6月3日。昼頃に参加者達が公民館に呼び出され、スクリーンにせらぎねら☆九樹が映し出される。
『皆さんごきげんよう。今日は新たなゲームの発表があってお呼びしました』
「新たなゲームだと?」
「なんだ!? もしかしてまた現金が増えたりするのか!?」
『まあ、場合によってはとだけ今は言っておきましょう』
不敵な笑みを浮かべ九樹はスッタフに指示を出し15枚の紙を出す。
『6月と言えば結婚が多い。ジューンブライドを迎える方も多いでしょう。それにちなんで皆さまには【生き残り結婚ゲーム】をしていただきたいと思います…!』
「生き残り結婚ゲーム!?」
『はい、このゲームはあなた達参加者の今後に関わるゲームです』
せらぎねら☆九樹による説明が始まる。
現在参加者33名で2人ずつのペアを作ってもらい、婚姻届代わりにペア成立の届を市役所に出してもらうゲームである。
ペアは今すぐではなく6月が終わるまでにやってもらい、ペアを作れなかった3名が失格になるゲームである。
ペアを成立させた場合ペアの状態によってボーナスが支給される。
女性同士なら10万円、男性と女性のペアは5万円、男性同士は1万円。
『とにかくペアを作って書類を市役所に持ってくることだ。クリアすればボーナスも支給されるし、住んでいる場所も専用の施設を提供しよう』
せらぎねら☆九樹はスクリーンにまだ使われてないマンション施設を見せる。
『ここは家族を対象に作られた居住施設だ。家賃は8万だがペアで住めば手持ちの金を合算して使えるし、勝ち残る確率もあがるだろうな。もっともペアを組めるのは15組だけ。選ばれた30人だけが先に進める。だがペアを組めなければ6月30日時点で失格となる!よく考えることです』
「つまり予定では30人が勝ち進めますがパートナーがいなければ30人以下の状態にもなり合えるという事ですか?」
『そうですね。まあこちらもサバイバルゲームと言っている以上間引きするためのイベントも行うのは当然なのでね』
阿久津の質問に九樹は冷静に応える。
『ペアを組んだらその後は2人で同居してもらうのでそのつもりでいてください。では皆さんご検討を祈ります』
そう言ってせらぎねら☆九樹は説明を終えた
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せらぎねら☆九樹の解説の後、参加者達は一切に女性参加者に声をかけ続けた。
「なあ優子さん! 俺とペア組んでくれないか!?」
「あんたを見た時から素敵だと思っていたんだ!」
「そんな、いきなりいわれても…」
説明後に必死にアピールする男性達に優子は困惑していた。
「なあ、日本に来て色々困惑しているだろ!」
「わからないことがあったら教えるからさあ!」
「ハア…」
外国人参加者のマルガリータ・フェルスキーに群がる男性参加者も多く、マルガリータは困惑している様子だった。
「全く浅ましいもんだね」
「はあ」
その様子を見てあずさは呆れた様子だった。
「あんたはどうするの? 私はまあ他に居なければいいけど…」
「まあ、30日までに何とかするしかないですけど…」
正直言ってペアを組むと言っても中々難しい。今まであずさと共同生活していたのもあったが、いざ最後まで一緒になるって言うとためらってしまう。そもそも男子ばかりの工業学校にいた清志に女性と組むという経験が無かったのでどうすればいいのかわからなかった。
「あれ…?」
ふと周りを見渡してあることに気付いた。先ほどせらぎねら☆九樹に質問していた阿久津がいなくなっていた。
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公民館を出た阿久津は小坂を連れて公園である人物と話をしていた。
「久しぶりだな小坂」
「阿久津さん…! 何ですかいきなり!」
「5年前以来だな」
「あの、今更何の用で…」
「君と手を組みたいと思っている。私とペアを組んでくれ!」
「なんでオレと!? 男同士だなんて嫌ですよ!」
思わぬ話に小坂は動揺する。
「まあ、ある人物に近づいて調べて欲しい。細かいことがあればこのノートに書いて渡してくれ。後これも貸す」
『交換日記』と書かれたノートとボイスレコーダーを手渡す。挟まれた紙には互いにやり取りするタイミングとやり方の説明が書かれている。
「何でそんなことを…」
「金に困ってるんだろ? 働きが良ければ私の金から報酬をやる」
「ええ!?」
「金に困ったらお前は間違いを犯すからな…。それにどの道女性と組むのは無理だと思う。組めなければ即失格だぞ」
「うう…」
阿久津は小坂の事をよく知っていた。かつて小坂が起こした窃盗事件の弁護を担当したことがあったからだ。小坂は中学生の頃に犯罪を犯し、少年院を出た後は保護先で働いていたが雇い主とトラブルを起こしやめた後はバイトで食いつないでいた。
だが、金が無くなりアパートを追い出された後女子学生を相手に暴力を振るい金を奪う強盗事件を起こした。
その時小坂は弁護人として阿久津に依頼した。前科のある自分がまた罪を犯したとなればきっと懲役刑になる。自分は窃盗せざるを得なかった。悪いと思っているからせめて執行猶予が欲しい。身勝手な考えだが、何度も罪を重ねると後悔以上に自分を許してくれてもいいだろうという考えの方が遥かに強くなる。更生不可能な人間の発想であった。だがそれ故に自分に確実な利益が動く人間である。阿久津は小坂の心理を把握し仲間にしようとしていた。
「まあ、断るのならいい。私なりにロクな人生を送れない君にチャンスをやろうと思ったのだがね」
「何をっ! 金さえあれば俺だって…!」
「金があっても同じだ。忍耐も努力もできない君に人生は拓けない」
「…!」
「だが、私と組めば可能性はある。賞金5億など私は興味ないが、9:1で君が多く取り分を貰う。私が仮に生き残れば君に賞金をあげようじゃないか」
「…その話嘘じゃねえよな」
小坂は疑心杏義になりつつも自分にメリットのある話に興味を示す。
「信じるかどうかは君次第だ。だが君1人であるよりはいいとは思うがね」
阿久津は返答を委ねる。あくまでも自分は提案をしただけ、決定意志は相手に任せることで了承した後断らせないようにするためであった。
「…良いだろう。その条件で手を組もうじゃねえか。だけど金は絶対に払えよ」
「無論だ。君の働き方次第だがな」
そう言って阿久津は話を付けると1枚の写真を手渡す。
「お前にやっと欲しいのはこのゲームに参加している【イ・チャンスウ】と接触してまずは会話ができるレベルに親密になることだ」
「こいつか? なんでこいつと?」
「お前は知らなくてもいい」
阿久津はそう言って小坂との会話を終えた