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第28話・戦う理由

「クイーンは、なんであんな戦い方をするのだろう? って」


 聞こえて来た『死ね』という悲痛な声。オレには、まるで自分自身を傷つけながら戦っているようにも感じた。戦えなくなった者も逃げ出す者も、容赦なく虐殺し始めたクイーン。そこまでする必要って、いったいどこにあるのだろうか? 


「彼女はさ……あ〜、いや、僕が言う事じゃ無いかな」


 当たり前の話だった。いくら仲間でも、素性や過去の話を勝手にするのはタブーと言える。信頼関係を歪ませると必ず綻びになってしまうし、その後のチームワークに多大な影響が出てしまう。

 だが原因が何かは別として、あんな戦い方は止めさせるべきだろう。そもそも日本で言えば中高生くらいだ、そんな年端も行かない少女が戦場に出てくるなんて間違っている。


「でも、、あんな虐殺はしちゃ駄目だと思う」


 この一言にカチンと来たのだろうか、リーダーがキレ気味に口を挟んできた。


「ああ? どんな理由がどうしたって?」

「ちょっとリーダー。止めてくださいって言っているじゃないですか」


 逆鱗にでも触れたのだろうか、ジャックに『口を挟まないで』と言われていても、リーダーは止まることなくまくし立て始めた。


「知った風な口をきくんじゃねぇぞ。温い生き方しかしていないお前になにがわかんだよ」

「温くて悪いのかよ。人を殺して喜んでいる奴らよりはずっといい」

「世間知らずのガキがふざけてんじゃねぇ。人の恨みがそんな簡単に晴れるかってんだ」


 まるで、理由があれば人殺しが正当化されるかの様な言い方だ。世界の現状を知らなくても、それが間違っている位の事は判断出来る。


「お互いに恨みをぶつけ合っていたら、永遠に終わらないだろ」

「アホかクソガキ。んなもん、敵を根絶やしにすりゃいいんだろが」


 親指を立てて、首をかき切るジェスチャーをするリーダー。舌を出して殺される人の真似をしているのだろう、完全に馬鹿にしている。


「それにな、俺達は傭兵だ。争いがなきゃ食っていけねぇ。わかったか、タコ」


「——そろそろマジで怒りますよ」


 睨みつけ、静止するジャック。その声にはリーダーですら黙ってしまう迫力があった。


「でもね、No.10……」

「藤堂だ。それでいい」

「じゃ、藤堂。君の言う事ってさ、恨みや悲しみ、悔しさを我慢しろって言っているのと同じだよね?」

「でも、そうしないと連鎖はいつまでも続くんだ。どこかで切らないと……」

「じゃあさ、それはクイーンに恨み晴らさせてから相手に我慢する様に言って来てよ。どちらかが我慢すれば終わるってのは解る。でもね、少なくとも僕は、僕達は、仲間に我慢を強いるような真似はしないよ」


 でも、それじゃあ結局何も変わらないんだ。相手に対して『譲歩しろ』とか『我慢しろ』とかう身勝手な主張が終わりを見えなくしているのは間違いない。

 だけど、オレにはジャックの言い分が心地よく聞こえてしまった。見ず知らずの敵よりも、家族や仲間を大事にするのは当たり前だ。オレだって穂乃花ほのかを護るために戦場に出て、挙句の果てに傭兵部隊にはいったのだから。

 結局、どちらが正しいかではなく、どちらも正しいのだろう。立ち位置が違うというだけの話でしかない。


「何でクイーンは傭兵なんてやってんだよ。まだ子供じゃないか」

「ハリファってさ、粗暴だけど経典は常に携帯しているでしょ」


 何故急にハリファの話になるのだろうか。オレが聞いているのはクイーンの事なのに。


「彼女は元々この辺りの出身なんだけどね。この国の戒律は女性に戦闘行為を禁止しているんだよ」

「何が言いたいんだ?」

「つまりね……」


「——ったく、察しの悪い奴だな」


 またもや話に入ってくるリーダー。常に見下した話し方をして来るところを見ると、どうやらオレは嫌われているらしい。そしてジャックはというと、リーダーの再三の干渉に諦めた様で、頬杖をついて話が終わるのを待っていた。


「戒律を破って女を戦わせたら、いくらハリファと言えども吊るし上げられる。それくらい重いんだよ、この国の信仰ってのは。そしてそれはクイーンも同じだ。だから彼女あいつは国の外に出て、傭兵として戦っているんだ。ちったぁてめぇの頭で考えろや!」

「つまり、雇われ傭兵扱いなら“国民が生まれながらに享受している信仰に従う必要がない”って事?」

「……なんだ、解ってんじゃねぇか」


 解るというか、むしろそんな程度の理由付けで戒律を回避出来るなら、信仰なんて必要ないだろ。何のためにそんな事やってんだよ。


「でも、そうまでして戦う理由ってあるのか? あんな少女が戦場に出る事自体異常だろ」

「お前の頭の中は温いとかのレベルじゃねぇな。いいか、ここバジャル・サイーアってクソみてぇな国はな、首都以外の国民は皆奴隷扱いなんだよ。むしろ人間扱いされていれば御の字だぜ」


 ここのテロリスト達が反政府組織って名乗っているのは、根本に奴隷制度への抵抗があるって事か。テロというやり方は間違っていても、根本は圧政 抑圧からの解放。道を間違えなければ国際世論を味方に付けることも出来ただろうに。


「でも、奴隷なんて国際的に認められるはずがない」

「領土を広げたい国が、他国を勝手に自国領だと言い張って民族浄化を始める。そんな例は歴史上いくらでもあるだろ。そもそも他国に対して、強制力のある内政干渉が出来る国なんてどこにあんだよ」

「それでも、国連人権理事会とかから働きかけてもらう事とか出来るはずだ。時間はかかるかもしれないけど、少しずつでも改善していけば……」

「少しづつだと?」


 言葉を被せ、睨み付けてくるリーダー。


!」

「——っ」


 だから武装蜂起するしかなかった、と言う事か。広い視野で見れば、根本から解決していくのが多くの人を救う事になるのは確かだ。だけど、その多くに含まれない人、今目の前に危機が迫っている人からしてみれば、時間をかけて解決するなんて言っていられない。自分の命を守るために狭い選択をしたとしても、それを誰が咎められるというのか。

 オレは今までそんな事は考えた事もなかった。甘いとか温いとか言われても仕方ないのかもしれない。


「それに、クイーンが戦う理由つったよな?」

「リーダーそれはダメだって……」


 慌てて制止に入るジャック。静観を決め込んでいたが、余程口にするのはまずい事なのだろう。それでもヒートアップしているリーダーは止まらずに、クイーンの過去を口走ってしまっていた。


「酔ったクソ兵士どもが家に押し込んできてよ。両親の目の前で姉ちゃん共々犯されて、挙句の果てにその両親と姉ちゃんを殺されてんだ」


 リーダーはそう言いながら、足元にあったゴミ箱を蹴飛ばした。勢いが付いた“それは”壁にぶつかり、中身を一面にぶちまけていた。


「それでも許せっていうのか、てめぇは」

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