清志は柄の悪い男達に連れられ、『鮫島金融』と書かれた場所にいくため階段を上りコンクリートの廊下を歩いていく。金属製で出来たノックをするとドアノブを回して中に入った。
「社長は?」
「ああ…奥にいるわよ」
「客が来てない時はいいが煙草はあまりここで吸うなよ」
「了解~」
「全く頼むぜ。ろくでもない奴がほとんどだが、一応客なんだからよ」
「その子も客なの? 随分若そうだけど…未成年?」
「お前には関係ない。黙ってそこで仕事してろ」
「はーい」
やる気のない様子で返事した彼女は受付係らしい、胸の谷間を強調するような薄着の化粧の濃い女性が気だるげに座っている。彼女の前には開けたばかりの煙草の箱と、缶ジュースが置かれている。普通の店なら失礼で客がクレームをいれそうだが、特に注意もされずにいるのだからあれが日常なのだろう。
漢達に奥の応接間に案内された。応接間は部屋の奥に社長らしき男の机と応接用のテーブルに長椅子。資料等が入っている棚、観葉植物がある部屋だ。社長の隣には部下らしき刺青を入れた男が立っている。
「坂下、ご苦労だったな」
「はい社長。こいつがあの野郎の息子でさあ」
「…あいつと違ってよさそうな奴だな」
雰囲気で明らかに怪しく、関わってはいけない裏社会の人間なのがわかる。強面の顔に正面が開いたブランドもののスーツと、赤いワイシャツ。首からぶら下げた金色の装飾品が際どく目立つ。
「急に呼び出して悪いなあ」
「あの、一体なぜボクはここにつれてこられたのですか?」
「ああ。それを今から話すから座りな。なーに時間はたっぷりあるんだ。角鹿、お茶もってこい」
「へい社長」
ポロシャツの男は鮫島に命令されるとお茶を淹れに行った。
「改めて、俺は鮫島だ。この会社の社長をしている。君を呼んだのはお父さんの借金について話したいことがあったからだ」
そう言って鮫島は書類を手に説明し始める。
「伊藤浩一の息子の伊藤清志君19歳。金戸工業高校創業後、日雇労働とコンビニバイトで生活費を稼ぎながら生活。いやあ偉いねえ。父親のせいで苦労しているのに真面目に働くなんて。君の父親は本当にひどい人だ。借金だけ残して消えるなんて」
「父の借金ですか? 確かもうすぐ返し終わるはずじゃ」
「それは他でして借金だろ? うちで新しく借金したんだよ」
鮫島は借用書を取り出した。そこには700万の額を3か月前に借りたことを証明する内容だった。その保証人に清志の名前が書いてある。お茶を淹れて来た角鹿が鮫島と尚樹にそれぞれ配った。
「そんな、これはボクが印鑑を押さなきゃ無効なんじゃ」
「ウチは名前書いてもらえればいいんだよ。なんせ非合法なんでね」
「あの野郎、締め切りを過ぎやがって飛びやがったんだ」
「奴の家にいったらもぬけの殻でなあ~。で、家族のお前にここに来てもらったってわけ。
責任を取ってもらうためにな」
部下の坂下と角鹿がそう言って不敵な笑みを浮かべる。
鮫島が彼の周りを調べると、彼は実家から出た後キャバクラで知り合った女性の家に居候をしていたらしい。隆司はその女性の事を愛しているようであり、彼女の為にやったことのないバイトをしたりして金を貢いでいたらしい。だが彼女からの要求が高くなるとバイトで稼いだ金では足りなくなり、鮫島金融に金を借りたらしい。表向きな金融機関ではすでにブラックリストに入っており信用が無いので借りることが出来ないので、誰でもいいが金利が高い鮫島金融に借りたのだ。
だが元々返済能力のない隆司は利子が膨れ上がり1000万まで借金を膨れ上がらせていた。
「お前の立場には多少同情するが締め切りを過ぎている以上、もうこれ以上待てない。今すぐ1000万を用意してもらいたい所だがお前にそれを今すぐ用意できるとは思えない」
「ボクだって今初めて聞いたんですよ…こんなお金」
「だが、方法はある。君は金も権力もないが若さと知恵がある。学校じゃいい成績だったらしいね」
「はあ…」
「君が成人ならうちの裏稼業でも手伝ってもらおうかと思ったが、未成年でしかもカタギの人間にやらせるのは俺のポリシーに反するんでね。だから取引をしないかと思って。とりあえずこれを見てくれ」
そう言って鮫島はノートパソコンを開き清志に動画を見せる。
『ごきげんよう、私の名はせらぎねら☆九樹。動画活動をしているものだ』
「せらぎねら☆九樹!?」
その名前を知らない者はいない。
彼は世界中の人々に知られているトップユーチューバーである。
登録者2億人、ゲストを呼んで賞金を懸けたデスゲームを企画することで知られている。
『君にチャンスを与えよう。もし、私の企画するゲームに参加するのであれば君の背負った負債をチャラにしてあげるよ』
「そんなこと急に言われて信じられるわけが…」
『だが君に断ることは出来ないはずだ。他に返す方法があるとは思えないしな。それにゲームに参加すれば借金チャラだけではない。大金を得るチャンスもある!』
画面に映し出される札束の山。九樹は雑に手に掴む。
『賞金額は今用意しているだけで1億だ』
「1億円!?」
『そうさ。サラリーマンだって生涯稼げるのは1千万いくかいかないか程度。これほどのチャンスを逃すこともないだろう? では後は鮫島君と話したまえ』
そう言ってパソコンを通しての話は終わった。
「ここに参加証になる書類がある。名前さえ書けば参加者として認められる」
「わかりました…」
尚樹は書類を確認して名前を書いた。
「よし、なら早速出発だ」
「ええ? 準備とかは? それに職場に連絡も」
「眠らせろ」
「はっ」
「むぐうう!?」
鮫島の命令で坂下はクロロホルムを染み込ませた布を清志の口に当てる。突然のことに声を発する暇もなく清志は意識を失った。坂下はスマホで部下に連絡し移動の準備を整える。
「さてこれで参加人数は揃ったな」
「はい。安谷と梶尾からも連絡で確保したそうです」
「そうか、奴を車で例の場所に」
「へい」
坂下は清志を部下と一緒に担いで車に向かっていった。