ぽすっ。頭を置いた瞬間、俺の身体はこれまでにないほどの安心感に包まれた。
まるで、赤ちゃんが母親の腕の中で眠るように。そこには確かに、温かな拠り所としての魅力があったのだ。
「か、和人? ……ひぁっ!?」
手でそっと摩ってみても、柔らかすぎず、それでいて硬すぎず。俺のために作られた太ももなのではないかと思えるほどに触り心地は極上で、この上でならいつまででも寝られる。そんな気さえ、起こるほどだ。
「サキの太もも、めちゃくちゃ気持ちいい……」
「ちょっと、むにむにするのやめてよ!? あ、ひぅ……っ、んんっ!!」
ビクッ、ビクビクッ。太ももを触るたび、サキの身体が小さく震える。流石にこれ以上はやめておくかと思って様子見がてら少し上を向くと、そこには驚愕の光景が。
プルプルと震えている細い腕なども妙に色っぽいが、何よりサキの顔を見る前に、目の前には二つの大きな障害物がぽよんぽよんと揺れていたのだ。
「ひゃっ!? 髪の毛、こしょばぃっ!」
「おお、これは凄い……」
前や上から見る胸も中々の物であったが、下から見るとこれまた別の良さがある。圧倒的な存在感を感じられるうえに、揺れているそれらでサキの顔が完全に隠れてしまっているのもまたいい。
「ちょっと、和人! 動かないで……って、あれ? この体制、和人の顔見えないんだけど……」
「奇遇だな。俺からもそっちの顔見えないぞ」
もはや完全に仰向けの体制をとりながら、サキの胸に向けてそう語りかける俺と、俺の顔を必死に左右から見ようとしてぶるんぶるんと無意識にそれを揺らすサキ。なんだろう、これ。俺今日死ぬのかな?
「もぉ! 和人絶対変なところ見てるでしょ!? 大体、こんなんじゃ耳かきできないよ!?」
「それは困ったなぁ。俺はこのまま色々と堪能しておくから、頑張って打開策を考えてくれぇ〜」
「膝枕をやめれば済む話だよね!?」
いやぁ、弱ったなぁ。まさかサキの最大の武器がこんなところで牙を剥いてくるとは。流石に膝枕しながらの耳かきが物理的に不可能になるなんて、想像もしていなかった。まあ、でも……
「おっ。今チラッとおへそ見えた。えっちだなぁサキは」
「えっちなのは和人の方だよ!! あ、んぅっ……また、太ももすりすり……んにゃっ!?」
「なんだ今の声めちゃくちゃ可愛いんだが。もしかしてサキ、太もも触られて感じ────」
「くすぐったかっただけだから!! いい加減にしないと、ほんとに怒……ひゃんっ!?」
指でそっと内ももをなぞったり、ひざ小僧をさわさわしてみたり。色んなことを試すたびに面白い反応をするサキを見てついつい調子に乗ってしまい、次は更に踏み込んで別の場所を……とおへそに手を伸ばそうとした、その瞬間。
「和人? それ以上したら……分かる、よね?」
「……え?」
突然声のトーンが下がったサキから、一声。そして同時に右腕が、俺の下半身へと伸びようとしていた。
その延長線上には、男にとって最も大切な物がくっついている。危ない、非常に危ない。もはや命の危機と言っても過言ではない。
「あ、あの、サキさん? 一体その手で、何を?」
一応確認として聞いてみると、サキは普段の声のトーンのまま、呟くように言った。
「それ以上したら……もいじゃうから」
「…………すいませんでした」
俺がそう言って責めを止めると、サキもその手を引っ込めた。そして同時に、呆れたようなため息が口から漏れる。
「はぁ……ほんと、和人はすぐ調子に乗るんだから。ほら、早く頭どけて? ソファーの上で続き、しよ?」
「むぅ。仕方ない……か」
できないものはできない。膝枕からの耳かきという一つの男の夢が潰れた瞬間だったが、まあこういう潰され方なら悪くはないだろう。二つを組み合わせなくても、一つ一つで十分最高なわけだし。
俺は素直に従って、そうしてソファーの上に寝転がった。
「もぉ、最初から素直にそうしててよね。……まあ、私だってまさかこんなことになるとは思ってなかったけどさぁ」
「恥じることはないぞ。これはむしろ、栄誉と言ってもいい。正座したら自分の太ももが胸で隠れて見えないなんて、ごく少数の者しか会得できない萌えポイントだからな」
「も、萌えとか! そんな恥ずかしいこと言わなくていいからっ!! ほら、早くそっち向いて!!」
「へいへいっ」
顔を赤くするサキを横目に身体をゆっくりと動かしてソファーの背もたれの方に顔をやると、後ろからサキが近づいてきて、俺の耳を丁寧に触る。
「ん。見え辛いから、ちょっとだけこっち寄って?」
「え? お、おう」
ずりずりずり。腰を動かして身体をずらし、サキにそのままの体制で近づく。すると────
「よしっ、これでよく見える♪」
ぽにゅんっ。
俺の背中を、柔らかな感触が襲った。
「じゃあ、始めるよぉ〜」
むにゅ、むにゅむにゅむにゅっ。
サキが身体を前に屈めると、それはより俺の背中に激しく密着して、形を変えていく。
「ふふっ。和人のお耳の穴、ちっちゃくてかわいい……」
「は、はぁっ……はぁ……っ!」
甘々な声だけではない。そこに綿棒の心地よい感触と押し付けられる胸の危ない感触が加わった、俺だけが味わうことができる最強のASMR環境の完成である。