ポロンッ。そろそろ二十三時を回ろうかという、夜遅く。サムネイルを作ろうとしながらもベッドの上で動けないでいた私の枕元に置いていた、スマホが鳴った。
『サキ、やっほ』
『どうしたの? 優子』
『なんか暇だったから呼んでみた(笑)』
『私は暇じゃないんだけどなぁ……』
『ふふっ、その割には即レスだったね?』
『う゛っ』
痛いところを突かれた。確かにやらなければいけないことはあるが、それに取り掛かれておらずベッドの上でゴロゴロしている今の時間は、暇だと言っても過言ではない。
『ま、暇だからってのは半分建前なんだけどさ。それよりどうよ? 和人君と変に気不味くなったり、してない?』
『え? そうだね。普通だよっ』
『ふぅん。サキと和人君なら、急に恥ずかしさでお互いの顔が見れなくなって……みたいになるかと思ってたのに(笑)』
『もぉ、面白がらないでよ……』
まあでも、これに関しては私も意外だった。
もうちょっとこう……会話では表し辛いような空気感というか、距離感というか。無意識にそういうのを作ってしまうのではと思っていたのに、今日一日あまりにも普通に過ごせて。
なんていうか、日常の一部に「キス」という行為が加わったっていう、そんな感じがしてる。
『あれからは家でもした感じ?』
『うん。和人は自分の寝室で寝てるんだけど、その前に一回だけ』
『お〜! お休みのチューってやつじゃん!』
『あ、うん……そう言われると、なんか照れる(笑)』
『照れてるサキも可愛いよ〜!! ちゅっちゅっちゅ〜♪(´ε` )』
『やめてやめて(笑)キスは和人専用だからっ』
『ひゅ〜! あっつあつだぁ!!』
なんか、優子と話しているとホッコリしてしまう。高校で初めて話した時から思っていたことだけど、優子はなんだか、こう……人との距離感を作るのが上手い。
私に対しても、和人に対しても。ちょっとずつ仕草や言葉選びをとても上手にしてくれているから、話していて疲れない。それに、話題のフリや時には聞き耳を立てる技術もあるから、本当に尊敬している。
『さてさて、サキ君や。一先ず大人の階段を一段上がることに成功した君だが、油断してはならないよ? まだ、君は一番必要なプロセスを踏めていないからね!』
『そ、それってやっぱり……エッチなこと?』
『当然っ♪ まあ今日会ってみた感じ和人君はサキにゾッコンだから飽きられるってことは無いだろうけど……それでもやっぱり、いつかはしなきゃいけないことだからねぇ』
『う、うん。分かっては、いるんだけどね……』
『勇気が出ない?』
『……うん』
きっと和人なら、私の嫌がるようなことは絶対にしてこないと思う。ちょっと変態なところもあるけど、やっぱり根はとても優しいから。
でも、問題なのはそこじゃ無い。私が怖いのは……
『私なんかで、和人を満足させてあげられるかなって。それが、怖いの……』
『そっ、か……なんて、甘い言葉かけてくれると思ったか! このおたんこなす!!』
『おたんこなす!?』
『そうだ! サキはおたんこなすだっ!! そんだけ可愛い顔してて、おまけにご立派なおっぱいまであるくせに!! もっと自信持ちなさいッッ!!!』
『で、でも……』
『でもじゃない! サキの性格は知ってるつもりだし、焦ってすぐにしろなんて言わないよ? でも、自信を失ってナイーブになるのだけは絶対ダメ!! サキが和人君を好きなら、尚更!!!』
『優子……』
『相談ならいくらでも乗ってあげるし、失敗しても私がよしよししてあげるから! だから、積極的に! ねっ!!』
『積極的にって、具体的には?』
『え? それは当然、その爆弾おっぱいでこう……ガバッと!』
『ちょ、何言ってるの!?』
『あははぁ、冗談冗談♡ まあでも、大まかに言うとそういうことだよ。持ち味は活かしていかなきゃ』
『……分かった。ありがと、優子。その、ガバッとみたいなのはしないけど……なんだか優子にそう言ってもらえると、出来る気がしてくるよ』
『いいってことよ! 私はサキの親友だもん♪』
そうだ。私は、アヤカに負けないほどに和人に好きになってもらわなくちゃいけない。アヤカの積極性を……超えなきゃいけないんだ。
私には、こんなにも心強い親友がいる。優子が居てくれるなら、きっともっと頑張れる!
『優子、和人にもっともっと好きって言ってもらいたいの! 何か良い方法教えて!』
『よーし任せろ! いざ、作戦会議じゃー!!\\\\٩( 'ω' )و ////』
優子の送ってきた顔文字に思わず「ふふっ」と笑いを漏らしながらも、スマホの画面が切り替わって着信がかかってくると、私はすぐにそれに応答した。
こうして、夜は更けていく。
親友と二人きりの、楽しい楽しい作戦会議の時間だ。