「——警察!?」
織田女史が驚き
〔夜分失礼します。少々お聞きしたい事がありまして、お伺いしました〕
「あの、どういったご用件でしょう?」
〔インターホン越しではちょっと。お時間は取らせませんのでお願いします〕
ここで時計を見る望月部長。考えているフリをする時間を計っているようだ。
「とりあえず、もう一度警察手帳見せてもらえます? 最近は偽装犯罪もあるみたいなので」
〔ああ、すみません〕
「あなた、こんな時間に誰ですか。非常識ね!」
と、わざとインターホンに声が入る様に話しながら、美郷さんが部屋に戻って来た。その手には、俺と織田女史の靴がある。足音がしない様にわざわざスリッパを脱いで、素早く取りに行ってくれていた美郷さん。彼女は靴を部長に渡し、入れ変わる様にインターホンの会話に参加した。
〔すみません、夜遅くに。えと、手帳見えます?〕
「はあ、なんとか。でもそれ、本物なの?」
〔もちろんですよ〕
疑り深い人を演じ『警察に電話確認してかまいませんよね?』と、取り留めのない内容で美郷さんが時間稼ぎをしてくれている。
その間に部長はジェラルミンケースを閉じながら、俺と織田女史に伝えなきゃならない事を端的に話し始めた。
「いいか、これを使って零士と連絡を取れ」
「部長達はどうするのですか?」
この状況でも元同僚夫婦を気遣う織田女史。葵ちゃんの事も気がかりなのだろう。しかし部長は『大丈夫だ、気にするな』とだけ返事をして、俺の肩に手を乗せ諭すように続けた。
「そして藤堂、お前が零士に
「出来るでしょうか?」
「——やるんだよ、出来なくてもだ!」
軍事用
「だがな、気負い過ぎてもだめだ。お前はガタイのわりに真面目過ぎるところがあるからな。半分くらい適当でもいい」
「はあ……」
「気楽にやれよ。Takeit easyってやつだ」
いつもながらの部長の発破を浴びながら、俺と織田女史は勝手口からコッソリと外に出た。『この時間ならまだ終電はあるはずだ』という部長の言葉を信じて、真っ直ぐに駅を目指す。
「あの警官はどう考えても、俺達と無関係じゃないですよね」
「そうね、タイミングが良すぎるわ」
こちらにとっては最悪のタイミングだけど。ちなみに、織田女史の考察では『あの警官は普通に通報を受けて来訪しただけだと思う』だそうだ。もし計画的に動かしたのなら、簡単に裏口から逃げられるはずはないのだから。
――あれは“警告”と受け取るべきなのだろう。
しかし、これではっきりしたことが一つある。俺をテロリストに仕立て上げようとし、零士・ベルンハルトを拉致したテロリストのスパイは社内にいるという事だ。それも本社もしくは富士吉田支社の社員に絞られる。
ギリギリ電車の到着時間に間に合い、俺と織田女史は文字通り飛び乗った。ローカル線特有のBOX席に座り、急いでロールカーテンを降ろす。ひと呼吸待ってスキマから外を確認したが……どうやら追いかけてくる者はいない様だ。
これでやっと一息入れる事が出来る。改札口近くの自販機で買った缶コーヒーを開けて、ゆっくりと香りを吸い込んだ時、織田女史が真剣な眼差しで話しかけて来た。
「藤堂さん……」
「なんでしょう?」
「今この場で辞表書いて下さい」
……はい? 何を言い出すんだこの人は!?
「いつトリスの通信が繋がるか解らないのですから、部屋に引きこもって下さい」
「流石にそれは……」
いや、彼女の目は真剣だ。それゆえ
……そもそも、角橋重工ほどの大手でHVオペレーターをやっていますなんて、恐ろしく高い社会ステータスなんだぞ。
「テロリスト報道にストレスを感じたと言えば、誰もが納得するでしょう」
「ちょっと待って下さいって」
「食事や生活の面倒は私が看ますのでご心配には及びません」
……めちゃくちゃ心配です。
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