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第66話・点と線

前書き

今回、会話内容が少しゴチャついています。一つの事象からいくつもの考察が派生するのが原因です。一つ一つの考察が混ざらないように構成していますが、誰がしゃべっているのかわかる様にするため、余計な地の文が入っている所もあります。全て自分の力不足の結果ですが、わかりにくい・表現がおかしい等気が付いた部分があれば、教えていただけると幸いですm(__)m

『ここの推理が破綻している』とか『ここの思考は飛躍しすぎてして不自然』とかの指摘もあればお願いします。

――――――――――――――――――――――――――――



〔皆しっかりしろよ。この画像の男は菱田武夫、日本国の現首相だろ〕


 望月部長に言われてみてやっとわかった。確かにこれは、巷で歴代最低と言われる現日本国総理大臣の菱田武夫その人だ。


〔ただ、この頃はまだ閣僚入りすらしていないはずだ。確か超党派の議員連盟で視察に行ったんじゃなかったか?〕


 菱田首相の経歴は、調べれば調べる程ありえないくらい特殊なものだった。三年前、今まで何の実績もなかった二世議員が突然閣僚入りし、数ヶ月後にはそのまま異例の速さで首相に就任したのだから。その背景には多分にして、という名目の、国民を置き去りにした身勝手な理由が存在していた様だ。

 彼の父親は、次期総理に一番近い男と言われていた大物政治家だった。しかし総裁選の少し前、乗っていた車から出火し炎上、同乗していた夫人共々帰らぬ人となってしまう。独り残された菱田武夫は、父親の意思を継ぎ弱冠四十歳にして総裁選に立候補を表明。“悲劇に立ち向かう若きリーダー”、そんなプロパガンダもあって『彼を担げば次の衆参総選挙で有利に働く』と計算した党の幹部は、対立候補を潰して彼を強引に就任させた。連日のマスコミ報道も手伝い、悲運を乗り越えたドラマチックな総理として、見事に祭り上げられていた。

 ただし、年齢に反して中身はなく、総理大臣と言う肩書で何かを成し得た事は、今の所ひとつもない。


「それにしても、よくこの画像でわかりましたね」

〔何度か会っているからな。内閣総理大臣が自衛隊の最高指揮者なのは知っているだろ? その関係で角橋はそこそこパイプが太いんだよ〕


 HuVerフーバー開発の為に、角橋重工と自衛隊とは密接に関わっている。他社を出し抜く為に、わざわざ北富士演習場の近くに支社を構えるくらいだ。部長は『そこそこ』なんて言っていたけど、実際はかなり太いパイプなのだと判る。とすれば、当然会社と総理の間柄も思った以上に密接なのだろう。


「でも、これが……俺達が命を狙われる程の情報なのでしょうか?」

〔いや、菱田武夫が議員連盟の一人としてドバイに行った事は、ネットに転がっているようなおおやけの情報だ。だからそれ自体が原因とは考えにくい〕


 部長が口にした『それ自体』のひと言。つまり、そこに議員時代の菱田武夫がいた事ではなく、『そこで菱田議員に何があったのか?』がカギって意味だ。この頃のドバイには、民官問わず世界中から多くの人が視察に訪れていたらしい。写真に世界各国の重要人物が写っていたとしても何もおかしくはないし、むしろいない方が不自然だ。彼はいったい誰と遭い(注)、何の話をしたのか。


 ……解らない、俺が命を狙われた理由は何だ? 織田さんを危険な目に遭わせた原因は何だ? 


「これってさ……ドゥラの人間が入り込んでいてもおかしくはないよな」


 俺が一人で思い悩んでいると、八神が核心を突く一言を放ってきた。


「島国の日本ですら犯罪者やスパイが入ってくるんだから、むしろ陸続きのドバイなんてドゥラだらけじゃね?」

「テロリストが写真に写り込んでいるかもしれないって?」

「可能性は十分にあると思う。ただ、ドゥラの指導者みたいに顔が割れているのならまだしも、そこにいる人が組織の構成員かどうかなんてわからない」


 当然の話だ。明確に犯罪者と判っている人が写っているのなら隠蔽する理由になるだろうけど、中東に住む人が勝手に写り込んだだけの画像で、人を殺してまで隠そうとする理由にはならないだろう。


「だけど、角橋とドゥラが接触した可能性は否定出来ないだろ?」


 それはわかる。でも、接触していない可能性も否定出来ないのだから、要素として考えても考察に含める事は出来ない……こういうの、悪魔の証明って言うんだったか。


「藤堂さん、止めて……」


 いくつか続けて画像を見ていくうちに、織田さんが何かに気付いた様だ。機械的にマウスをカチカチと動かしていた俺の手を押さえて、画像の中の人を指差した。


「この人とこの人……」

「どうしました?」

「藤堂さん、五億円横領事件は覚えてます?」


 彼女が指差すのは、笑顔で写真に写る二人の男。


 ひとりは会長の次男、つまり現社長の弟だ。彼は当時、角橋重工の専務職にあった。そしてもうひとりはその秘書官。次男が社会人になってから二十年以上も支え続けて来た、信頼の厚い縁の下の力持ちだった。

 写真はレセプションか何かの場面なのだろう、肩を組んで手にはグラスを持ち、上機嫌な雰囲気が伝わってくる。


 ――しかし


「帰国してすぐに、秘書官が五億円横領して消えたんですよね?」

「ええ、そしてその直後、専務は心不全で亡くなっていますわ」


 葬儀は近親者のみでひっそりと行われた。角橋重工の会長の次男で専務、これだけ地位と名声があるにも関わらず、だ。これは、五億円もの大金が横領された事に起因する低俗な陰謀論が飛び交っていたからだと思う。更には意味の無い誹謗中傷を拡散しないようにと、マスコミにも相当なお金をバラ撒いたそうだ。

  今更その時の事を掘り返すつもりはないけど、今回の一件に関わっているかもしれない以上はそうも言っていられない。何より、目の前の画像に映っている二人の笑顔は心からのものに思え、とても横領事件裏切り行為を起こす様な間柄には見えなかった。


 だけど……あまりに集中しすぎているんだ。


「それまでドゥラは、テロとは無縁の単なる政治団体だった。菱田武夫は一介の議員で実績も何も無い。そのどちらもが、同じ時期に突然テロ組織になり、日本国総理になった」


 ——いままでバラバラだった点が、


「そして秘書は五億円を持ったまま行方不明になり、会長の次男は病死」


 ――段々と繋がり線になってゆく。


「異例の総理就任と大企業でおきた横領事件、そして幹部役員の他界。遠く離れた中東でテロ組織の台頭。普通に考えれば、これらの事件を繋げるのは馬鹿げていると考えるだろう。だけど、?」 


 総理も秘書も専務も……不可解な事に関係する全員が同じ頃にドバイにいた。そして事件・事故は帰国してから数カ月以内に起こっている。ここまで重なると、単なる偶然だと割り切る事は難しい。そしてわずかな可能性だが、そこにテロ組織・ドゥラが絡んでいるかもしれない。 


「ドバイにいた菱田武夫、そして五億円横領の秘書と専務。この二組のどちらかが、今回の拉致事件の原因になっている可能性が高いと思う」


 命を狙われる程のデータの中にあったのは、三年前のドバイ視察の様子だけだ。その中にあったはこの二点だけ。ならばここに俺の、零士・ベルンハルトの拉致に関わる要因があるのは、ほぼ間違いが無いと考えて良いだろう。

 ただ……相手は日本国総理、そして行方不明の元社員と死者。どうやって調べれば良いのかまったくわからない。多分皆同じことを考えているのだと思う、部屋の中を沈黙が支配し、少し重苦しさすら感じ始めていた。


 その時、考え込んでいた八神がボソッと呟く。


「五億、か……」

「ん?」

「なあ、五億あればさ……」


 誰しも子供の頃『一億円あったら何する?』なんて戯言を語った記憶があると思う。俺も『おもちゃ屋さんを買って遊んで暮らす』とかアホな事を言っていた。

 多分八神はそのくらいのつもりで言ったのかもしれないけど、それはあまりに突拍子もなく滑稽で、皆には妄想の極みにすら思えただろう。



「総裁のイスって買えるよな?」



 ……でも俺はこのひと言で、何かが繋がった気がしていたんだ。






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(注)「会う」「逢う」ではなく意図的に「遭う」にしています。


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