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第7話「月末」

5/30日。2度目の支払いを終えて、手持ちの金は80万円台に入る。


「意外と少なくなるんだなあ」


あれから1か月過ごし体も大分この生活に慣れた。最初の内は窮屈に思えたシェアルームも今では当たり前のようになった。あずさとも異姓でありながら同居人としているのが当たり前になってきた。


4時ごろに銭湯に行き、そこでこの生活で仲良くなった原幸広と合流する。


「よお、支払いもう終わったか?」

「ああ。10万くらい払ったよ」

「そうか。俺もそれくらいかなあ」


雑談をしながら服を脱いで大浴場に向かった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


「ふう…」

女湯ではあずさがシャワーを浴びて体を清めるとお湯につかる。張りのある若い肌がお湯を弾き、流れるお湯が汚れを流していく。


「人の少ない時間に入るのは気持ちいい…。最も大浴場を使う奴なんて少ないけどさあ」


湯気が漂い水の音が響く大浴場。そこに戸が開けて、バスタイルを撒いた客が来る。


「失礼します…」


参加者の東雲優子だった。

彼女はシャワーを浴びて身を清めるとあずさの隣に座るように入る。


「どうも…」


大浴場で2人きりの状態。あずさは無言の状況にいたたまれなくなり優子に話しかける。


「あの、初めまして」

「はい…」

「今日はどうしてここに?」


優子は確か個室のアパート部屋を当てたはずだった。


「光熱費の節約でして。そのためにたまに銭湯を使うんですよ」

「そうなんですね」

「あの、そちらのアパートに娘がいますが皆さんと仲良くしておりますか?」


優子は娘である秋穂と共に参加していた。

親戚の叔父が残した借金の保証人になっており、彼の残した3000万の借金を支払うことが出来ないと判断されこのゲームの参加を矯正された。


「参加しなければ裏社会のツテで高額の仕事を斡旋すると言われましたが、ロクな仕事なわけがありません…。私はともかく娘まで巻き込まれると思ったら…!」

「まあ、確かに相手は非合法の金貸しですしね」


震える優子を見ると熟成しつつある大人の魅力と若さが残る肉体は多くの男性を魅了しそうだった。スレンダーながらも大きな胸も張りがあり子持ちとは思えなかった。奴らは彼女にどのような仕事を与えようとしたのかイヤでも想像がつく。


「正直このサバイバルゲームに生き残れるかどうかわかりませんが、私が駄目でもせめて娘は生きて帰って欲しいのです」

「…」


彼女は何が何でも子供を守りたい母親の決意ある表情をしていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


スタッフたちの宿舎で休憩していた2人が参加者の情報をまとめていた。


「でも今回はどれくらい持ちますかね。既に7名脱落していますが」


先の2名の他に5名の参加者が生活に不満を持ち脱走を企てた所を取り押さえ、既に失格処分を受けている。


「本格的に始まるだろうから、簡単に脱落するようなことはさせないだろうな。あっけなさすぎると富裕層の方々に何を言われるかわかったものじゃない。このゲームの為に彼らから資金提供を受けているからな」

「金はあるところにはあるんですねえ」

「金持ちはお金があっても心の貧しい貧乏性の持ち主ばかりだ。簡単に金は出さないから貯めるんだろ」

「そう言えば今回の参加者はどんな奴らなんです?」

「確か参加者一覧がここにあったはずだ」


《100万円町中サバイバル・参加者一覧》


伊藤清志〇    チャン・フェイヤン〇

東雲優子〇    魚住海人×

東雲秋穂〇    西森信一×

白石健司〇    佐久間林太郎×

小坂学人〇    二条奏多〇

春野すばる〇   鎌田邦広×

中井洋子〇    神木仁〇

坂下将悟〇    淀川葵〇

太田真〇     荻野紫音〇

須鴨京一郎〇   秋月美香〇

山崎好介×    竹田和俊×

黒江アリス 〇  原幸広〇

阿久津正義〇   マルガリータ・フェルスキー〇

舛谷平太〇    狭山保〇

天城あずさ〇   立花連〇

宮野次郎〇    松山綾善〇

川崎圭太〇    桐島修〇

田中明〇     三上康平〇    

村山透×     島雄二〇

イ・チャンスウ〇 大久保直美〇


計40名の名前と簡単なデータがそこに記載されている。〇はまだ参加しているもので、×は脱落者を示している。


「在日している人もいるんですね」

「出稼ぎって奴だろ。日本の賃金なら国によっては1年間遊んで暮らせるところもあるからな。近頃は不景気でそんな状態でもないが、国際情勢?って奴で治安が比較的良い日本に来る奴もいるっているし」

「外国人労働者を積極的に雇っている企業もあるし、日本人労働者はあふれるばかりじゃないですかい」

「そうもいかねえだろ。いくら働く気が合っても他国の文化に馴染めない奴もいるし、正確さを求められる仕事だと続かない奴もいる。だけど国際的なつながりをないがしろにできない、人手不足を補わないといけない。上層部はその行動に敬意を表されその負担はいつも現場の人間にばかりかかる。そりゃ労働意欲が薄れて働く奴がいなくなるだろうよ」

「悪循環もいい所ですね」

「仕方ねえだろ。上の奴らは自分達のことが大事だからな」

「真面目に働くだけ損するだけですね」

「まあ、オレ達は言われたことをやればいい。そろそろ休憩も終わりだ」


2人は煙草を消して仕事に戻った。



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