目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第2章 第2話

 港の近くを散策するブリードとヴォルト。出店がいくつか並んでいて、二人は興味のある方へと視線を移しながら歩いていた。

 やがて、ブリードの足が止まる。ヴォルトが、ブリードの視線の先を見る。武器屋のようだ。武器を見定めるブリードに、ヴォルトが訊ねる。

 「前から思っていたのだが」

 「うん?」

 「刀に付けている、その石はなんだ?」

 ヴォルトがブリードの刀を見る。持ち手に紐が付いていて、紐の先には黄緑色の小石が結ばれてあった。

 「ああ。ヴォルトはクリマを知らないんだっけ」

 「クリマ?」

 「人間離れした動きや、魔術を使うために必要なアイテムだよ。小石サイズのクリマを武器に取り付けるのが一般的だな。クリマは使い続けると、砕けて塵になるから。大抵、皆、予備を持っている」

 「なるほど。理解した」

 「というか、ヴォルトの場合はどういう仕組みで魔術とかを行使しているんだ?」

 「わからない。記憶が無いようだ。普段は感覚的に使っているが」

 「ふーん。まあ、精霊と人間じゃ、体の作りも違うだろうしな。クリマを必要としなくても不思議ではないか」

 武器を見たブリードは、クリマをいくつか買った。不純物がたくさん混じっている粗悪品だ。しかしその分、値段は安かった。戦闘で使用するとすぐに砕けてしまうだろうから、野宿の際の火おこしにでも使おうと考えて購入したのだ。

 「まいどあり」

 買い物を済ませたブリードは、ヴォルトの元へと駆け寄る。

 「悪い。待たせた」

 「いや。それはいい。それよりも、あれはなんだ?」

 ヴォルトが人だかりの方を指差した。人だかりの全員が、一人の少年を見ていた。少年には足がない。代わりにあるのは魚のような尾ひれ。人魚のようだ。首にはヘッドホンと思われるシェルがあった。

 人魚の少年は人々に、自分が魔物を倒すと宣言している。魔物というのは、ブリードたちを追いかけた、あの魔物のことだろう。

 「本当に、お前さんのような若造に魔物が倒せるのか?」

 人だかりから男性の声が聞こえた。人魚の少年は胸を叩き、頷いた。

 「もちろん。余裕っすよ」

 明るい少年だな。という印象をブリードは持った。村人は、心配だ、とざわめく。そのとき、人魚の少年が身につけているシェルから連絡が来た。人魚の少年はシェルを耳に当てる。

 「おい、フランク! 応答しろ!」

 「うぃっす。こちらフランク。どうかしたんすか?」

 「どうかしたではない! 約束の時間になっても集合場所に来ないから、連絡したんだ!」

 シェルからの怒号。それはブリードたちにも聞こえるほどだった。フランクという名前らしい人魚の少年はシェルを耳から離す。

 「え。やべ。時間、間違えた」

 「さっさと戻ってこい!」

 「はい、今すぐ行くっす!」

 フランクは人込みを押しのけ、どこかへと去っていった。フランクの背中を見ながらブリードがつぶやく。

 「なんだったんだ、あいつ」


 ☆


 「船なら出ないよ。危なくてね」

 港にいた若い船乗りに訊ねると、はっきり言われた。訊ねたブリードが理由を聞く。

 「え。何故ですか?」

 「なんだ君たち、何も知らずにここに来たのか」

 「知らないって、何を?」

 「君たちの見た魔物がこの島に住み着いて、船を襲ったことがあるんだ。ここも小さな島だからねえ。島を一周するくらい簡単らしくて、いつどこで襲われてもおかしくない。だから皆、この辺りの海域では船は出さないんだ。そんな時に君たちがここへ来たから、君たちはちょっとした有名人なんだよ」

 「何か方法はないのか?」

 と、ヴォルトが訊ねる。

 「無いと思うよ。まあ、騎士団に連絡はしたから、彼らが魔物を退治してくれれば出港するんじゃないかな。予定では、騎士は明日に来るらしい。命が惜しくなければ、君たちが乗っていた船と同じものを貸すけど」

 船乗りの提案を聞き、二人は相談する。ヴォルトがブリードに訊ねた。

 「ブリード。お前はどうする?」

 「んー。船が出るまで待ちたいけど、騎士がやって来るんじゃなあ。まだ俺たちの誤解が解けているかわからないし、仮に誤解が解けていても、ここに来る騎士にまでその連絡が行き届いているかもわからないからなあ。俺はイチかバチか賭けてみようと思う」

 「なら俺も乗ろう。シェルとやらでスピードを上げれば逃げ切れることはわかっている。それに、万が一の時は、操縦はブリードに任せて俺が相手をすればいい」

 「決まりだな」

 二人の会話を聞いていた船乗りが、「強いんだね、君たち」とつぶやく。

 「まあ、その辺の大人には負けないですよ」

 「へえ。あれ? あそこにいるの、君たちと一緒にいた子じゃないか?」

 船乗りの目線の先を見るため、ブリードとヴォルトが後ろを振り返る。すると、ロゼが村の人たちに話しかけているのが見えた。

 ヴォルトが首を傾げる。

 「何をしているんだ、あいつは」

 「さあ」

 不思議がる二人。そこへ若い船乗りとは別の、体格の良い船乗りが歩いてきた。若い船乗りが体格の良い船乗りに、先輩とつぶやく。ブリードたちの話を聞いていたようで、先輩船乗りがブリードとヴォルトに教える。

 「例の魔物に会おうと、情報収集をしているんだと。海底洞窟にいるかもしれねえ、とだけ伝えたが、何ができるのやら。騎士の訓練生だかなんだか知らねえが、無茶はしないでもらいたいね、まったく」

 「……へえ」


 ☆


 太陽が沈み始めた頃、ブリードとヴォルトは宿へと戻っていた。宿の外には木製のテーブルと、それを囲むように椅子が、それからベンチが置いてある。椅子に腰かけて話をしている人や、付近でシェルを使い立ち話をしている人がいた。どちらも例の魔物の話題だ。村人たちの困っている様子から、大打撃なことが容易に察することができた。

 ブリードは宿の入り口付近で足を止め、彼らをじっと見つめた。そのことに気づいたヴォルトが声をかける。

 「どうした?」

 「悪い。やっぱり俺、もう少しここに残るわ」

 「何故だ? このままこの村に居続ければ、騎士の連中に捕まってしまうぞ」

 「ああ。まあ、そうなんだけど、なんていうか、その……気が変わったんだ」

 ははは、と笑って見せるブリードに、ヴォルトがつぶやいた。

 「理解に苦しむな」

 「悪い」

 ヴォルトはブリードを置いて歩き出す。しかし、入口の前で止まった。

 「俺も行こう」

 「え?」

 「俺は船の操縦を知らない。つまりお前がいないと俺はここを出られない。なら、さっさと用事を片付けてしまった方が効率的だ」

 「ヴォルト。お前」

 「あ、二人とも、戻ってきたんですね。船には乗れそうでしたか?」

 ロゼが二人に声をかけた。ブリードとヴォルトは互いの顔を見合わせてから、ロゼに伝える。

 「実は……」


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?