うなりを上げる白騎士
右手で銃を持ち上げると、ズシリとした重みを感じ、機体が少し右に傾く。3メートルもある巨大なライフル銃だけあって、その重量は100キロ近くあるだろう。
そして左腕にはバランサーウエイトと呼ばれる装甲を兼ねた重りを付ける。左右の重量バランスを取る為だ。
片手にだけ重い物を持った人が真っすぐに走れない様に、
これは軍用
「……軍用と災害救助用で同じウエイトが装備出来るとか、こんなところに統一規格採用してんじゃねぇよ」
まったく無意味な怒りがこみ上げ、口をついて出てしまった。そもそも
――この
オレの頭が、オレの心に、そう言い聞かせていた。
HV倉庫から一歩外に出た瞬間、取り巻く空気が一変した。
これが戦場というものなのだろうか? 銃声が響き渡り、爆発が起こり、それでもそれがどの方向から聞こえて来ているのかすら解らない。一角には廃墟と化している街の残骸が広がり、地平線の太陽が血の色に染めていた。
ザザザ……と
〔トードゥ? 早く中央の隊と合流して下さーぃ〕
わざと間延びした口調で連絡を入れてくるタブレットの男。今は一番聞きたくない声だ。
「うるせえ、オレの
〔それはハリファに言って下さいよ〕
口を歪ませながら両手のひらを上に向けて、お手上げポーズをしているのが容易に想像できる。
「……で、なんだよ」
〔いえ、アナタのやる気を少しでも出させようと思いまして〕
「そのやる気ってのは、人殺しの事だろ? 出る訳ないだろ。こっちはそれどころじゃないんだ」
不安しかない状況からくる恐怖感が、オレの気持ちを
〔——あの、零士さん?〕
聞こえて来たのは藤堂
〔無理はしないでくださいね〕
「あ、ああ……」
〔絶対に死なないで。そのまま逃げちゃってもいいから〕
〔あ~、なるほど。その手がありましたか〕
タブレットの男がいちいち口を挟んでくる。……頼むからオマエは黙っていてくれ。大体、なにが『なるほど』だ。そんなことは“小指の爪先”程も思って”いないくせに。オレが逃げない事を解っていてトボけていやがる。
〔まあ、この
「おい、彼女に触ったらてめえを殺すぞ」
チープな脅しだって事は自分でも解っている。そしてそれは奴も解っていて、わざわざ同レベルの脅しを返してきた。
〔はいはい。鉄格子の向こうですからね。触れませんよ。今はね……〕
「覚えておけよ。……人質ってのは無事だから意味があるんだ」
いつか漫画で読んだようなセリフを言いながら通信を切った。そしてひとつの筋道に気が付く。
……生き残る為の、これ以上ない明確な理由が理解出来た瞬間だった。
♢
通信を切ってすぐに、地平線から空へと一直線に伸びる光の軌跡が見えた。しかし、それはすぐに重力に引っ張られるように弧を描きはじめ、こちらに向かって伸びて来ている。
「まさか……」
オレは慌ててアクセルを踏み込み、
当たり前の話だけど、遠くに伸びた光はゆっくり見えても、近づいてくるにつれて猛スピードとなる。それは、視認してから避けたのでは遅いという事。つまり、
その時“ゴオオオオオ……ッ”という空気を震わせる音を連れて、巨大な何かが
直後、後方から物凄い破壊音が響いて来た。つい数分前までオレがいたHV倉庫に、ミサイルが撃ち込まれた爆発の音だ。
――ほんのわずかな時間で分かれた明暗。
建物は跡形もなく吹き飛び地面は
「マジ……かよ……」