「ん、にゅぅ……?」
くしくしと目を擦りながら、口元から少し涎を垂らしてサキは目覚める。そんな様子をほんの少し早く起きていた俺は、隣から眺めていた。
「おはよう、サキ。涎垂れてるぞ」
「……はわっ!」
腕でそれを拭き取りきちんと目を覚ますと、まるで「なんで起こしてくれなかったの」とでも言わんばかりに、ジト目で見つめられる。
だって仕方ないじゃないか。俺の隣で、気持ちよさそうにスヤスヤと寝ているその姿に、つい見惚れてしまったのだ。できればいつまでも見ていたかったが、起きたら起きたでやっぱり反応が可愛くて素晴らしい。
「ん、もぉ。今、何時……」
そう言って机の上に置かれていた自分のスマホを手に取ったサキは、「あ、誰かからDM来てる」と言って、ツオッターを開く。と、同時に。身体をビクンと大きく振るわせて、スマホを手から落とした。
「ど、どうした!?」
「あ、あわわ……あわわわわわわっっ!!」
DMを見てここまでの動揺。もしかして、ファンから卑猥な写真でも送られてきたか……? そうなのだとしたら、今から乗り込む準備をしなきゃいけなくなるが。
「み、みみみ見て、これッ!!」
「んー? どれどれ……」
どうやらまだメッセージ画面は開いてはいないようで、メッセージ一覧から未読のものを表示している欄を見ると、そこには短い、一件の文章が。
「コラボ、しませんか……? おお、良かったなサキ! 柊アヤカ、初コラボじゃないか!?」
「よく見て! この、差出人……!!」
「ほえ?」
目を擦り、もう一度画面を凝視する。
すると差出人の名は「赤羽アカネ」と、表示されていたのだ。
「赤羽アカネェェッッッ!?!?」
赤羽アカネ。個人勢Vtuberの一人であり、その登録者数は70万人超え。企業Vとタイマンを張れるほどの知名度の持ち主であり、個人Vの先駆者。
名前の通りの赤く長い髪に、豊満な胸。その上身長も高く、アヤカとは全く違って姉御肌な感じのVtuberだ。
「ど、どどどどどどうしよう!? は、早く返信しなきゃ!?」
「お、おおお落ち着け! まだ既読は付けてない!! ここはちゃんと文章を考えてだな……!!」
個人Vトップである赤羽アカネとのコラボ。これは柊アヤカにとってまたとない機会であり、絶対に逃してはならないものだ。
『返信遅くなり大変申し訳ありません! ぜひ、コラボさせつかまつり申したい所存でございます!!』
「おい、敬語が大渋滞起こしてるぞ!? って、もう送信してるし!!」
「だってだってだって! 既読つけたらすぐに返さなきゃいけないし!!」
と、二人してテンパりまくりでメッセージ画面を見つめていると、
『アハハ、アヤカちゃん面白いねww オッケー! じゃあマネージャーさんに色々確認してくるから、打ち合わせ日程とかまた連絡するね!』
『はiっ!』
『誤字誤字www』
『あっ! す、すみませんっ!!』
『緊張しすぎだよw リラックスリラックス(^∇^) じゃ、多分夕方くらいには連絡すると思うから、よろしく〜!』
『はい!!!』
会話がひと段落すると、サキは「はぁ……」と安心したように肩をすくめた。というか、コラボのお誘いメッセージを送ってきてたのは昨日の夜のことだというのに、次の日の朝に返事されて即レスできるこの人凄いな。
まあ何はともあれ、無事コラボできそうで何よりだ。
「おめでとう、サキ。本当に凄いことだぞ、これは」
「うん! なんか、現実味無さすぎてまだ夢の中にいるんじゃないかって思ってるもん……」
「夢じゃないぞぉ〜」
「ふにゃ!? むにむにしないれよぉ〜!」
ほっぺたをつねる代わりに優しくむにむにして伸ばしてやると、サキはそれでも尚嬉しそうに、頬を緩ませた。
「アカネさんと、こらぼぉ。えへへへへっ……」
あー、俺の彼女本当に可愛い。ほっぺたむにむにされて餅みたいに伸びながら、そのまま溶けてしまいそうなほどに甘く幸せそうな顔をして。これは自然とこちらの表情筋も緩んでしまうというものだ。
「むにゅぅ……かずとぉ、安心したらお腹空いてきたよぉ〜」
「よぉ〜し任せろ任せろぉ。お兄さんがなんでも買ってやるからなぁ〜」
「やったぁ〜〜〜」
そうして俺はしばらくもちもちを楽しんだ後、サキのリクエストにより、一緒に朝メックを食べに出掛けるのだった。