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第9話「パートナーを探せ」

生き残り結婚ゲーム開始から3日。市役所に2組のペアが現れた。


「書類の受理をしてくれ」

「は、はい!」


まずは阿久津と小坂のコンビ。2人はそれぞれの利害関係でペアを組むことになり、書類が受理されると1万円のボーナスがと部屋の鍵が与えられた。


「お願いするわ」

「了解しました」


2組目は東雲秋穂と黒江アリスのコンビ。2人はシェアルーム生活で親交を深めて互いに異性とペアになるのは嫌なので互いの意見の一致でペアを組むことになった。

書類が受理されると10万円のボーナスと部屋の鍵が与えられる。


残り13枠となり参加者達は必死になってペアとなる相手を探していた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


清志はあずさとコンビを組もうかと思っていたがあずさの初日の対応を見てあまりいい感じではないだろうかと思い声を掛けれずにいた。悩んでいても仕方ないと思い散歩に出かけた。


「ペアを組めなければ失格。最悪男性同士でペアを組めるかどうかだけど…」


男性と女性の異姓ペアでなければいけない分ましな用に思えるが、参加者の男性の殆どは女性参加者と組もうとしている。ただでさえ閉鎖的な空間で娯楽も少ないので異性と組んで少しでも和みたいのもあるのだろう。


考え事をしながら歩いていると公園についた。

木々が植えられ緑が広がるこの町で数少ない癒しの場だ。そこで休憩しようとしたとき、参加者の1人、中井洋子が現れた。


「おはようございます」

「あらおはよう」


細身ながら鍛え上げられた肉体をしている。このゲームに参加するような感じには見えなかった。


「ちょっと話さない?」

「え、あっはい」


洋子はそう言って清志を連れて公園のベンチに座る。


「私達はこのサバイバルゲームのライバル同士だけど、なぜか君には話せそうな気がするから」

「はあ」

「まあ、きっと何か理由があって借金したんだけどさ。私も借金がどうしても返せなくてこのゲームに参加したんだよね」


そう言って洋子は清志にこれまでの経緯を説明する。彼女は元プロレスラーで、怪我で引退した後は飲食店を経営して生計を立てていた。

しかし流行り病の流行、食材の物価高で経営が上手くいかなくなり、元々集客もプロレス仲間や後輩がほとんどだったので赤字により借金が膨れ上がっていった。

従業員に給料は払わないといけないので消費者金融に手も出したが、破産寸前になり金融会社のツテでこのゲームの話を聞いて飲食店の経営を続けるために参加したらしい。


「店は事前に暫く休業することを伝えているけど、必ず賞金を得てもう1度立て直して見せるわ」

「凄いですね。物価高で多くの飲食店が敬遠破綻をしているっていうのに」

「そうね。だけど私の店に来てくれた友人や後輩達の為にも続けていきたいのよ。だから私は絶対に生き残る」

「…」

「えっと…」

「ああ、ボクは伊藤清志です」

「清志君ね、私は中井洋子。話を聞いてくれてありがとうね」

「いえ、ただ散歩していただけなんで大丈夫ですよ」

「ありがとう! それじゃあお互い頑張りましょうね! それと、もしペアを組めなかったら私でよければいいからよろしくね!」

「あ、はい…」


そう言って洋子は去っていった。


「皆色々な目的で参加してるんだな」


清志も人生を変えるために参加しているが、参加各々に目的があることを改めて知ることが出来た。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


「なあ、あんたがイ・チャンスウか?」

「そうだが?」


小坂はイ・チャンスウに声をかけていた。イ・チャンスウはペアを組みたい相手がいるようだが難航していおり、小坂はその相談に乗っていた。


「チャンスウさんは美形だから声かけりゃすぐじゃないですか?」

「だろう? これでも故郷にいた時は俳優に間違われることもあってさあ~」


小坂のおだてに乗りチャンスウは簡単に気をよくして彼と意気投合し家に連れて行った。


「それにしてもイ・チャンスウさんはなんでこのゲームに参加したんです?」

「ああ~。外で色々あってなあ~」

「よければ教えてくださいよ。酒奢りますから」

「仕方ねえなあ」


イ・チャンスウは小坂に酒をおごられ気を良くすると話始めた。


「ちょっと仲間と約束でなあ。しばらく世間から身を隠すためにこの大会に出たんだよ」

「世間から?」

「ああ」


酒を飲み彼は淡々と語り始めた。

イ・チャンスウは経済的に豊かな家庭に生まれ、韓国の受験戦争を勝ち残り、将来は大企業に就職し安定した生涯を送るはずだった。しかし近年の他国との関係悪化による経済の退行とそれによる仕事の激減により就職活動は難航し、どの会社を受けても不採用だった。

家に居ずらくなった彼は日本に渡り成功しようとしていた。自分の学歴ならば日本でも通用すると自信があった。だが日本も就活は難しく、高慢な性格と仕事に対する不誠実さが足を引っ張りバイトですら長続きせずイ・チャンスウは生活に困窮し、社会制度を利用して生活保護を受けて生きていた。それにより衣食住に困らなくなると調子に乗りはじめ、自身の頭の良さと容姿の良さを使い、マッチングアプリで異姓との交際を求めている女性を垂らし込み、恋仲になると結婚を前提にという理由でお金を借りたり貢がせるようになった。

 彼が特に悪知恵を働かせていたのは、交際するのは30代、もしくは40代の女性だった。結婚願望があるが、理想が高くて婚期を逃し続けた者達を狙っていた。彼女達はチャンスを逃したくないと必死でなんでも要求に応えてくるだろうと考えていた。特にお人好しな日本人であるならなおさらそうすると。

 数10人もの女性と交際し、金を貢がせていていたが協力していた仲間のミスで複数相手に交差していたことがばれて結婚詐欺で起訴されかけた。


しかし、裁判は行われることはなかった。被害者である女性達はイ・チャンスウとあくまで恋人として付き合っていたので、詐欺と判断するまでには至らない。あくまで恋愛のもつれとして扱われた。



「そんで俺が女たちから貢いでもらった金は仲間に行ってある場所に隠してある。だが弁護士が俺をしつこく追っていて、取りに行けねえ。だからしばらく身を隠すために知り合いのツテでこのゲームに参加したんだよ。金貰ってただで家に泊まれるしな」

「どれくらい貢いでもらったんですか?」

「ざっと2億かなあ~」

「2億!?」

「まあ、中には金持ちの女もいたしなあ。俺が日本で店をやりたいって嘘ついたらお金をくれたし、まあほとんど使ってもう1億くらいしかねえが、今日本で暮らしている仲間と1年後に回収して故郷に帰る予定だ」

「でも、仲間が裏切る可能性があるんじゃ?」

「それはねえ。金は鍵付きの金庫に隠したからなあ。開けるための番号は俺しか知らないから裏切ることはない」

「はあ…なるほど」

「故郷でお金を持っておもしろおかしく暮らすのさあ! このゲームで金を得れれば更に楽に暮らせるぜ!!」


イ・チャンスウはそう言って酒をグビグビと飲んだ。


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