「ま、待って!? 私はいいからっ!!」
「おいおいサキさんよぉ。身体を洗わずに湯船に浸かるのはマナー違反じゃないかぁい?」
「っぅぅ!!」
どうやら、自分が洗われることは全く想定していなかったのだろう。その顔からは動揺が見てとれ、必死に打開策を探しているようだった。まあ、絶対に逃さないけどな。
「ささ、タオルをどけてくださいなっ。心配しなくても、背中だけしか見せなくていいからさ」
「で、でも……恥ずかしいよぉ」
背中を丸めて抵抗を続けるサキは、中々踏ん切りがつかないのか身体をもじもじとさせるばかりで一向にタオルを取ろうとしない。
流石に俺が無理やり剥ぐなんてことはしたくないし、できれば自発的に脱いで欲しいものだが……。
そう考えていた時、サキが目の前で「くちゅんっ!」と小さくくしゃみをした。言われてみれば、サキはまだ一度もまともにお湯を浴びれていない。ほぼ裸のような格好なのだから、身体が冷えてきて当然だ。
「サキ、このままじゃ風邪ひくぞ。早く身体洗って湯船浸かろうぜ……な?」
「かず、と……」
同時に、一度はお湯を浴びて暖かくなった俺の身体も冷え始め、身体が少し震えた。それを鏡越しに見て、ようやくサキは決意したかのようにタオルの胸元に手をかける。
「分かったよ。でも、変なこと……しないでね?」
スル、スルッ。サキの身体を包んでいた純白のタオルは解かれ、背中が露わになる。サキは胸元でバスタオルを手で押さえて少し前屈みの姿勢をとって身体の前半分を隠してはいるが、後ろから見たサキの裸体は、中々に目を見張るものがあった。
圧倒的に華奢なボディライン。背中の骨は綺麗に浮き出ていて、腰回りもかなり細い。
だがそれが嘘かのように大きな、後ろからでもチラリと見え隠れする大きな二つの果実。そして椅子に座って柔らかく少し平らに変形した、魅惑的なお尻の一部分。
自分でやらせておいてなんだが……これは、かなりヤバい。
「? 和人、どうかしたの?」
「あ、いやなんでも! 身体、洗おうな!」
声をかけられてから初めて自分が硬直していたことに気付いた俺は、急いでタオルにボディーソープを付け、その場で泡立たせる。そしてゆっくりと、その美しい色白な背中に、手を伸ばし────
「ひゃぅっ!?」
「な、なんだよ!?」
ビクンッ! タオルを背中につけた瞬間、サキの身体は大きく揺れた。同時に口から漏れた喘ぎにもとれる甘い声は、俺を激しく動揺させる。
「ごめ……なんか、くすぐったく────ひぃっ!」
「その声やめろ!? なんか悪いことしてるみたいな気分になる!!」
「は、ひぅ……っ! くふ、ひっ、ぁぅっ!?」
やがて口を手で押さえ始めたサキだが、漏れ続ける声は抑えきれない。俺がタオルを動かすたび、何度も何度も甘い声は漏れ続け、身体はビクンビクンと小さく痙攣を繰り返す。
「は、ぁっ……はぁ、ぅ……っ」
やがて背中がボディーソープでヌルヌルになった頃にはサキは耳まで真っ赤にして、両手を口元から動かさないようになっていた。ただ背中を擦っているだけだというのに……なんだか色々と、目覚めそうになってしまう光景だ。
だが、ここでサキを失望させるような行為をするわけには絶対にいかない。当然そういう欲望はあるが、それ以前にサキは大切な彼女。絶対に、悲しませたり泣かせたりはしたくないのだ。
(我慢……我慢だ……)
俺は己の中に湧き上がる感情を必死に抑え、シャワーを手に取った。
「サキ、背中流すぞ」
コクリ。サキは無言で頷く。それと共に俺は自分の手で一度温度を確認してから、お湯で背中を優しく流した。
「ふ、ぅっ……あっ。お湯、あったかいぃ……」
「お、やっと喋れるようになったか? ったく、エロエロな声ばっかり出しやがって……このムッツリめっ」
「む、ムッツリは和人の方でしょぉ!? あんな本持ってる人にそんなこと言われたくないもんっ!!」
甘いなんて次元を通り越し、このままでは俺の自制が効かなくなってしまうかもしれないとさえ思えた空気をなんとか他愛のない話でリセットし、気づけば雰囲気はいつも通りに戻っていた。
格好こそほぼ全裸であれだが、やはりサキとはこうして話しているだけでも楽しい気分になれる。
「……ねぇ、前の方も洗いたいから、できればそのいやらしい目で私を見つめてくるのやめてもらえると嬉しいなぁ。ムッツリさん? 聞いてる……?」
「…………」
「何か言ってよ!? 無言が一番怖い!!」
あれ? おかしいな……なんでさっきから視線が離せないんだろう。あはは、やっぱりサキの身体はとっても魅力的だぁ。特に、おっぱ────
「ばか和人!! 先湯船浸かってなさいっ!!!」
タオルを結び直したサキに無理やり湯船に押し込まれ、俺はザブンッ、と音を立てながら強制的に湯船に浸からされる。
(あ。暖かい……)
実は角度的に真後ろからよりも、この位置からの方がバスタオルをめくって中身を洗うサキを観察しやすいのだが……そのことは黙っておこう。