『いけっ! カーボィの底力、見せつけて……ちょ、やめっ、やめて!? 腹パンはよして!!』
早速始まった第一試合。アヤカは既にボコボコにされていた。
それも、ただやられているだけじゃない。相手キャラは「キャプテンバルカン」という名の機動力、パンチ力共に優れた優秀キャラなのだが、いくつかある攻撃コマンドのうちの一つのみを使われ、舐めプで負かされていたのだ。
『うぇっ! ちょ、ダメ……いたっ!? う゛ぇっ!?』
そこには昨日のような色っぽさは欠片も無く、ただ腹パンをされて変な声を上げながら反撃できずサンドバック状態のアヤカがいた。まさか、カーボィもこんな事になるなんて思ってもいなかっただろう。
:腹パンボイス助かる
:いいぞ、もっとやれ
:新たな何かに目覚めそう
と、これにはコメント欄も大歓喜のご様子。バルカンもカーボィのダメージゲージが90%を超えているのに、対してダメージの入れられないその技を何度も、何度も繰り返して腹パンを続けていた。
まさにアヤ虐の真骨頂。舐めプ×腹パン×アヤカの悲鳴で、リスナー大歓喜である。親衛隊とは何だったのだろうか。
『こん、のぉ! こうなったら、最終手段を使うからね!!』
「最終、手段……?」
通算二十回目ほどの腹パンを喰らいながらそう叫んだアヤカは、バルカンから距離をとった。そしてフィールドの一番端へと移動し、飛び降りる……途中で、フィールドに宙吊りになった。
『これでもう腹パンできないもんねっ! ばーかばーか!!』
腹パン縛りを続けているバルカンからすれば、手が出せない位置。アヤカから攻撃することもないが、攻撃されることもないという、めちゃくちゃバカっぽい戦術である。
それは確かに腹パンを封じることができるが、決して無敵の場所ではない。このゲームにはちゃんと、そういった位置にいる相手を突き落とす、蹴り技が────
『ん゛に゛ゃッッ!?』
ボゴッ。あっさり腹パン縛りを解いたバルカンは、カーボィのまん丸な頭を思いっきり踏みつけ、そして場外へと突き落とした。
結局アヤカは一、二回しか攻撃をすることは叶わず、挙げ句の果てにとことん舐めプをされての敗北だ。
『くぁぁぁぁっっっ!!!』
当然、本人は大変ご立腹。もはや同情すら覚えてしまうほどに、これでもかと机が台パンをかまされていた。
(しかもこの音、ちゃんとリビングまで響いてくるから怖いんだよなぁ……)
配信画面からは勿論そうだが、そのあまりに大きな音は直接リビングまで扉を貫通して漏れ出していた。
止めに行きたいところだが、配信中に男の声なんかが入ってしまえばもれなくアヤカは大炎上。流石にそうなることくらいは分かっているため、止めるに止められない。
『バンッ! バンバンバンッッッ!!!!』
つい数分前まではメスアヤカだなんだとガチ恋勢が騒いでいたというのに、今ではどうか。
:音がえげつない……
:アヤカにDVされたらこんな感じなのか
:さっきのバルカンニキ、後で裏でひっそり消されてそう……
こんな感じである。たまーにアヤカにどつかれたい志望のドMがいたが、ソイツらを除けば全員ガチ恋とは程遠い感情……少し恐怖にも近いものを抱きながら、画面を眺めていた。
「獣みたいになってるぞ、アヤカ……」
さっきまではまだ唸っている声が可愛くて中和されていたが、今はひたすら無言で台パンだけを続けているからただ純粋に怖い。だが何故かこの間にも同接数は2300にまでグングンと伸びているから、さては世の中にドMって結構いるのだろうか。
『ふぅーーっ!! ふぅぅーーーーっっ!!!』
だが、やっと少しだけ落ち着いてきたのか。台パンの音は次第に止み、アヤカの荒々しい呼吸音と共に、画面内は静寂に包まれていった。
『すぅーっ、はぁーー。すみません、ちょっと荒れちゃいました……』
いや、ちょっとってレベルじゃなかったけどな……。普通に人殺しそうな威力だったぞ今の。
『さ、気を取り直して次の試合行きましょう! あ、さっきのバルカン使いの人はあとで家に行って直接報復しておくのでご心配なく〜♪』
いやご心配するが!? ごめんなさいバルカン使いの人! 俺の彼女から今すぐに逃げてくださいッ!!
『さあ、じゃんじゃん試合していこうかなっ♪ 初心者の私が勝てるような相手だといいなぁ〜ふふふふふっ』
顔は笑っているのに、声は笑っていない。そんな細やかな圧を受けたその後の挑戦者たちに、アヤカは全勝をあげた。
バルカンの時のような煽りプレイもなく、ただ純粋にみんなアヤカのカーボィに滅殺されていく。当然本人は喜んでいたが、勝率から見て明らかに姫プである。
(それでいいのか、アヤカよ……)
ちなみにこの日、同接者はアヤカ史上初の5000人を突破し、登録者も500人ほど増加したという……。