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第11話 ホカホカ朝ごはん

「ねぇ、和人。和人ってば」


「ん、んんぅ……あと、五分……」


「ダーメ。ほら、起きて起きてっ」


 昨日の疲れがまだ残っているのか。身体中がだるい。きっともう朝なのだろうが、今日は土曜日。できればもう少し寝させてもらいたい。


「もぉ。早く起きてこないと朝ご飯冷めちゃうよ? せっかくお味噌汁も作ったのに……」


 ぼやくように俺の耳元でそう呟きながら、サキはゆさゆさと俺の身体を揺らす。薄らボヤけた目を開けると、俺の身体の真上で二つの巨峰が揺れていてまさに絶景だ。


「むぅ。せっかく同棲してるのに、私一人で朝ご飯なんてやだよぉ。一緒にホカホカのお味噌汁啜ろうよぉ〜」


 ああ、俺はなんていい彼女を持ったのだろう。俺のために朝ご飯をちゃんと用意してくれて、起こしにも来てくれる。それでいてこんな絶景を拝めさせてくれるなんて、さては女神様か何かか?


「お〜き〜て〜ぇ〜! もう十時だよぉ〜!!」


 必死に俺を起こそうとするサキの駄々っ子のような顔が可愛くて。俺はつい、意地悪をするようにもう一度寝たふりをした。あの絶景から目を離すのは少々勇気のいる行動だったが、こうすることで次にサキが何をしてくるのか非常に気になる。


「あっ!? もぉぉぉ!! こうなったら……」


 一旦俺の身体を揺するのをやめたサキは、なにやら後ろでゴソゴソと物音をさせ始めた。まるで、この俺の部屋で何かを物色しているかのようだ。


 そして数十秒でサキは戻ってくると、俺の寝ているベッドの端に腰掛けてなにかを言い始めた。


「生徒と教師の禁断の関係。俺には先生さえいれば、それでいい〜」


 あ、あれ? なんだこれ? どこかで聞いたことのあるフレーズな気がするな……?


「眼鏡爆乳妻と始める新婚生活。淫らな俺の妻は、肉欲に溺れる〜」


 おい、これまさか!?


「俺の幼なじみは、おっぱ────」


「あー! いい朝だなぁーーっっ!! あれ、おはようサキ!! もぉー! いるなら起こしてくれよぉーっっ!!!」


 俺が飛び起きてサキから奪い返したそれは、俺の秘蔵コレクションの数々。……いわゆる、エロ本であった。


 隠し場所は漫画を入れている本棚の裏の僅かなスペース。絶対にバレることのない最強の隠し場所だったはずなのだが……。


「ねぇ、和人」


「ひゃ、ひゃいっ?」


「それ、渡して。私がちゃーんと、処分しておいてあげるから」


「……はぃ」


 俺が観念して大人しくそれらを返すと、サキは不気味な笑みを浮かべる。怖い。シンプルに怒りでもしてくれればいいのだが、笑っている分余計に。


「全く。ほんと和人はエッチなんだから……。大体、そういうのは私で……」


「え? なんて?」


「な、なんでもない! いいからご飯食べよ!!」


「お、おぅ……」


 サキが何やらごにょごにょと小さな声で呟いた言葉が上手く聞き取れず尋ねてみたが、何故かサキは顔を赤くするばかりで、俺をベッドから引き摺り出して部屋から押し出してくる。


 怒っているのか、それとも今更エロ本の官能的な表紙を思い出して恥ずかしくでもなっているのか。俺には分からなかったが、まあ可愛いからなんでもいいか。


「……バカ」


 俺は失ったコレクション達のことは忘れることにして、愛する彼女のホカホカ朝ご飯へと向かった。


◇◆◇◆


 ずず、ずずずずずずっっ。


「ん、これ美味しい。なんか、家庭の味って感じがする」


「家庭の、味……? 普通に売ってるお味噌でつくったんだけど……」


 リビングで二人、共に味噌汁を啜る。その味は、これまで飲んだどの味噌汁よりも美味だった。


 どこが美味しかったのかと聞かれると答えられる気はしないが、とにかく美味い。小さく切られて入っているジャガイモも、にんじんも、お揚げも。そして何より、汁の味そのものも。なんだろう。母さんの作ってくれてた味噌汁に、似ているのだろうか。なんだか飲んでいてとても落ち着く。


「これからこんな美味い料理を毎日食えるんだもんな。俺は幸せ者だよ」


「……あ、ありがと」


 味噌汁だけに限らず、サキの料理は総合的にかなりレベルが高い。本人はあまり自信が無いそうだが、なんでも俺の喜びそうな味付けをしているだとかなんとか。


 でも俺の苦手な魚やカボチャ料理などであってもサキの作ったものならなぜか食べられるし、やはりその腕前は本物だと思う。サキに出された料理であれば、その全てが好きなものになってしまうのだから。


「あ、そうだ。和人今日暇?」


「ん? あぁ、そうだな。今日は講義もないし、課題も残してないから暇だな」


「そっか。じゃあこの後、どこか出掛けない? 私も今週はもう配信無いし、見に行きたいところとかもあるし」


「いいぞ〜。久しぶりにデートするかぁ!」


 デート、という言葉を出した瞬間、サキの顔が可愛く紅潮する。分かりやすく照れているが、それでいてちゃんと嬉しいようで。ここまで楽しみだという反応をちゃんとしてくれると、俺も連れていってあげたいという気持ちになるというものだ。


「やったぁ! 私、すっごく楽しみっ♪」


「俺もだ。朝ご飯食べて用意できたら早速行こうぜ!」




 えへへ、と小さく微笑みながらウキウキしている感情を全く抑えられていないサキとすぐに朝ご飯を済ませ、俺は早速近所のレンタカー屋さんへと、電話を入れたのだった。

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