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第24話 彼氏専用ASMR3

 かきっ、しょりしょりしょりっ────


「ん、ん……っ!」


「あ、今和人ビクッてした♪ かわいいなぁ……」


 耳の外側から、徐々に内側へ。綿棒が優しく俺の耳を刺激しながら動き回る。


 しょり、しょりと皮膚を削られるような音が耳に響くながらも、それでいて決して痛みは伴わない。


 心地良くて、気持ちよくて。不覚にも身体を反応させてしまう。それを見てサキは、嬉しそうに微笑んでいた。


「普段は私のこと散々揶揄ってくるくせに、こうなっちゃうと和人もよわよわだねぇ」


「っ……そ、そんなこと……」


「え〜? 本当かなぁ〜」


 サキはそう言って耳の外側の溝に綿棒を当てると、そのまま一箇所を重点的にほじほじと責めてくる。


「んっ、っぅ!?」


「動いちゃダメだよぉ。ほら、ここ気持ちいいんでしょぉ〜?」


「ちょ、サキ……そこ、やめっ……」


 明らかに、今までとは違う。自分でも気づいていなかったらしい耳の弱点を突かれ、俺はたじたじになっていた。そのうえそこを突くことに必死でまた一段階前傾姿勢を進めたサキの胸も強く押し付けられ、二重の快感が襲う。


 本来なら、こんなはずではなかった。赤面して恥ずかしそうにしながらも耳かきをしてくれるサキに色々なおねだりをして、いつも通り優位に立った状態でこのご褒美を終えるつもりだったのだ。


 それがまさか、こんなことになるなんて……。どちらかと言えばM気質な雰囲気のあるサキから、今はSの波動を強く感じる。Mな者にはSの素質があるというのは、どうやら本当だったらしい。


「和人、縮こまっちゃって♪ 普段の威勢はどうしたのかにゃ〜?」


「サキ、お前────っ!」


「ふぅ〜〜〜っ♪」


「んおぉっ!?」


 ビク、ビクッッ! 俺の身体が、突如浴びせられた小さな風によって痙攣する。


 その正体は、至近距離まで近づいたサキの口から放たれたもの。反射的に耳を手で隠そうとするが、そらを読んでいたのか、ガッチリと腕を掴まれて抑えられてしまう。


「動いちゃダメって言ったでしょ? 男の子なんだから、ちょっとはガマンしなきゃ♪」


 くり、くりくりくりっ。


 指で耳をすーっとなぞられ、再び俺の身体は震える。それを見て楽しんでるサキは、もういつものサキではないように見えた。


 俺は今、サキに弱点を知られ、剥き出しにされて。まさに、全てを握られている状態なのだ。


 だが、逆らうことは叶わない。俺はもう、大人しくこの快感を身体に流しこまされ続けるしかないのだから。


「さて、そろそろ本番いっちゃおうかな。気持ちよくなってくれてるのは反応を見ていれば分かるんだけど、ここからはもっと……もっともっともっと、気持ちよくなってもらうからっ♪」


「これ、以上……?」


「そうだよっ」


 そう言ってサキはもう一度顔を近づけ、耳元まで口を近づけるとその場で、甘い声で囁いた。


「覚悟してね。……か・ず・と♡」


 気づいた時には、もう遅い。


 俺の身体はその声に耳から支配されたかのように、固まって動かなくなってしまっていた。


◇◆◇◆


「っ……んっ……んん……っ!」


「えへへぇ♪ 和人の無防備な姿……かわいいよぉ」


 耳の穴を奥深くまで綿棒で弄られながら、同時にサキの甘い声が流し込まれる。


 先程までは抵抗していた俺も、気付けばそんな状況に身体も心も奪われていて。ただ快感だけを感じながら、されるがままに目を閉じていた。


「和人のお耳、キレイだね。これだけほじっても、ほとんど何も出てこないや……」


「そう、なのか? 耳掃除なんて、最後にしたのは一週間くらい前なんだけどな」


 まあ耳を汚いと言われるよりはいいのだろうが、サキは少し物足りなそうな物言いをしていた。


 だが、耳の汚れなんて自分でどうにかできる問題じゃないしな。無い物は仕方ないだろう。


「むぅ。和人、逆向いて?」


「ん……」


 ゴロン、とその場で身を反転させると、俺の胸元には二つの巨峰。ついさっきまで背中に当てられていたものが、次は真正面から押し付けられることとなった。……最高である。


「あ、こっちも結構キレイだ……。もぉ。大物育てておいてよぉ」


「大物て……」


 左耳も同じように外側から、丁寧や耳かきが始まったが、流石に初めての時のような衝撃はなく、俺の身体も少しずつ慣れてきているようだった。


 まあ少し視線を下に向ければ色々と見えるこの状況にはまた別の意味の興奮を覚えているが、それは置いておいて。それよりも、俺は一つの提案を思いついたのだ。


「なあ、サキ? これって一応、ASMRの練習なんだよな?」


「ん、そうだよ?」


「なら、耳かきだけじゃなくてもっと……柊アヤカバージョンの囁きボイスの練習とか、しておいた方がいいんじゃないか?」


「……」


 俺がそう言うと、ピタりとサキの手が止まる。


 もしかして、何か言ってはいけないことを言っただろうか……? サキがアヤカに嫉妬をすることはよく知っているが、ASMR配信をするのはサキではない。ちゃんとアヤカとしても技術を磨いておく必要があると思っての提案だったのだが……。


「ふぅん。つまり和人は、私だけじゃなくてアヤカにも、こういうことしてもらいたいってこと?」


「……否定は、しない」


「できないの間違いでしょ。まあ、でも……たしかにアヤカの練習もしておく必要は、あるよね……」


 一瞬考えるような動作をとったサキはそう呟くと、小さくその場で深呼吸をして息を整える。そして小悪魔的な笑みを浮かべると、左手で俺の目元を隠し、身体を俺にぴっとりと引っ付けて。その小さな顔を耳元に近づけ、言った。


「変態のクロサキ君っ♪ アヤカが、いーっぱい気持ちよくシてあげるからねっ」




────柊アヤカへと、変貌を遂げて。

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