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第5話「シェアルーム生活」

生活を始めて1週間。初日に必要な物を買い占めておいた。


同居人となった参加者の天城あずさが冷蔵庫を確認すると食材どころか飲み物もない。手持ちの100万円から使えという事だがいきなり使わせに来るあたり主催者の意地の悪さがうかがえる。


「他の参加者もきっと同じ状況だから、スーパーできっと食料の争奪戦になるはずっしょ」

「争奪戦って…」

「それに、食料の配布だっていつも行われているかわからないじゃん。ここは普通の町じゃないんだし」

「それは確かに…」


通常の町のような感じにしているとは言ったものの、実態は表沙汰にできない裏の人間もかかわっているようなイベント施設の様なものだ。まともな考えが常にまかり通るとは限らない。そう考えると生き残るために先手を打つような思考をしなければいけない。


夜になる前にコンセントを調べ、電気代を節約するために照明の蛍光灯を1つにし、テレビなど見ない時はコンセントを外し、冷蔵庫の冷房の強さを弱めるなど工夫する。

昔のテレビではやっていた節約生活の知識を生かし生活費を抑える工夫を凝らしていった。


夕方5時に迎えるころには米を早炊きでまとめて炊いて翌日も食べれるようにした。


調理用に用意された包丁、フライパン、鍋は最低限用意されていたので炒め物を自炊して晩御飯をいただく。


「意外と料理上手いんだね」

「1人暮らしが長かったので…」

「ふーん。いいじゃん、そういうの得意な男子って生活力があるっているの? 私は嫌いじゃないよ」

「あ、ありがとうございます」


その間もカメラを回してサバイバルの様子を撮影。意味があるかは知らないがやれることはやっておいた方が良いだろう。


男性色が強い工業高校にいたせいかあずさの存在に今までわかなかった感情が現れるがまだそれが何かわからなかった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


同時刻、207号室・太田


「ハイ皆さんこんちわーっす! 大・中・小、いいや俺は太く生きるぜ! フトメン!ゲームチャンネルの太田でえ-す! イエエエエエエイ!!」


207号室で太田は配信者らしくカメラを回して晩御飯の様子を撮影する。一応撮影前に隣の参加者に大声での撮影になるかもしれないのを伝え許可を得ている。


太田は運営する【太田真のフトメン!ゲームチャンネル】で自分の宣伝も含めてカメラを回していた。


「サバイバル生活最初の食事は折角だから優勝してみましたー!!」


テーブルには冷えた大き目の缶ビールが3本、焼き鳥、ポテチ、刺身、唐揚げ、柿ピーが用意されており、缶ビールを開けると勢いよく口にし欲望を解放した。


「くううう~! キンキンに冷えたやがるウウウウ!! サバイバルだからって我慢するのは毒うう~! これからのサバイバルは楽しまなくっちゃなアアア!!」


勢いがつくと焼き鳥を頬張り、ポテチ、唐揚げと次々勢いよく食べていく。2本目のビールも開け、良いが周り饒舌になっていく。


「この動画を観ている方々! どうか【フトメン!ゲームチャンネル】の高評価とチャンネル登録をお願いしま~す!」


太田は思っていた。

このサバイバルゲームへの参加は売れるためのチャンスだと。視聴者は常に新しい刺激を求めている。このゲームに仮に途中で離脱しても自分のチャンネルの宣伝になるし、トップユーチューバーのネタになればせらぎねら☆九樹との関係が出来てコラボ配信ができるかもと考えていた。


「うんんまい! このコンボはまさに神!!」


太田は酒を飲み、晩御飯を楽しんだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


305号室・阿久津

阿久津はカメラを回して自己紹介をしていた。手元にはノートがありそれを使いながら説明していた。


「…以上で私の紹介は終わります」


カメラに向かって自己紹介の動画を開けていた。


「さて、風呂も沸いたし汗を流して入るとするか」


阿久津はそう言って浴室へ向かう。あたかも風呂をこれから入るような感じを出して。事前に彼は部屋を調べていた。消費電力を抑えるために不要な電化製品に電気が流れないようコンセントを確認するような風にして、監視カメラを探し位置を確認していた。

 結果3台ほどの監視カメラを発見し、見つけないふりをしつつ位置を覚え、監視カメラの位置に入らない場所を作り行動するための準備をしていた。


「さて、浴室には電源コンセントが無いから盗聴の心配はないな。隠しカメラも仕掛けられそうにないし…」


精密機械に水分は危険だ。水場になっている風呂場には流石に監視カメラを仕掛けることは出来ない。一応スキマなどを確認したが特にそれらしいものはなかった。


「しかし監視カメラを仕掛けているとは、予想はしていたが悪趣味だな。このゲームのスポンサーがスポンサーだからな。自分より身分の低い人間達の生きている様、苦しむ様をリアルで感じたいんだろう…。せらぎねら☆九樹はどう考えているか知らないが」


そう言ってここに来る前に細工を施していたスーツの上着からスマートフォンを取り出した。内側に小物を仕込めるようなポケットが付いている。弁護士の仕事で相手や組織を調査をする時のために、相手に悟られないように調査機器を内部に仕込めるようにしていたスーツである。これは阿久津が特注で作ったものであり、普通の店には売っていない。取る出したスマホを使いメールでメッセージを自身が運営する法律事務所にいる八坂に送った。


『八坂へ。サバイバルゲームへの参加に成功した。私はこちらで対象者であるイ・チャンスウの調査を独自に行う。彼は1か月後にまた事務所に来るので、それまでに奴について調査した内容を送るので、彼が来たら私から調べたことを伝えるように。なおこのメールは閲覧したら消去するようにしてくれ FOR:阿久津』


「全く、今回の依頼は面倒なものだ。イ・チャンスウがこんなゲームに参加などしなければもっと楽に仕事が出来たんだがな。まあ私も腐っても弁護士のはしくれだ…。頼まれたことはやらないとな」


同業者に頼まれサバイバルゲームに参加しながらイ・チャンスウについて調べるという難しい依頼をこなさないといけない。決意に満ちた雅差しが鏡に映り、阿久津はシャワーを浴びた。


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