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第42話 ド変態と打ち合わせ

「ん゛、ん゛っ。さて、おふざけはこれくらいにして。そろそろ打ち合わせに入ろうか」


「どの口が……」


 おっほん、と咳払いして俺の言葉を完全に無視したアカネさんは立ち上がり、小さな棚の上に置かれていた紙を一枚取ってきて、机の上に置く。


「マネージャーさんから、当日のコラボ内容で出来ることと出来ないことをある程度リストアップしてもらったの。あ、可能な日程の一覧もあるから、目を通してみて」


 てっきり今日はずっとあのテンションで来るのかと思っていたが、どうやらちゃんと真面目に打ち合わせする気もあったようだ。


 サキがその紙を受け取り、俺もその内容を横から確認する。文字は印刷されたもので、マーカーが引かれていたり日付の位置がピチッと揃えられていたりと、マネージャーさんの細かさがよく伝わってくる。


「雑談か、ゲーム配信か、歌枠……」


「そ。サキちゃんはどれがいい?」


 雑談、といっても、まだ初絡みの二人がいきなりずっと喋っていられるのかは、少し疑問なところだ。アカネさんはまだしも、サキにそこまでのトークデッキがあるか分からないうえに、相手はずっと憧れていた人。たじたじになって会話が途切れたりしてしまうと、印象はあまり良くはならないだろう。歌枠も同様で、声が震えたりしかねない。


 と、なれば……


「ゲーム配信がいいです! 配信できるゲームの内容とかも、決まってたりするんですか?」


「んー? まあ、そうだね。勿論色んな問題上から配信できないゲームもあるにはあるよ。でも、そういうのってあまり多くはないから気にしなくて良いかな。それに……」


「それに、なんです?」


「私、サキちゃんはゲーム配信がいいって言うだろうと思って、もうマネージャーさんに一個候補を上げてあるんだよね。サキちゃんさえよければ、それをやりたいなって」


 おお、なんという手際の良さ。さっきまでやれディープキスだのおっぱいだの言ってた人の行動とはとても思えないな。流石一応は凄い人なだけのことはある。


「そのゲームって、何なんですか?」


「んー、言ってもいいんだけど、どうせなら配信が始まってから知った方が面白くない? 少なくとも、サキちゃんは絶対にプレイしたことないゲームだろうからさ」


「わ、分かりました……。機種はSmitchで大丈夫です?」


「うん、大丈夫だよ〜。あ、そうだ。コラボ形式なんだけどさ、オフコラボか家同士で通話を繋げてか、どっちがいい? もしオフでやりたいなら、私の配信部屋で用意しておくけど」


「い、いいんですか!? アカネさんの、配信部屋で、私が……ぜひ! ぜひやりたいです!!」


「よーしよし、お姉さんに任せておきなさいっ♪」


 やはり、サキはアカネさんに相当の憧れがあったのだろうか。セクハラ祭りを受けてもなお、同じ空間で二人きりになる道を選ぶとは。


 まあでも憧れの人で、かつファンだった有名Vtuberと一緒にコラボできるうえに、普段使ってる配信部屋を使わせてもらえるんだもんなぁ。そりゃあ、やりたいってなるか……。


「じゃあ、あとは日程だけだね。私的には七月七日とかいいと思うんだけど、どうかな?」


「あ、すみません。その日はちょっと……」


「ん? 用事か何か?」


「誕生日、でして……お兄ちゃんと、一緒に過ごしたくて……」


「Oh……尊い……」


 サキの尊さがクリーンヒットし、胸を押さえたアカネさんはそう呟くと、照れ照れとしているサキに訂正を入れる。


「おっけーおっけー。あとその紙に書いてる日程だと、七月一日、三日、十二日、二十四日かな。えと、今日が六月二十二日だから、早くても一週間は先だね。別に今すぐどれか選べ! って訳でも無いんだけど、ある程度候補は絞れたりする?」


「んー、そう、ですね。こっちの配信は週二日って決めてるだけで曜日設定はありませんし、大学の方も土日は暇になるはずなので。三日の土曜日なら、安定して空けられると思います」


「よぉし、じゃあ三日で! 私もコラボ早くしたいし、七月末まで待つのは嫌だったからね! そう言ってもらえると嬉しいよぉ。じゃあどこかのタイミングで機材の調整とかの日は取りたいから一度来てもらうと思うけど、ってくらいで打ち合わせは終わりかな。何か、分からない点とかある?」


「いえ、大丈夫です!」


 打ち合わせは始まるまでは長かったものの、いざ始まってみると五分も経たずに終わってしまった。


 部屋や機材、ゲームソフトの手配まで全てアカネさんの方に任せている分、行ったのは日付と形式決めだったし。内容もスルスルと頭に入ってきて、この人は「人に伝えるのが上手い」のだと、本当にそう思った。


「あ、あと最後にもう一つ。できれば、お義兄様にも付き添いとして来てもらいたいの」


「え? 俺もですか?」


「うん。だって……」


 さっきまでの落ち着いた雰囲気は消え、はぁ、はぁと荒い息を吐きながら、アカネさんは呟くように言う。


「配信中は大丈夫だと思うけど、その……それ以外の時間サキちゃんとずっと二人きりだとガマン、出来なくなっちゃいそうだから……」


「あー、はいはい。ストッパー係ですね分かりました」


 ほんと、人が感心していた時にそれをサラりとぶち壊すのはやめてほしいものだが、言って治りそうな変態度でもない。どちらにせよ俺もついて行っていいか聞くつもりだったし、ちょうどいいか。


 本来なら百合に挟まる男など死刑ものだが、今回ばかりは事情が違う。彼女の貞操がかかっているのだから、挟まらざるを得ないのだ。


「よし、とりあえずお終い! 二人とも、この後時間あるならいくらでもゆっくりしていってくれて大丈夫だからねぇ〜」


「はい! じゃあ、その……色々、お聞きしたいこととかあって!!」


「よーしよし。とりあえずもふもふぱふぱふしながら話を聞こうじゃないか。こっちへおいで」


「お? もうストッパー係の出番か?」




 こうして、打ち合わせは無事終わり、アカネさんとは共に三人で色々話したり、ゲームをしたりして。最後に頼んでくれた出前を夜ご飯として頂いてから、夜になってようやく俺たちは帰路へとついたのだった。

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