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推しV彼女 ~最推しVtuberが俺の彼女だった件~
結城彩咲
現実世界ラブコメ
2024年08月05日
公開日
110,651文字
連載中
「私ね、Vtuber……っていう、配信業をしてるの。『柊アヤカ』って名前で、半年前から……」

 登録者10万人越えの人気Vtuber、柊アヤカ。画面越しで配信を通してしか会うことができなかった推しの正体は、彼女である赤波サキであった。

 推しVであり同時に彼女である最愛の人と、一つ屋根の下。その日を境に、俺の日常は劇的に変化していく──────

 糖分100%の甘味料同棲ラブコメ、ここに爆誕!!

第1話 柊アヤカと赤波サキ1

『は〜い、みんなこんあやか〜♪ 柊アヤカだよ〜』


 俺が食い入り気味に見つめる画面は切り替わり、お馴染みの挨拶をしながら、彼女は登場する。


『え〜っと、今日は雑談枠! 流れてきたコメントの質問に答えたりとか……まあそんな感じで緩くいきま〜す!』


 白く長い艶やかな髪に、ピンク色の美しい瞳。子供っぽい声と顔をしているというのに、しっかりと出るところは出ている魅惑のボディ。


 まさに百点満点な女の子だ。容姿、声、それに加えて少し天然で愛らしい性格を兼ね備えた、隣に誰も並ぶことが出来ないとすら感じてしまう程に、完璧な存在。


 彼女こそ、今まさに俺が推しているVtuberの柊アヤカ。ここ最近の大学の面倒な講義や課題の疲れも、この配信の為だと思えば大した問題ではなかった。


 なにせ、今日は待ちに待った雑談枠。普段はゲーム実況を主として活動しているアヤカちゃんが雑談枠を取ったのは、およそ一ヶ月ぶりだ。


「やっと……やっとだ……!」


 では何故俺がここまで雑談枠を楽しみにしていたのか。


 それはズバリ、「コメントの読まれやすさ」だ。


 アヤカちゃんはお世辞にも、ゲームが上手いとは言い難い(そんなところも可愛いのだが)。つまりゲーム中は、コメントに目を通す暇がなくてほとんどのものは彼女の目に映ることすらなく流れていってしまう。


 だが雑談枠であればその心配はない。登録者十万人越えの人気Vである彼女のコメント欄は人が多く必ずコメントが読まれるというわけではないが、それでも普段に比べれば天と地の差。読まれそうな内容のコメントを読まれそうなタイミングで投下すれば、必ずいつかは読まれるはずだ。


『んーとね、何から話そうかな……。実は私、今日寝坊しかけたからトークデッキとか何も無いんだよねぇ〜』


「マジかっ!」


 俺は、思わずその場でガッツポーズした。


 トークデッキが無い。それ即ち、会話内容は完全にコメント欄に依存するという事だ。これは、更に読まれる確率が上がったと言ってもいい。


 事実、俺と同じことを考えたのであろう人達が次々とコメントを投下し、画面に表示されているコメント欄は爆速で流れ始めた。当然、俺も負けじとコメントする。


「このために待機してたんだ……頼むぞ!」


 俺が投下した内容は、『アヤカさんホラゲーしてください!』というもの。


 初配信の時にホラーが苦手だと言っていた彼女はそれから一度もホラゲ配信なるものをしていない。きっと、本当に苦手なのだろう。


 だが……俺はそんなアヤカちゃんがホラゲをプレイして怯える姿が見たい! 変な声で悲鳴あげちゃったりとか、泣きそうになりながらあからさまに幽霊が出そうな場所の手前でぐずりだしたりして欲しい!!


『う〜ん、なになに〜? 今期で見てるアニメ? えっとねぇ、あ! そうだアヤカね、シンガリの巨人見てるよ〜! あれ面白いよねっ!!』


「くぅ……流れていった……」


 流石にそんなに上手いように行くわけもなく、初めに選ばれたのは俺のコメントではなくアニメ関連のもの。


 おそらくだが、コメントを読まれるかどうかというのは内容云々よりもタイミングの運の側面が大きい。


「初見なのですが〜」という始め方でコメントをすれば読まれる率は上がる気もするが、嘘をついてまでというのは些か罪悪感がある。


 それにもし俺の名前をなんらかの奇跡でアヤカちゃんが覚えていた場合、俺は嘘をつく人というレッテルを貼られてもう二度とコメントを読んでもらえなくなるかもしれない。それだけは、絶対に嫌だ。


「まあ、まだ時間はたっぷりあるしな。タイミングを見計らいながら何度かコメントすれば、きっと……」


 アヤカちゃんの画面越しの笑顔に癒されながら、俺は試行錯誤を続けるのだった。


◇◆◇◆


『じゃあ、そろそろ終わろうかな〜! みんなぁ、また明日、次はユリオカートのレート上げ配信でお会いしましょ〜!!』


「う、うぅ……ダメだったか……」


 一時間の雑談枠が終わり、パソコンの画面にアヤカちゃんの色んな画像が折り込まれた配信エンドロールが流れる。


 結局俺は計八回ほどコメントしたにも関わらず、一度もそれを読まれることはなかった。


「はぁ。まあ今日も最高の配信だったから別にいいんだけどさ……って、お?」


 コメントを読まれなかった悔しさを配信の質で脳内カバーしていたその時、ポケットに入れていたスマホが震えた。


 そっとポケットからそれを取り出すと、画面には一件の通知。それは俺の彼女、サキからのものだった。


「えーと、なになに……今から家行ってもいいか、って? まあ用事も終わったし、別にいいけど」


 俺がそのような節で返信をすると、『じゃあ八時くらいに行くね。どうせちゃんとしたご飯食べてないと思うから、夜ご飯も作ってあげる』と返ってきた。


 確かに言われた通り、今日はカップ麺で済ますつもりだったからかなりありがたい。


「さて、アイツが来る前に軽く片付けでもしておくかな」


 思わぬ棚ぼたで先程の悔しさが全て飛んだ俺は、呑気に鼻歌を歌いながらゲーミングチェアから立ち上がった。



────この後衝撃の事実を目の当たりにする事など、今は知りもせずに。

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