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第4話「アパートの振り分け」

 ルール説明が終わるとせらぎねら☆九樹はスタッフに指示を出し、テーブルに40個の中くらいの段ボールの箱を用意する。裏方からLure‘sの椿と楸が現れる。強気な雰囲気の椿と、穏やかな雰囲気の楸はLure‘sでファンの多いメンバーである。


「皆さーん! 抽選会の開始ですよー!」

「今から呼ばれた奴は10秒以内に箱を選び席に戻れ。呼ばれても来ない奴は参加辞退とみなして失格とする!」

ストップウォッチと参加者一覧を出して椿は準備する。


「そんな、いきなり言われても…」

「なんでその箱を選ぶ必要があるのか説明しろ!」


説明もなく進められることに不安と不信を感じた参加者が声を荒げるが


「やかましい! 貴様らに選択権などない!」

「ひい!?」

高圧的な椿に参加者たちは怖がり、言う通りにすることにした。一覧表を見て椿は名前を確認し参加者を呼ぶ。


「先ずは太田真!」

「はい!」


ビクビクしながらも太田は箱を一つ選び、席に戻る。


「次、坂下将悟!」

「は、はい!」


呼ばれた順に箱を取っていく。10秒という限られた時間、どれがアタリでどれがハズレなのか、そもそもアタリの箱があるのか、法則性もセオリーもない短時間の選択。どれを選ぶべば自分が優位になるのかすら考える余裕すらなく参加者は言われるがままに箱を本能で選んでいった。


「伊藤清志!」

「はい!」


遂に清の番が巡ってくる。残った7つの箱、手前に2つ、真ん中に3つ、後ろに2ある。

残ってきた箱に福があると信じたいが、既に残っている箱には残されていないかもしれないと思うと簡単に手を出せない。それらはまるでパンドラの箱。絶望と希望が詰め込まれており、開けるまでどちらになるのかわからない恐怖が躊躇いを生む。

 だがそれでも取らなければいけないと考える。進まなければ希望すら手にする事が出来ない。己の直感を信じて手前の箱を1つ取った。箱は重みがあり、何か小さな機器でも入っていそうな感じだった。

 最後に中井洋子が残った箱を取り全員に箱が行き渡る。


「では九樹さん後はおねがいしま~す♪」

『椿さん、楸さんありがとうございます。では皆さん、箱を開けて中身を確認してください』

「了解した」

「スタッフさーん。後はよろしくお願いしま~す♪」


九樹の言葉に従い全員箱を開ける。中にはハンディカメラ1台、100万円が入った封筒、そして鍵が入っていた。

清志の鍵には番号札が付いており、【404】と書かれていた。おそらくはアパートの鍵ではないかと清志は推測した。


「か、金だ! 本物の1万円札!」

「マジで100万も貰えるの!?」


参加者達は封筒に入った100万が本物か確かめた。透かし、番号が連続してないかの確認をしてそれが本物であることを全員が確信した。

日常で決してお目にかかれない100万円の札束の厚みと重さを味わい参加者は皆目を輝かせる。


(こんなはした金で騒げるとはおめでたい連中だ。最も全員というわけではないが…)


参加者の1人である阿久津は100万円を見ても動揺せず、それよりも札付きの鍵とハンディカメラの方に注目した。この時点で渡すという事は恐らく重要なアイテムになることを予想する。


『それがサバイバルゲームで、君たちにとって必要なアイテムだ。続けて君たちが住む賃貸アパートについて発表する』


『ではゲームを始める前に、君たちが暮らす場所についての説明です。終わり次第、君達はスタッフに案内された場所で生活を始めてもらいます。箱に同封された鍵。それはこれから君たちが1年間暮らしてもらう賃貸アパートの鍵です! 番号によって住むアパートが違うから良く説明を聞いてください』


「住むアパートが違うのは意味があるんですか?」


清志はここで九樹に質問する。


『いい質問です。住むアパートによって家賃が違います。つまり君たちの生活にかかる費用がここで違ってくるという事です』

「家賃が違うだと! そんな話聞いてないぞ!?」

『これもゲームですよ。そう言う運要素があるから面白いんじゃないですか』


小坂が意見するが九樹は淡々と進める。


『ではアパートごとの家賃を発表します。それこれから君たちに月ごとに払ってもらう家賃になります』


彼が指を鳴らすと画面に家賃が表示される。100番から400番まで表示された。


100番台101~110:25000円

200番台201~210:30000円

300番台301~310:40000円

400番台401~405:12500円


「マジかよ! 一番安い家賃じゃねえか!」


先に文句を言っていた小坂が家賃の料金に納得し、喜んだ。参加者達は自分達の住む家の家賃を調べるべく札についた番号を見る。この家賃が生活にかかる負担の大きさを決めるので間違いが無いように確認した。


「クソっ! 一番高い部屋かよ!!」


須鴨は高い300番台の部屋が当たり落胆する。家賃に一喜一憂する参加者達。だが清志はふと違和感を覚えた。


(どうして400番台が1番安いんだ? 順番的に1番高い額になりそうだけど…。何か理由があるのか…? 他の部屋番は10まであるのに400番台は5で終わっているのが何か意味があるのか?)


物件の状態によって家賃の価格は変わるものだが、安い理由は事故物件だったり、昔に作られたもので設備が古かったり、風呂などが無かったりすることが多い。ゲームと言えど、主催者が参加者達にそこまで都合がいい物件を用意しているとは限らない。400番台だけ明らかに他の部屋と何か違う理由があるのかと考えた。


『ではこれで説明は終わります。それでは皆さん、各スタッフの案内に従いゲームを始めてください』


関係者が移動先の住居にグループ分けされると角鹿と坂下ら外部のスタッフが彼らを案内し始めた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


101~110番:アパート【すずめ荘】


家賃25000円。

部屋は1つで押し入れあり。布団が備わっており、風呂トイレ付き。生活用家電として冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、冷暖房クーラー、テレビ、掃除機がある。


「まあ、生活に必要な最低限の物は揃っているってところか…」


参加者の須鴨を含めた10人は部屋に入り、中を確かめた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


201~210番台:アパート【ハローライフ】


家賃30000円

部屋は1つで押し入れあり。布団が備わっており、風呂トイレ付き。生活用家電として冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、冷暖房クーラー、テレビ、掃除機がある。


すずめ荘との違いは部屋の広さであり、すずめ荘が4畳半に対してハローライフは6畳。広さが違えば生活のしやすさもある程度差が出る。


「秋穂が来れるようにちゃんとしておかないと…」


参加者の東雲優子を含めた10人が生活の為の準備を始めた。


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301~310番台:高級アパート【エスポワール】


家賃40000円

部屋は2つで押し入れあり。布団、テーブル、ソファーが備わっており、風呂トイレ付き。生活用家電として冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、冷暖房クーラー、テレビ、掃除機がある。


家賃が高い分、外装・内装も綺麗で清潔感がある。冷蔵庫には初期ボーナスとして2リットルペットボトルのミネラルウォーターと電子レンジで温めて食べられるインスタントのお米パックが2つ入っている。


「せめて調味料位入れて欲しかったな」


参加者の阿久津正義を含めた10人が家賃は高くとも充実した生活ができることに安心した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


そして清志達が向かった400番台のアパート。そこについて安さの理由が判明する。


「しぇ、シェアルームだと!?」


激安アパート【わかば園】。部屋の広さは6畳だが、2段ベッドが置いてあるので狭く感じる。部屋も1部屋しかなく収納スペースは押し入れ1つだけ。

生活用家電として冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、冷暖房クーラー、テレビ、掃除機があるが、トイレは共同で風呂無しという低コストを意識したモノだ。

「これが安さの理由か…」

「まあ、そりゃ安いはずやな。じゃなきゃ家賃が2万切られへんもん」


高齢の参加者、舛谷は何となく安い理由がわかっていたのであまり驚かなかった。清志もきっと何か理由があるんだろうなと思っていたので納得がいった。部屋番号も405までしかなく、同じ番号の鍵が2つあるのもそのためだった。


文句を言う参加者もいたが、とりあえずサバイバルゲームが始まった。


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