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第2章 第4話

 蒼い鱗を持つ魔物が、地を這って猛スピードで突進してくる。三人は散り散りになって回避した。魔物が壁に衝突する。激突した壁から石の破片が飛び散った。

 ダイブするように回避したブリードは、地面を転がりながらも相手を視界に捉えていた。すぐに起き上がると、刀の持ち手に紐でぶら下げたクリマからエネルギーを引き出す。

 「食らえ!」

 ブリードは刀を二回、横に振るった。すると、刀を振るった際の軌跡が、クリマのエネルギーによって具現化される。飛翔する斬撃は、魔物に向かう。緑色の斬撃が魔物に命中した。ブリードが苦々しく口にする。

 「あんまり効いてないな」

 「ガアアアアッ!」

 叫んですぐ、魔物が尻尾を横に振るう。狙いはブリード。ブリードは刀身で尻尾を受け止めるが、力負けして吹き飛ばされた。吹き飛んだブリードは地面を数回、転がった。

 「ブリード!」

 このっ、とロゼが火の玉を呼び出す。今度の火の玉は、先ほどの倍の八つ。ロゼを取り囲むように浮かぶ火の玉が、魔物の顔面に直撃した。小さな爆発がいくつも起こる。

 続いて、ヴォルトが攻撃を浴びせようと動く。ヴォルトは助走をつけると、大きくジャンプした。空中で右足に雷を纏わせ、思い切り右足で蹴りを入れる。蹴りは魔物の長い首にヒット。しかし、大したダメージを与えることはできなかったようだ。魔物はヴォルトを睨みつける。

 「まずいな」

 魔物が、地面に着地したヴォルトに噛みつこうとする。大きく口を開くと、鋭い牙が見えた。

 しかし、魔物はヴォルトに噛みつくことを寸前で止めた。ブリードが飛翔する斬撃を放ったからだ。斬撃は、ヴォルトと魔物の間に割って入るように飛んだ。魔物の動きが少し止まる。その隙にヴォルトは後ろへと距離を取る。

 「こいつ……」

 「強い」

 ヴォルトとブリードは、魔物の力量を理解した。レベルが違う。

 「ガアアアアアア!」

 魔物は咆哮をあげると、ロゼの方へと突撃する。ロゼはクリマが埋め込まれてある杖を構えた。シールドを発生させ、耐えようと考えたのだ。いつまで魔物の攻撃を防ぐことができるか、怪しいが。

 ロゼとの距離が近くなる。そのとき、「せいっ!」と女性の声が聞こえた。視界の外から一本の槍が飛んできた。槍は魔物の目に当たる。槍が刺さり、魔物はのたうち回った。槍を投げた人物の名前をフランクが叫んだ。

 「アイリスさん!」

 アイリスさんと呼ばれた、金色の髪を持つ女性が、フランクを叱る。

 「まったく。勝手に先行して海底洞窟に突っ走るとは、何を考えている。お前はもう少し集団行動に慣れろ」

 「すみません。役に立ちたくて」

 「グルルルル……!」

 唸る魔物。魔物とアイリスの目が合う。

 「こいつか。コアを持っているのは」

 「ガアアアア!」

 魔物はアイリスに向けて雄叫びをあげる。アイリスは腰に付けたクリマを確認する。槍は手元にないが、それでも戦うつもりの様子だ。

 その場にいた全員が、再び戦闘が始まると思った。しかし、野太い声が全員の注目を集め、止めた。

 「そこまでだ!」

 と、短髪の男性が、制止する。男性は鎧を着ていて、傍にも鎧を着た人間が二人いた。

 「ちっ、騎士団か」

 アイリスが舌打ちをすると、魔物は海へ潜っていった。逃走したようだった。アイリスがフランクに指示する。

 「逃がしたか。フランク、行くぞ。今すぐこの場を離れる!」

 「逃がすか」

 騎士二人がアイリスたちの方へ走る。どうやらアイリスとフランクは騎士に追われる身のようだ。

 「フランク」

 「了解っす!」

 フランクが杖を掲げた。すると、大量の煙が発生し、洞窟内を包んだ。騎士二人は咳き込み、足を止める。その隙に、アイリスとフランクが走る。煙が充満し始めたため、視界が悪い。アイリスはロゼにぶつかりそうになった。

 「ん……。お前、もしや」

 「え?」

 アイリスが、ロゼの顔をじっと見つめる。

 「アイリスさん。早く逃げるっすよ!」

 「……ああ」

 騎士が魔術を行使したことで、煙が晴れていく。その頃には、アイリスとフランクの姿はなかった。ブリードとヴォルトがロゼの元へ駆け寄る。

 「ロゼ。無事か? なんか話をしていたみたいだけど」

 「ブリード。いえ、特に心配されるようなことは」

 「それより、どうする? 力ずくでここを突破するのは難しいぞ」

 ヴォルトがロゼに訊ねた。騎士二人が、じりじりと距離を詰めてきている。ブリードは刀を、ヴォルトは拳を構える。

 「その心配はいりません」

 声は短髪の男性から聞こえた。女性の声だ。不思議に思い、小首を傾げたヴォルト。それを見た短髪の男性が、懐からシェルを取り出した。声はシェルを通して聞こえた。遠隔からの音声のようだ。

 「この声……」

 声の主に、ロゼは心当たりがあった。女性はロゼに向けて話す。

 「ロゼさん。フリージアです。心配はいりません。騎士への誤解は、私が説明しておきました。少し話がしたいのですが、よろしいでしょうか。そちらにいるお二方にも話があります」

 シェルを持っていた短髪の男性が、がはは、と笑う。

 「まあ、そういうわけだ。ここではなんだし、一緒に来てくれるか?」

 争う必要はなさそうだ、と判断したブリードは、ゆっくりと刀を鞘に収めた。


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