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第2章 第3話

 深夜。月明りが辺りを照らす。三人は海底洞窟の入り口に来ていた。海底洞窟に繋がるルートはいくつかあり、その中でも比較的安全と言われているルートを選んだ。手のひらから球状の光を発したヴォルトが洞窟の中へと入っていく。じめじめしていて、コウモリが今にも出てきそうだ。

 「潮の香りがするな」

 ヴォルトの後ろを歩くブリードが、誰に言うでもなくつぶやいた。ブリードの隣を歩くロゼが答える。

 「ここは海とも繋がっているそうですよ」

 「へえ。じゃあ海水なのか」

 ヴォルトが足を止めた。そのことに気づかなかったブリードが、ヴォルトの背中にぶつかりそうになる。

 「おっと。どうしたんだよ、ヴォルト」

 「複数の足跡を発見した」

 「えっ?」

 片膝をつくヴォルト。足元を発光させ照らす。ロゼとブリードも地面を見る。足元はぬかるんでいて、人の足跡と、太い線がある。

 「人と……この太い線みたいのは、魔物の足跡か?」

 ブリードの言葉にロゼが反応する。

 「いえ。これは人魚の足跡ですね。人魚が地上を歩くときは、尾ひれに当たる箇所に、靴代わりのカバーのようなものを履いているそうです」

 「人魚。港で見たあいつか……?」

 ブリードは人魚の少年を思い出す。例の魔物を倒すという言葉が本当なら、先に来ていても不思議ではない。

 「騎士の可能性もある。予定では朝に来るらしいが、早く到着したのかもしれない」

 「いずれにしろ、より一層、警戒する必要がありそうですね。目的の魔物といつ遭遇してもおかしくないですし」

それから三人は奥へと進んだ。道中、小型の魔物と遭遇したが、難なく倒すことができた。

 足元に注意して、緩やかな坂を下りる。すると、広い空間に出た。海に通じているのがわかる。

 ロゼとブリードが緩やかな坂を下り終えると、先頭を歩いていたヴォルトが手を上げて、二人に止まるよう指示した。ヴォルトが小声で話す。

 「待て。何かいるぞ」

 灯りを消して、三人は、近くの岩陰に隠れた。人の悲鳴が聞こえてくる。

 「ぎゃああああ」

 見ると、悲鳴をあげているのが、人魚の少年であることがわかった。港で、魔物を倒すと宣言していた、あの少年だ。

 「やっぱり」

 人魚の少年は、大木ほどの大きさの、イカ型の魔物から逃げていた。イカ型の魔物が複数の足を振り下ろす。人魚の少年はその攻撃をなんとか回避する。その動きには危うさがあった。攻撃を回避できなくなるのも時間の問題だろう。

 「ちょっ。マジ、死ぬ! ヘルプミー!」

 「まさか、一人であの魔物を? よほど実力があるのか」

 「いや、そんな風には見えねえけど」

 「このままじゃ彼が危険です。とにかく助けましょう」

 そう言うと、ロゼは岩陰から出て、走り出した。ヴォルトがため息を吐く。

 「少しは作戦を立てようとは思わないのか」

 「その間にあの人魚がやられると思ったんだろ。ほら、俺たちも行くぞ」

 「ああ」

 「ぎゃああ! 死ぬう!」

 イカの魔物が、足を振るい、地面を叩きつける。魔物の攻撃を、人魚の少年が飛び込むようにジャンプして、かわした。間一髪だ。が、持っていた杖を落としてしまう。

 もうダメだ。人魚の少年が目をつむった。すると、火の玉が四つ、イカの魔物に向かって飛翔した。火の玉を食らったイカの魔物は、後ろに下がり、たじろぐ。

 「な、何が」

 と、人魚の少年は後ろを振り返る。そこには駆けるロゼの姿があった。ロゼは走りながら、杖をイカの魔物に向ける。再び、四つの火の玉がロゼの周囲に現れ、浮かんだ。次いで、四つの火の玉がイカの魔物に向かって行く。火の玉はイカの魔物を襲い、爆発する。

 イカの魔物は倒れない。標的を人魚の少年からロゼに変更した。イカの魔物は、長い足を横に薙ぐように振るった。

 が、イカの魔物の足がロゼに届くことはなかった。ブリードが割って入り、刀で足を防いでいたからだ。

 「ヴォルト!」

 ブリードが叫ぶ。呼ばれたヴォルトは「ああ」と短く返事をして、イカの魔物へと駆けた。イカの魔物の目の前まで近づいたヴォルトは、拳に雷を纏わせ、イカの魔物を殴りつける。イカの魔物は吹っ飛び、倒れる。起き上がる様子はない。一安心。ブリードがロゼに話す。

 「まったく。一人で突っ走るなよ」

 「ごめんなさい」

 「ふう。で、大丈夫か、お前。名前は?」

 人魚の少年に手を差し出すブリード。人魚の少年はブリードの手を掴んだ。

 「ども。フランクっす」

 「何故、こんな真似をした。騎士団に任せればいいだろう」

 と、ヴォルトがフランクに訊ねる。すると、フランクは大声で答える。

 「そういうわけにはいかない! 騎士団に先を越されたら意味ねえっつの」

 「どういうことだ?」

 ブリードが不思議がる。一方、ロゼは倒れたイカの魔物を見つめた。そして考える。村人の話していた、例の魔物というのは、このイカの魔物で合っているのだろうか、と。

 「まあ、あんたらに説明しても、わからないだろうな。俺たちは、魔物そのものではなく、魔物に付いているものに用があるんすよ」

 「それって、どういう……?」

 ブリードが口を開いたそのとき、魔物の雄叫びが洞窟内に響いた。イカの魔物のものではない。そもそもイカの魔物はまだ倒れている。

 「なんだ?」

 ヴォルトが辺りを警戒する。

 「へへっ。やっとお出ましか」

 突然、海に続いている水面から、ドラゴンのような魔物が現れた。イカの魔物を食らい、水中へと引きずりこむ。

 「今のは!」

 ロゼは理解した。今の魔物が、海で出会った魔物であることを。

 「どういうことだ。何故、あの魔物から、精霊の気配が……」

 闘技場でも感じた精霊の気配。それが何故か魔物から感じる。そのことにヴォルトは困惑した。

 「ガアアアッ!」

 水面から、突き破るように姿を現す魔物。翼はなく、四本の足を生やした、ドラゴンのような魔物は地面に立ち、咆哮をあげる。魔物の額には、蒼い宝石のようなものが、埋め込まれている。フランクは杖を拾って、攻撃を仕掛ける。

 「先手必勝! コアは俺たちのもんだ」

 フランクが杖を魔物に向けると、杖の先端から、氷塊が射出された。しかし、効いているようには見えない。

 「もっと至近距離で攻撃を当てれば、きっと……!」

 「お、おい」

 ブリードの制止も聞かず、フランクは魔物へと近づく。近づきながらも、氷塊を何度もぶつけた。

 「グルルルル」

 魔物の怒りを買ったのか、魔物が尾を横に振るう。フランクは回避できず、吹き飛ばされた。吹き飛んだフランクが壁にぶつかる。

 「ぎゃふっ」

 「大丈夫ですか!?」

 「ロゼ、今はよそ見している場合じゃないぞ!」

 「ガアアアア!!」


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