対し、生き残りたいと本音を吐く。


「わしとしては優子さんがペアならいいんだが。お前たちはまだ若いから失格してもまだやり直しがきくだろう…」

「ふざんけな! ジジイ、あんたこそ生い先短いんだから若いオレらに譲れよ!」


もはや収拾がつかない話し合い。清志も自分が生き残りたいし、優子については秋穂の事を知っているので何とかしてあげたかった。なんとか皆が納得する方法で解決をせざるを得なかった。そこで彼はある方法を思いついた。


「あの、皆さん。提案があるんですがいいですか?」


清志は皆にそう言ってあることを提案した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


清志はしばらく皆を待たせ、小さな箱と5枚紙を持ってきた。


「このまま言い争っても時間だけが過ぎていくだけです。この箱の中にボク達がそれぞれ組みたいペアを書いて、あの方に1枚引いてもらいそのペアが登録される」


引いてもらうのは市役所の受付である。彼は「早く決まるなら仕事も楽でいい」と受け入れている。


「運任せで決めろってか!」

「だけどこの中で好きな人と組めるメリットがあります。言い争い続けるより遥かに建設的だと思います」

「私は構いません」


優子はそう言って用紙を受け取る。他の面々も渋々清志のアイデアを受け入れ用紙を手に取り自身の名前とペアを組みたい相手の名前を書くと小さく折って箱の中にいれた。


「では混ぜたら引きますね」


受け付けは箱を軽く振って混ぜると中から紙を1枚引いて、その中のペアの名前を発表する。


(頼む! 当たってくれ!)

(神様!)


皆が祈る中、受け付けは発表する。


「清志と優子ペアです」

「やった!」


 選ばれたのは清志と優子のペアだった


「ふざけんなインチキだこんなの!」

「やりなおせ!」

「もう決まったことだ」


他の3人は清志に言いが買ってきたが、騒ぎを聞いていたスタッフに取り押さえられて失格にされた。


「ではペア成立おめでとうございます」


受け付けは清志と友子にカギを渡してボーナスである5万円を渡した。


「…清志君。色々あったけどこれからよろしくね」

「こちらこそお願いします。なんとかゲームをクリアできました」

「ホントにおめでとうございます」


受付の男性も喜んでいた。

実はあのくじ引きは受付と清志のグルだった。あらかじめ清志は箱の内側に自身の名前と優子の名前が書いた紙を張っており、受付に3万の賄賂を渡して皆が入れたらそこに葉ってあるくじをとって引いたかのように見えて欲しいと頼んでいた。

清志は勝つべくして勝ったのだ。生き残るために初めて知略を使った。だがそうでなければこの先とても生き残れない。


大自然の厳しさの代わりにこの町にあるのは人間同士の生き残りたいという欲望の悪意。それを利用したモノだけが生き残れるのだ。


清志はアパートの部屋に残った私物を纏めるとすぐにペアで生活するマンションへと移動した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


マンション『リッチブリッジ』。

部屋は3つあり、リビング、風呂、トイレ、家具もついているこれまでのアパートが嘘のような破格の居住であった。


「今日からここが私達のおうちね」

「そ、そうですね」


優子の笑みに思わず清志は照れて顔を隠した。

6月も終わり新たな生活が始まる。


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