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第12話 モールデート

 車を借り、二人で乗車して移動することおよそ二十分。俺達は家から数キロ離れたショッピングモールへと到着した。


「ん、ん〜っ! 着いたぁ!」


「ま、サキは寝てただけなんだけどなぁ〜!」


 俺はずっと運転を続けていたわけだが、サキは車に乗ってわずか五分ほどで寝てしまった。多分朝ご飯を作るために早起きしてくれていたのだろうからと起こしはしなかったが、こんなにさも「私も頑張った感」を出されるとツッこまずにはいられないというものだ。


「細かいことは気にしなくていいんだよぉ。ほら、早く行こ!」


「はぁ……へいへぃっ」


 睡眠をとったおかげが随分元気そうなサキに腕を引っ張られ、早速二人でショッピングモールへと入店した。


 ここはこの付近では一番大きいモールで、服屋に映画館、百均に食料品売り場にゲームセンターなど、数多くの専門店が内蔵されている。とりあえずでデートに来るには、もってこいの場所だ。


「まずはどこ行く? 確かサキ、見たい場所があるって言ってたよな?」


「うん! 私が行きたいのはねぇ……」


 入り口から入ってすぐのところにある館内地図を眺めながらサキが指さしたのは、テレビゲームも数多く置かれている電化製品屋。まあほぼ間違いなく、ゲームを買いに行くのだろう。


「おっけー。じゃあ、とりあえずそこから行くか」


 地図を見る限り一階をそのまま真っ直ぐ突き抜ければすぐのところにある店だったので、迷うこともなく簡単に俺達はそこへと辿り着いた。


 そして着くやいなやサキはすぐにゲーム売り場へと走り、大量にゲームソフトが置かれている棚の前で目を輝かせていた。


「やっぱりSmitchのゲームソフトが目当てか。何探してるんだ?」


「えっとねえっとね、あ! これっ!」


 サキが手に取り俺に渡してきたゲームの名は、「大格闘スマッシュファーザーズ」。簡単に内容を説明すると、青天堂の誇る色んなゲームの中のキャラクター達を集めて殴り合いをし、勝負するというものだ。


 スマッシュファーザーズ、略してスマファザはユリオカートともタメをはれるほどに有名なゲームであり、よく世界大会なんかも行われていたりする。


 ただユリオカートに比べて操作がかなり難しいイメージがあり、正直新規参入でいきなり強くなるというのは難しいと思う。ゲームセンス皆無なサキからすれば、なおさら。


「サキ……非常に言いにくいんだが、それで配信してもボロボロに負ける未来しか見えないぞ……。いつも通り、またアヤ虐になる気しか────」


「ちょっと待って! 違うの。そうじゃなくて……」


 ゲームソフトを持っている方とは逆の俺の腕をきゅっ、と引き寄せながら、サキは赤面して言う。


「たしかに、配信でも使うかもなんだけど……私はこのゲーム、赤波サキとして和人と、したくて」


「え!? あ、そ、そうか。すまん」


 昨日からそうだが、どこかサキはアヤカに対して嫉妬心というか……対抗心があるように見える。アヤカの話をしたら嫌がるとかではないのだが、俺がアヤカのことを褒めたり可愛いと言ったりすると、サキは必死に俺の意識を自分へと向けようとするのだ。


 俺にとっては二人は同一人物でも、やはりサキからすればアヤカは自分とは違う。その相手に俺が夢中になることはどうも嫌らしい。


「よしよし。お詫びに俺が買うよこれ。また家で一緒にプレイしようぜ。な?」


「……うん」


 頭を撫でてやりながら俺がそう言うと、サキは安心したように腕を組み、身体を更に密着させた。どうやら、安心しきってくれたようだ。


「ありがと、和人。……大好き」


「俺も大好きだぞ、サキ」


 6480円の出費は痛手だが、この笑顔が手に入るなら安いものだ。サキの財布になろうというわけではないが、コイツのためとなるとつい財布の紐が緩んでしまう。


「えへへ……和人と、スマファザ♡」



 ここまで喜んでくれると、買ってあげた甲斐があったというものだな。俺だってサキとスマファザをするのはちょっと……いかなり楽しみだし、そのうちゲームが下手なアヤカが何故かスマファザだけは強い、みたいなことになっても面白そうだ。


(……そいうえばサキって、なんでVtuberを始めたんだろ)


 ふと、頭の中にそんな疑問がよぎった。確か半年前から活動を始めたアヤカだが、なにか特別な理由とかきっかけがあったりしたのか……?


「? 和人、どうかしたの?」


「え? あー、いや。なんでもない。早くレジ行くか」





 今この場で聞いて立ち話ってのもなんだし、そろそろ時刻は昼の十二時。きっとこのモールの中で昼飯を取ることになるだろうから、その時さりげなく聞いてみるとしよう。

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