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第10話「ゲームの裏で」

―特設会見所


「明らかに不要な3000万の使用についてどう責任を取るんですか!?」

「えー…。原因追求と主にこのようなことが起こらないよう対策を検討している中でして…」

「謝罪をしろ謝罪を!」

「無論に皆さんに納得できるよう真摯に対応を…」


会見にて謝罪する国会議員の山内茂。


(クズ共が…。たかだか3000万くらいのはした金でうるさく吠えおって!)


胸の中で毒づきながらも山内は会見を終えた。


山内茂は国会議員である。派閥の1つ『日本の未来を考える会』のリーダーであり、次期総理大臣の座を狙っている野心家である。

政治の世界に入るため、幼いころから成績は常にトップであり、東大を合格した後は親戚の政治家の下で下積み生活をして、県議員を10年程務めた後国会議員で自身の派閥を作り多くのライバルを蹴落としてきた。顔は気苦労により実年齢より老けており、白髪を気にしているのか白髪染めを使って髪を黒くしている。


彼は秘書に予定を聞いた後とある場所に向かった。


―――――――――――――――――――――――――――――――― 


―某・レストラン


そこは予約制であり、個室があるので会社の商談や学生サークルの合コン、カップル同士の食事などによく利用される。料理の値段も良心的なので人気のレストランである。


「せらぎねら☆九樹さん、お久しぶりです」

『やあ、視聴者の様子はどうかね』

「好評ですよ。まさかあんな内容であそこまで喜ばれるとは思いませんでした」

『そりゃそうさ。彼らはあらゆる娯楽を楽しんできた。だからこそ日常に隠れた非日常。そこに隠れた見えない暴力を好むのさ』


個室内でせらぎねら☆九樹とノートPCを使いリモートで会話をしていた。最初に直接会ってから、個人情報を守りたいという九樹の希望でリモートでのやりとりで情報の交換をしあっている。レストランの予約も後から来るという事で2人分の予約をして、料金は九樹が2人分払っている。


『国会議員さんも大変ですね』

「国民はワシらを給料泥棒だの無能の集まりだのいうがな。政治ってのは複雑なんだよ。誰かが1人勝ちしてもいけないし平等には絶対できない。そのうえで国民の生活を守るための最低限のボーダーを守らなきゃならないから本当に嫌になる」

『山内さんはその上出世したいからなおさら大変でしょう』

「舐めるな。ワシは『国民の生活を良くしたい』だの『全ての人間に平等な政治』だの不可能なたわけたことを言う雑魚共を蹴散らしてきた。そんな綺麗ごとが通じるような世界じゃない。どれほど汚かろうと【国家】という枠組みが壊れないよう人並み以上の働きをするのが政治家なんだ。はっきりいってニュースに出るような居眠りしそうな会議など、あんなのは政治家の仕事じゃないから気を抜きたいんだよ。最もワシらに批判する奴は批判しかできないから無視するがな」

『随分自信がありますね』

「自分達を権力者と勘違いしている番犬以下の警察の犬っころ共をワシらはいつでも動かせる権限がある。警察だけじゃない、検察官や自衛隊、果てには裁判官を含めた司法。奴らはワシらの権限を使えば市民の1人や2人、いつでも社会から孤立させられる。社会からの孤立は言わば死んだも同然だ。その力があることを知っているから批判で終わっている。逆らえば敗北することを知っているから批判で終わっているんだ」

『怖い怖い』

「こんなワシと手を組んでいる貴様の方が不気味で恐ろしいがな。利害関係とはいえ、政治家と手を組もうとするやつなど普通はいない」

『お互い手を組む理由があるからでしょう?』

「ああ。裏社会や宗教の連中は出来るだけ頼りたくないからな。ワシらを含めた政治家は正直言って正当な手段で資金を集めたい。完全は無理でもできれば表社会の人間の協力を得たい。今はワシらが少しでも間違いを起こすとすぐ広がるからな。元からない信頼が無くなったら流石にまずいからな」

『信頼されてないって自覚してるんですか?』

「政治家は信頼されない。事実を根本ずらして曖昧な表現をすることが自分の身を守ることであり、組織を守ることにつながる。その姿勢が国民に信頼されないことがわかっているが、そのために信頼されないのは仕方のないことだと思っている」

『まあ、あんたが欲しいのは国民からの信頼じゃないですからね』

「そうだ。ワシが欲しいのはその上、労働階級の上、企業のトップ達すら支配する富裕層。今の政界のトップにいる方々だ。彼らから信頼されることが出世への近道だ」


出世に必要なのは何かを山内は理解している。それはテストで100点を取れるだとか、金メダリストだとかではない。組織のトップたちに置いて『有益な存在』であるかどうかだった。若手・中堅議員が国民の為の政治改革や新しい社会の在り方を議論・討論している中で政界トップたちの活動のためにライバルにあたる派閥を蹴落とすのに必要な情報を根回ししたり、活動資金を調達したり、彼らの退屈を解消させるための娯楽を提供して彼らからの評価を得ていた。


『優秀ではあるが、超えもしなければ絶対に裏切らない。自分たちのいう事を聞く無能なリーダー格』


トップにいる彼らにとって恐れているのは地位からの陥落。だからこそ自分は敵対せず味方であることを示すため、彼ら信頼を得るべく危ない橋を渡るような仕事、国民からの批判の受け皿、政治資金の調達を行ってきた。


そしてついに次の選挙で総理大臣候補になるまで力を蓄えることに成功した。そのために協力者となったせらぎねら☆九樹にも感謝している。


彼が富裕層向けの娯楽のアイデアを出し提供してくれるため、より一層信頼を得た。

権力・財力を極め、社会の頂に立つ彼らは娯楽に飢えている。パーティー、キャバクラ、カジノを飽き飽きしているほど行い、常に新しい刺激に飢えている彼らに九樹の企画は画期的だった。金を得た一般人が賞金の為にうわべだけの信頼を積み上げ、潰し合い、争っていくのを見ている彼らはとても満足な表情を浮かべていた。


「案外、トップに立っても人間性というのは変わらないのかもな。あのような余興を求めるあたり」

『古代から変わりませんよ。ローマ市民がコロッセオでグラディエーターの決闘を見て楽しむように、時代が変わっても形を変えても闘争の中、苦痛の内の【暴力】こそ人々にとって最大にして最高のエンターテイメントなんですよ』

「…この世から暴力が無くならんわけだな。娯楽はどんな人間も求めるからな」

『空想の中の暴力位は許容しましょうよ』

「…娯楽が無いのも味気が無いからな。次の予定は決まっているのか?」

『ええ、とりあえずイベントを挟んで、奇数になったら例のゲームをやる予定です』

「あれは人気だからな。頼んだぞ」

『ええ、では失礼します』


リモートを切り九樹との会談を終えた。


「後は辻褄を合わせるだけか」


 事前に連絡していた部下を会議を理由に呼び、個室を2人使ったことにすることでせらぎねら☆九樹の存在を霧に隠すようにする。こうすることで互いの関係を周囲に知られないようにし弱みを握られないようにした。


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