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第49話 コラボを終えて

『……はい、というわけでキリもいいし、時間もちょうどだしね。そろそろ終わろうか』


『きゅぅ……』


『あらら、アヤカちゃんしなしなになっちゃってるよ。まあ流石に私も怖かったもんね、あれは。仕方ないかぁ』


 アヤカとアカネさんが迎えたボス戦。結果から言うと、最後までクリアすることはできなかった。


 その理由は明白で、単にボスが二人用の強さをしていたから。どうやらこのゲームは一人でやる時と二人でやる時で敵の強さが変わってしまうらしく、アヤカが使い物にならないせいで流石のアカネさんもクリアは望めない状況であった。


『ま、今回はボス倒せなかったけど……次、リベンジだね。アヤカちゃんとはまたぜひコラボ配信したいから、その時に!』


『絶対、嫌です……もう、一生ホラゲなんてやりません……』


:アヤカちゃん、トラウマ植え付けられてて草


:ボス戦の途中で叫び声が少なくなってきたあたりから、ちょっと本当に心配しちゃったもんなぁ……。アヤカちゃん、ご愁傷様です


:アカネ鬼畜すぎるwww


:ホラゲ出来ないとしても、コラボはまたぜひしてほしい!!


『えぇ? でもリスナーさんからの評判は良かったみたいだよ? 同接数だって……ほら、私もしかしたらこれまでの最高記録かも』


『そういう問題じゃありませんよ……』


 明らかに配信を始める前と比べて、アヤカの元気がない。いつものハイテンションとは打って変わって、なんだか本当に疲れ切っているという感じだ。


 まあでも、そうなるのも分からないでもない。道中のゾンビたちだけでも俺から見ても結構怖かったというのに、ボス戦の敵は複数のゾンビは融合するわ変な液体をばら撒くわで相当えげつないビジュアルをしていた。ただでさえ怖がらな彼女が、むしろ配信中に泣き出したりしてしまわなかっただけでも称賛されるべきだろう。


『まあまあ、そう怒らないでよ。もう夜も遅いし、今日はうちに泊まって行くかい?』


『えっ、ここにですか……?』


『うん。だって……夜道を歩いてたらゾンビが襲ってくる、かもっ!』


『ひっ!?』


 急に声量を上げ、ガタッと物音を立ててアカネさんがそう言うと、アヤカは可愛く悲鳴をあげる。アカネさん、きっと今満面の笑みなんだろうなぁ。


『うちに泊まって行ってくれるなら、私がさっきまでみたいに全身全霊をかけて守ってあげるよ? 一緒にお風呂も入ってあげるし、トイレもついて行ってあげるし……なんなら同じお布団で寝るのも大歓迎。どう? いい話でしょ?』


『いやですっ! アカネさん意地悪だから、絶対何かして来ますもん!! アヤカはおうちに帰らせていただきます!!!』


『ちぇえ〜、つれないなぁ』


:おほぉ〜、てえてえんじゃぁ( ^ω^ )


:美女二人が同じ布団の中で一夜……何も起きないはずがなく!!


 そうだよ、本当に何も起きないはずがないんだよ。多分お前らが想像してるようなエロい系のこと、本当に起こるんだよ。てぇてぇなんて言ってる場合じゃないぞ、俺からしてみれば。


 いいか、サキを一夜守るのはそこにいるド変態じゃない。この俺が、責任を持って守ろう。お風呂もトイレも、布団の中でもな……ふへへへへ。


『じゃ、今日はここで終わり。アヤカちゃんがおうちに帰っちゃうのは残念だけど、また必ずコラボ配信しますので。楽しみにしててくださいね〜』


『つ、次はホラゲ以外でお願いしますね……?』


 こうして、最後に軽く談笑をして。アヤカとアカネさんのオフコラボ配信は、無事に(?)終了した。


◇◆◇◆


 ドタッ、ドタドタドタッッ。


「和人ぉぉぉ!!!!!」


「お? お疲れサ────っお!?」


 ぎゅぅぅぅぅぅぅ。


 配信部屋が開き、中からサキが足音を立てて走ってくると、やがて俺はそのまま飛びつかれて床に押し倒されてしまった。


 むぎゅむぎゅと押しつけられる胸に、背中に回されてガッチリと俺の身体を離さぬよう抱擁する細い腕。


 柔らかなその身体は密着し、俺の胸元に埋められた小さな顔からは「うぅ、ぅぅぅっ」と小さく唸り声が上がっていた。


「よしよし、怖かったんだな。もう大丈夫だぞ」


「あらら、サキちゃんお義兄様にべったりじゃん。流石に悪いことしたかなぁ〜……」


「ほんと、やってくれましたねアカネさん。まさかよりによってホラゲをさせるなんて」


「だってだって! 見たかったんだもんアヤカちゃんがホラゲするところ!! 柊アヤカのファンなら、誰もが思ってることでしょ!?」


「うっ、それは、そうですが……」


 簡単に開き直ったアカネさんに対して何か言い返してやろうとしたものの、俺もアヤカがサキだと知る前、何度も『ホラゲーしてください!』なんてコメントを送っていた身だから何も言い返せなかった。


「ゾンビ、怖かっらよぉ……もぉ、ヤダ。アカネさんなんて、嫌いぃぃ……」


「はぅあ!? さ、サキちゃん待って! ウエイト!! 私も反省してる! してるから!! ごめんなさい、嫌わないでぇ!!!」


「ひっ、うぅ……ぅぅぅ……!」


 ぽんぽん、と頭を撫でながら「よしよし」と慰めてやるが、サキは本当にさっきのホラゲが怖かったようで。時折後ろから心配そうにこちらを見つめて寄ってくるアカネさんに対してとことんそっぽを向きながら、中々俺の胸元から離れようとはしない。


 配信を見ている時は案外大丈夫なのではないかなんて思っていたが、決してそんなことはなかった。サキは明らかに、今日の配信でトラウマを植え付けられてしまっている。


「安心しろって。今日の夜はずっと、俺が一緒にいてやるから」


「あーっ!! 私の役割取らないでよお義兄様!!!」


「へっ、俺はアカネさんと違ってフラれたりしませんから。これが兄の特権というやつですよ」


「あり、がとぉ……和人ぉぉ……」


「サ゛ギち゛ゃあ゛ぁぁぁん゛ん゛!!!」


 さて、アカネさんからサキを取り返したところでそろそろお暇するとしようか。




 今夜はとことんサキを甘やかして、目一杯頭を撫でて……甘やかしてあげなければ。

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