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100万円町中サバイバル!―365日戦記―
Colvo
現実世界現代ドラマ
2024年08月05日
公開日
58,486文字
連載中
ベーシックインカム制度が導入された社会で、父親の借金を返せない主人公・伊藤清志や様々な理由で大金が必要な貧困層の人々が、借金をチャラにしてもらう代わりに富裕層の娯楽イベントで架空の街、【蒼空町】で行う【1年間を100万円で過ごす】というサバイバルゲームに参加する。

どん底の人生を変えるため伊藤清志のサバイバルゲーム生活が始まった。

第1話「希望無き未来」


遥か未来の日本、富裕層と貧困層の差が広がる格差社会がより明確になっていった。


世界的ウイルスの流行、国同士の戦争、枯渇する食材と燃料の高騰。

異常事態が重なり生産力の低下を招いた結果、財産を多く有する富裕層が物資を独占し、貧困層に高値で小売店を通じて提供することで経済を支配するようになったからだ。

それによる貧困層の不満が連鎖し、労働人口にあたる若年層が大金を得るために裏社会に入り犯罪に手を染め、物資を奪うために強奪行為を行う事件が頻発した。

政府はこの事態を解決するべく基本的人権の尊重の名の元、最低限の人間らしい生活をさせる義務を果たすべく富裕層から協力を経て、助成金での生活支援システム『ベーシックインカム』制度を導入した。


月の月給が14万以下の労働者及び、非労働者に対し月11万の支援金を月11万ほどの生活費、居住できる集団住宅を用意すること保証した。この制度は政府の信頼回復にもつながり安定した生活ができると仕事に対し意欲的な人々も増えた。


だが一方で、労働者に求める条件がより厳しくなり無職となった人々も増えていた。

生産力の作業効率の為に管理、軽作業、生産、事務に関する仕事はAIに任せており、作業人員は減少し、システムメンテナンスをする作業員が労働者として残るようになった。


 月に1度現金支給がされえるのでそもそも働く必要がなく、労働意欲の無い人間は仕事をそもそもすることがなくなった。

奴隷となって服従の道を選ぶか、開拓者となって自分だけの道を進む道を選ぶか。

どちらの道を選ぶのもその人の自由であろう。

自ら道を切り開くものは組織に属さなくても収入を得れる動画配信者やフリーランスサイトでの仕事取得で稼ぎ財を築く。


彼もまたベーシックインカム制度を抜けて自由への道を歩き出そうとした。しかし運命は彼に立ちはだかった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

コンビニエンスストア・ファイブステーションズ

通所『ファイズ』と言われるコンビニ。早朝6時を迎え雀のさえずりが聞こえる中、店内では客の怒号が響き渡る。


「貴様、商いを行う者がどうしてそんな態度で仕事できるんだ!」


50代の老人は顔を紅潮させ憤慨している。その理由はカートンで取り置き予約していた煙草を今接客している43歳のアルバイト店員・戸澤が間違って開封し、店に陳列していたのだ。彼が謝罪して他の店から煙草を買ってくればまだ老人は許してくれただろう。だが彼はあろうことか老人に向かって


「ああ? 煙草ぐらいでガタガタ抜かすんじゃねーよ! 他の店で買えばいいだろうがよ!!」

「俺は足が悪いんだぞ! 他の店まで歩いて行けるか!!」

「知るかよ老害野郎!!」


と逆切れして売り言葉に買い言葉となり、店の中は喧騒により居心地が悪くなり客は逃げて、警察を呼んだ方が良いのではないかと店外で話す客もいる。そんな中、2人の人物が駆けつける。


「て、店長! こっちです!」

「ああわかった!」


そこに店長の小堀と、バイト店員の伊藤清志が割って入る。


「お客様! 当店員がご無礼を働き大変申し訳ございません!!」

「申し訳ございまぜん!!」


店長と伊藤は揃って謝罪をする。伊藤は今日の朝5時に朝シフトの戸澤と交代する予定だったが、客とのいざこざで即座に店長へ連絡し、自身は他店へ行って代わりの煙草を購入し、店へ走って帰ってきた。

「もう二度と来るかこんな店!!」


老人は煙草を受け取り、代金を置いて店を出ていった。喧騒が去った後、レジ裏で店長は2人に話を聞き戸澤に注意を促した。


「戸澤さん、あれほどお客様とのトラブルは止めてくださいって言ったじゃないですか! それに煙草だってその棚の物は取り置き商品だとお伝えしたじゃないですか!」

「俺が悪いってのか!?」

「以前も同じことでお客様と揉めたじゃないですか!」

「ちっ!」


不機嫌な様子で戸澤は頭を掻き、鬱憤の矛先を清志に向ける。

「大体伊藤がもっと早く来りゃよかったじゃないか! 俺一人で対応が難しいって思えば30分、いや1時間も前に出勤できただろう!」


「でもボクのシフトは5時からですし…」

「言い訳すんじゃねえ!」


戸澤の八つ当たりは止まることを知らず大声で清志をまくし立てる。

「今の若い奴は甘ったれてるんだ! 俺が若い時なんて指定時間前に出勤してサービス残業して社会に尽くすなんて当然だったんだよ! 今の若い奴らはそれが出来ないから仕事もできねえ無能ばかりだし根性もねえんだよ!!」

「すみません…」


自分の理しかない暴論だが、これ以上の口論は無駄と思い清志は自分から引いて何とかこの場をおさめようとした。


「この給料ドロボーがよお…。店長、煙草吸ってくるんでレジお願いします」

「ああ…」


気が済んだのか戸澤は煙草を吸いに店の裏口に向かった。


「気にしないでね伊藤君。君は十分この店に尽くしてくれている」

「すいません店長」

「ボクだって人材が不足してなければ戸澤さんを雇ったりしなかったよ。今日はもう帰っても大丈夫だから。後ひと月よろしく頼むよ」

「ええ、こちらこそよろしくお願いします」


店長はため息をついてレジに移動し、伊藤は帰宅の準備をした。

戸澤はこの店に来て2か月の新人である。以前は中小企業で正社員をしており、管理職だったらしいが人間関係でトラブルを起こし解雇された後、知り合いのツテでオーナーを通してこのコンビニで働いている。


だが前職での人の上に立っていたことのプライドを捨てきれず、1年以上いる年下の伊藤に対し敵対心を燃やし、仕事も適当で終わらずにかえることは当たり前であり、客とのトラブルもしばしば起こしている。


 いわゆるモンスター社員であったが、人材不足でやめられると残った従業員の仕事が増えるだけなので辞めさせることもできずにいた。

彼の様な人間がコンビニ店員になっているのはベーシックインカム制度になってからの問題の1つだった。


コンビニの仕事は覚えれば数は多くてもルーチンワークであるので、スキルもなく特段働く理由のない人間でもすることが出来る。簡単に言えば『やる気はないけど金は欲しい』人間が集まることが多い職種なのだ。


ベーシックインカム制度で無職の人間が増えたが、ある程度いい生活をしたい人間は誰でもできる責任感のあまりない仕事をすることが多い。

なぜこの様な事態になるかと言えばコンビニの仕事はAIが発達した後も、人の手による管理がされていたからだ。


というのもコンビニは現金や食材、生活物資が集まっている小売店であり、無人にすれば即座に道徳観の無い人間により窃盗避難が起こりやすい場所であるのだ。

そのため防犯目的で人が常にいる必要があり、またコンビニを管理するオーナーは運営資金を安く済ませたいのでAIなどの便利なシステムよりも人材を安く使いたいので、人を選ばずに働かせる状況であった。


清志もそんな場所で働いているのに嫌気がさし、コンビニバイトで生活費を稼ぎながら福利厚生がしっかりした月15万以上の収入が見込める会社に入れるよう就活を続けていた。

遂に就活が決まり後1か月でコンビニを辞める予定だった。収入が安定すればベーシックインカム制度を辞めて貯蓄をして安定した生活を送る予定だった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

自宅に帰ると荷物を置き、テレビをつけてもらってきた廃棄の総菜パンとおにぎりを朝食にして腹を満たして選択をしていた時だった。


「伊藤さ~ん、宅急便でーす」

玄関のチャイムが鳴り清志は何か頼んでたかと考えてドアを無防備に開けてしまった。


「えっ…誰‥!?」

玄関の前にいたのは柄の悪い人相をしたポロシャツの男2人とスーツを着たリーダーらしき男。

「君が伊藤清志君だね。君のお父さんのことで話があるから来てくれないかな?」

「え…あっはい」

 当然の事で、仕事終わりの疲労が溜まった頭では深く考えずそのまま男達に連れていかれてしまった。


彼らは、これから始まる過酷な1年の案内人だった。

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