「あっ、和人! そんなところ……ひぁぅっ!?」
「ダメだ。もう我慢できない」
「だめ、だめだって……まだ、それはっ────!」
「問答無用ッッ!!」
俺はそれまでは優しく接していたのをやめ、本気の指使いで責めを続けた。
「ん、にゃぅ……ひぁんっ!? 本当に、ソコはだめだってぇ!! まだ、負けたくないのに……こんなの、もう戻れなくなるよぉ……っ」
「いいだろもう、戻れなくなっても。そろそろ、限界だ……」
「だめっ! だめだめだめ!! 和人、待っ────!!」
弱点を責めるたびに涙目で声を漏らし、必死に俺を制止しようとするサキを無視して、俺は一気に自分の中の欲望を放出した。
「────落ちろぉぉぉ!!! クッペ様の甲羅プレスじゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ん〝にゃぁぁぁぁっっ!!?」
俺の幾度と続く手加減プレイによって徐々にダメージが蓄積していたカーボィは最後の大技によって呆気なく場外へと消え、画面には「K.O.」の堂々たる文字。完全決着である。
「はっはっはっ!! これで俺の四連勝じゃあ!!」
「カーボィ! 私の、カーボィがぁぁ……っ!」
半ば練習のような形から入った乱闘。一戦目、二戦目ほどまではお互いに操作性の難しさに苦戦を強いられ、かなり低レベルな泥試合の末にギリギリ俺が勝利。
だがその辺りから段々とサキの明確な弱点に気付いた俺は次の二試合、新技を試したり多少の手加減をしながら、カーボィをサンドバック状態にしてボコボコにしていた。
ちなみに途中何やらサキが誤解を招くような発言を繰り返していたが、気にしないで欲しい。むしろこれを聞いて変な気になった人達、反省しなさい。
「お前、困ったらボタン連打ばっかりしだすんだもんなぁ。ガードくらい出さないと、ずっと腹パンされ続けるだけだぞ?」
「和人、ひどいよぉ。初心者のふりして、裏で練習してたんでしょ! 私に延々と腹パンし続けるために!! 本当に性格悪い!!!」
「失礼な!! 本当に初プレイだっての!!」
どうやらサキのゲームセンスの無さは、ユリオカートに限ったものではないらしい。
すぐにテンパり操作がおぼつかなくなるのも、気づけばガードすることを忘れて攻撃ばかり仕掛けてきて結果返り討ちになっているところも。まあサキらしいと言えばらしい気もするが、悪癖にもほどがある。
「ぶぅぅ……いじわる和人は嫌い。一緒に強くなろうって言ったのに、すぐに私のこと置いていって……」
「置いてかないっての。俺はサキがどれだけ下手くそでも、ちゃんと手を引いてやれるぞ」
「怪しいなぁ……」
とは言ったものの、このままでは俺とサキの実力差は開いていくばかりだ。
サキ自身やる気がないわけではなくむしろやる気に満ち溢れているわけだが、このままではそれすら無くなってしまいかねない。
(はぁ、仕方ない、か……)
仮に俺がサキに足並みを揃えて手加減をしても意味がないし、きっとそれを良しともされない。
なら、やはりサキに強くなって追いついてきてもらうしかないわけで。俺が今、そのために切れる最大のカードはこれだった。
「分かった。じゃあ、サキが強くなって俺に勝てるようになったら、その時には何かご褒美を用意する。それなら、もっと頑張れるんじゃないか?」
「ご褒美? ふ、ふぅん? 一応その内容、聞いておこうかな……」
「そうだな。んじゃまあ安直だけど、『何か一つ言うことを聞く』とかでいいか?」
「!!?」
俺が軽くそう言うと、サキは驚きの表情を見せる。
「い、いいの? 私、結構欲深いよ……?」
「いいよ別に。サキになら、俺はなんだってしてやれる気がするからな」
それに、欲深いなんて自称してはいても、サキは根がかなり真面目だ。俺が実現不可能なことや俺に迷惑をかけるようなことは、多分お願いしてこないだろう。そもそもそういう信頼がある相手じゃなきゃ、こんな事言い出せはしない。
あと、ぶっちゃけ負ける気もないしな。
「ただし、条件がある。このままじゃ俺が一方的に損だからな」
「ん、条件って?」
「俺に挑めるのは五回まで。いつ挑んできてもいいから、充分に練習してきてくれ。あと、その五回で勝つことができなかったら……」
「できなかったら?」
「サキに、俺のお願いをなんでも一つ聞いてもらう」
「ふぇっ!?」
当たり前のことしか言っていないのだが、サキは五回では少ないとか俺が勝ったときの報酬の改善なんかを色々と申し出てきたが、全て却下。同時にサキが勝った時の報酬も変えるならいいぞと言うと、すんなり黙って簡単に了承してきた。
「分かった……。絶対、勝つからね!」
「おー、いつでもかかってこぉい。さて、とりあえず続きやるか?」
「やる!! カーボィ捌きを極めて、最後には和人をボコボコにしてやるんだから!!!」
メラメラと闘志を燃やしてそう叫ぶサキを横目に時計を見ると、時刻は午後三時半。
────徐々に、お楽しみの夜へと時間は近づいていた。