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第55話・I love it when……

〔もう一台のトラックは、敵本隊の中にいると思われます〕


「本隊の中?」

〔ええ、動けなくなったその位置で撃っていないのは、攻撃目標が射程距離外だからだと思うのです〕

「なるほど。つまり、ここよりも前方に移動している可能性が高いって事になるのか」


 そしてそこには政府軍本隊が展開している。冷静に考えてみれば、これだけ見通しの良い場所で隠れられるのは“そこ”しかないのは道理だった。


「くそっ、そんな所に……」

〔敵HuVerフーバーが本隊から離れないのもそのせいでしょう〕

「だけど、トラックなんて見えないぞ。HuVerフーバーが多すぎる」


 平均5メートルの高さがあるHuVerフーバーの中に紛れてしまえば、いくらミサイルランチャーを載せているとは言ってもトラックが見えなくなるのは当たり前だ。敵本隊の中には、少なく見積もっても10機以上のHuVerフーバーがいるのだから。


〔逆ですよ、零士さん〕

「え?」

〔政府軍のHuVerフーバーが密集している所。その先にいるはずです〕


 言われてみれば……いくらHuVerフーバーの数が多いと言っても、2~3機程度の塊では覆い隠す事は出来ない。最低限、隙間なく並んでいる必要がある。そしてその視点で見てみると、明らかに不自然なHuVerフーバーの塊があった。トラックはあの壁の先にいる可能性が極めて高い。


 だがしかし……


「まさしくholy shitってヤツだ。敵本隊中央あそこに切り込むのは自殺行為でしかないぞ」

〔お、No.10。目標の位置が解ったのか?〕

「え……キング?」


 いつの間にかオレとジョーカーのすぐ後ろまで追い付いて来ているキング。左翼側の政府軍をあっさりと屠って、それでもなお、戦い足りないと言った感じだ。

 軍用HuVerフーバーは、製造国や年式、グレードによって様々な性能がある。そしてキングが搭乗しているそれは、イギリス製のクルセイダーと呼ばれる高機動型の機体だった。

 中古の型落ち機体ではあるものの、まだまだ現行機種にスピードで勝る。背中にあるブースターとカカトに仕込まれているローラーを使用する事で、ほんの十数秒程度スポーツカー並みのスピード移動が可能になるらしい。それ故イロモノ機体として見られる事が多く、あえて使おうとする奴はまずいないとリーダーが言っていた。

 それにしてもここまで素早いとは思わず、キングの操縦技術には素直に驚かされてしまった。更には、オレが日本語に混ぜた『holy shit』の一言だけで状況を推測、そして把握してしまう洞察力。

 ……穂乃花やクイーンを見る、あの“性犯罪者の様な下心むき出しの目”からは、とても想像が出来ない慧眼の持ち主だ。


「リーダーの援護に行ったんじゃないのか」

〔必要ねぇよ。あの程度でやられるヤツじゃねぇ。それよりも……〕

「ああ、敵本隊中央右のHuVerフーバーが5機くらい固まっている先にいるはずだ」


 それを聞いたキングが『おう、そうか』と、敵本隊に突っ込もうと方向を変えた時だ。慌てて制止するジョーカー。


〔おっちゃん待って、つっこまないで〕

〔なんだよ、作戦でもあるってのか? ガキ〕

〔当然でしょ。脳筋と違うんだからさ〕


 ジョーカー、本日二度目の『脳筋』発言。レシーバーからは、ドスの効いた『あ”?』というキングの声が聞こえて来た。……もう、帰ったら取っ組み合いになるだろうな。また室内が滅茶苦茶になりそうだ。


〔そこに放置されているミサイルやつを撃ち込もうよ〕

〔アホぬかせ。こんな場所で……っておい!〕


 キングの言葉が終わる前にさっさとHuVerフーバーから飛び降りるジョーカー。銃弾が飛び交う様な戦場のど真ん中で、生身のまま外に出るなんてかなりのハイリスクだ。しかしジョーカーはそんな事はお構いなしといった様相で、さっさとトラックの運転席に乗り込んでいた。


〔……ったくよぉ。こんなとこで危険な事してんじゃねぇよ〕


 この時のキングの口調は、とても落ち着いた優しさを感じさせるものだった。突然見せた違和感の残る声。キングの真意がどこにあるのか、オレには全く読めない。


〔おいガキ、こんな作戦が上手くいくと思ってんのか?〕 

I love it when a作戦は奇を plan comes together持って良しとすべし

〔は? 何言ってんだ、No.10〕


 オレが好きな海外ドラマに出てくる主人公の口癖が『作戦は奇を持って良し(注)とすべし』だ。毎回、四人のメンバーが奇をてらった作戦で悪党をブチのめす痛快アクションドラマで、子供の頃夢中になって観ていた記憶がある。

 オレ達もたった三人で敵本隊の中にいるミサイルランチャーを叩かなければならないのだから、この作戦は正攻法で行くよりもずっと成功率が高いと思う。


 ……そういえばあのドラマも傭兵チームの話だったな。


「敵のど真ん中を崩せれば、ドゥラ軍本隊が押し返えせるかもしれないじゃないか」

〔ちっ、仕方ねえ。おいNo.10、死んでも守れよ〕


 口から出まかせ的に出た言葉、とってつけたような理由だったがキングは納得してくれた様だ。もっともこのひと言には、自分自身でも『そうかもしれない』と納得してしまうくらいには整合性が存在していたと思う。

 キングは守りの一助にと、オレに大剣を手渡してきた。長さは3メートル強、幅が1.5メートルもある、言わば分厚い鉄板だ。オレはHuVer-WKホーバークを運転席の前に出して壁を作り、キングの大剣を地面に突き刺して防弾範囲を広げた。

 トラック前方はオレが、後方はキングが、それぞれ守りにつき、ジョーカーの操作を待った。いつ敵が居住区にミサイルを撃ち放つのか、タイムリミットが判らず胸中がモヤモヤじりじりとざわついている。


〔あれ?〕

〔どうした、ガキ〕

〔どこか壊れてるよ。発射台の角度が変えられないんだ。発射ボタンは問題なさそうなんだけど〕


 故障なのか、操作がロックされているのかは判らないが、トラックのミサイル発射台はかなり上の方を向いたままだ。キングの計算だと、このまま撃ったら敵本隊を飛び越えてドゥラ軍に撃ち込む事になってしまうらしい。


〔めんどくせぇな。無理矢理押し込むか〕

〔馬鹿、脳筋、発射台が壊れたら撃てないでしょ!〕

〔さっきから脳筋脳筋うるせえぞ、クソガキ!〕


 ったくもう、こいつらと来たら……。


「あ~もお、二人ともうるさい! 今から言う通りにやってくれ」


 多分キングはカチンと来たのだろう、またもや『あ”?』と一言だけ“がなり声”を上げると黙ってしまった。HuVerフーバーの中からオレを睨みでもしているのだろうか?


〔No.10、何か方法があるの?〕

「もちろん。発射台が動かないのなら、トラックを動かせばいい」

〔ケツの方を持ち上げろってか?〕

「ああ。この大剣の柄に発射台を載せて固定すれば、ブレずに撃ち込めるはずだ」 

〔ちっ、そんなのが上手くいくのかよ〕

「作戦は奇を持って良しとすべし、だぜ?」


 件のドラマにこんな感じのエピソードがあった。低い位置にいる敵にミサイルを撃ち込むために、対空ミサイルを横倒しにするというシーンだ。もっとも、実際真横に倒して撃ったりなんかしたら、目の前で爆発してとんでもない事になると思うけど。


「やる事はシンプルだ。トラックの後ろを持ち上げて撃つ。必要なのはその際の角度計算だけだろ?」


 そう言いながらも、実はオレ自身半信半疑だった。でも、それでも無謀に突っ込むよりは断然いいと思う。計算で成り立つ攻撃方法なら勝算は十分過ぎる程あるはずだから。


「キング、角度を算出してくれ」

〔そのくらいテメェでやれよ〕

「オレのHuVerフーバーは軍用じゃないんだ。弾道計算アプリなんて入ってないんだよ」

〔あ~、もうめんどくせえヤツだな。なんでそんなHuVerフーバーで戦場に出てんだよ〕


 ……知るか。






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(注)「作戦は奇を持って良しとすべし!」 "I love it when a plan comes together!"

元々の語源は孫氏の兵法「兵は奇道なり」


※ミサイルとロケットについて。

分類上の話として、目標に対するレーダーが付いているかいないかで、ミサイルと呼ぶかロケットと呼ぶかが分かれます。その法則に従うと、作中に出てくる兵器はロケットになります。しかしながら……

①そもそもレーダーの有無が根幹に絡んで来ない重要ではないので描写として省いている

②主人公が二人ともミサイルとロケットの違いを知らない事

③表記ゆれに見えてしまう事

以上の点から、全て”ミサイル”という表記にしています。

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