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CASE 古城の病棟 -狂気展示場- 3


 ドクターは、この城の何処かに潜んでいる。

 趣味は人間を生きながら解剖する事なのだが、イリーザは嫌いな女を拷問する際に、彼からその方法を学んだらしい。


 ドクターの趣味の一つは“中出し”らしい。

 それが一体、何を意味するのか、セルジュには何となく、分かってしまった。


「何となく、意味は分かる…………」

「ふふっ。でしょう?」

 彼女は何処か誇らしそうだった。


「ちなみに二つやるわ。どちらもエグい」

 彼女は舌を出して、笑う。


 お腹から、出す。

 まず、腹を裂いて、中身のものを……。

 もう一つの方は、太い注射器を、性器や肛門に注入して、中へと特殊な液体を注射する。それは硫酸だったり、塩酸だったりする。だがそちらの方は、液体が体内に注入される、それ以前にその注射器が内臓を破壊する為に、犠牲者は死亡してしまうらしいが。


 かつて、ドクターは音波兵器の実験の為とか言って、208号室に住んでいた砂や泥を食べるのが好きな男を実験して殺害したらしい。ドクターの音波実験によって殺された者は、肛門から腸を排出して死亡していたらしい。


 ドクターはとにかく、あらゆる人体実験を取り行う。

 普段は”サモル”という人格が、彼の本性を押さえているらしいが。


「まあ、いい。とにかく、俺はそいつを探す事にするぜ」

「ふふっ、頑張って」


 セルジュは冷たく、ひんやりとした地下の精神病院内を走っていた。とにかく、ドクターという奴がいる筈だ。そいつを見つけて、痛めつけてやる。それがイリーザの要望だった。見つけ次第に、腕や脚を切り落とすつもりで挑むつもりでいた。


 石の壁に包まれながら、セルジュは、敵の姿を探していた。


 二階の階段を上がり、イリーザとヴァンピロスの寝室へと近付いた頃だろうか。

 何処からか、電子音のようなものが鳴っている。

 ぴこぴこ、ぴこぴこ、ぴこぴこ。

 ……なんだ?

 何か、コントローラーのようなものを弄っているのだろうか? 何をしている? こいつは、一体、何をしているのだろう?


 天井に、何者かが張り付いていた。

 白衣の男だった。

 顔には、七福神の恵比須(えびす)のお面をかぶっていた。

 どうやら、監視モニターのようなものを引き千切って、背負っているみたいだった。そして、腰には沢山の医療器具をぶら下げている。


 そいつは、まるで虫やヤモリのように天井を張っていた。

 セルジュは追い掛ける。


 だが。

 ……罠かもしれないな。

 彼は、少しだけ頭を悩ませる。


 しばらくすると。

 叫び声が聞こえた。

 どうやら、それは地上の辺りからだった。

 セルジュは地下の精神病棟を出て、城の一階へと向かう。


 確か、イリーザが気に入らない女をさらってきて、拷問していた場所だったか。そこも、二階にあった筈だ。


 拘束衣を着せられた女は、頭蓋を切開されて、奇妙な管のようなものを埋め込まれていた。どうやら、イリーザが顔の皮膚を剥がした女とは別の女みたいだった。……彼女は、複数の女を監禁していたらしい……。

その女は、頭蓋の中身が露出していた。ぴこぴこ、ぴこぴこ、と、何かが鳴る。

 すると、女は笑ったり、泣いたり、そして怒鳴ったりしていた。

 どうやら、彼女は感情を刺激する何かを脳に刺し込まれたみたいだった。電極らしきものが、脳にハマっている。そして、男は犠牲者の脳の中に、何かの液体を入れているみたいだった。よく見ると、それは調味料で、ケチャップやソースの類だった。ぶしゅぶしゅ、ぶしゅぶしゅ、と盛大に、犠牲者の顔に調味料が垂れ流れていく。それでも、その女は生きているみたいだった。


「あああああぁああああぁぁぁあああああ? 一体、何をやってやがるぅ!?」

 セルジュは思わず、叫んでいた。


 ガムを噛む音が聞こえる。

 いや、……口に含んでいるのは、果たして本当にガムなのだろうか。


 そいつと眼があった。

 そいつは、白衣を着ていた。

 そして、マスクを被っていた。人間の革で作ったかのようなマスクだ。

 そいつは、何かを口の中に含んで噛んでいる。

「おい、イリーザの言う事、聞けよな」

 彼は腰から、刃物を取り出して告げる。


 男は、首をぐるり、と回す。

 全身が、まるで海洋生物のようにも思えた。

「止まれ。イリーザから、腕の一、二本は落としてもいいと言われているっ!」

 セルジュは、両手に刃物を手にして、威嚇する。


 その男は白衣の袖をめくっていく。

 すると、所々に縫い痕があった。

 男は、口の中で噛んでいたものを吐き出す。

 どうやら、それは人間らしきものの、腸か何かの部位みたいだった。


 男はいきなりダンスを踊り始めた。

 自らの太股を叩いたり、握り拳を作ってファイティング・ポーズのようなものを取ったり、自らの胸を叩いたりしていた。そして、奇声を上げて叫び続ける。

 ……ネット・サーフィンをしていて動画で観た事があった、こいつのやっている事は、マオリ族の民族ダンスだ。


 こちらを挑発している、というよりは、ただ意味もなく衝動的にやりたいから、やっているだけのように見えた。セルジュは見ていて、馬鹿馬鹿しくなってきたので、懐から取り出したナイフを、その男に向かって、投げ放つ。


 男の腕に、ナイフが勢いよく貫通していた。

 男は、うっきゃきゃきゃ、と喜び出す。


 セルジュは。

 気味が悪くなって、数歩、後ろへと下がった。


「もっと、下がるんだっ!」

 ヴァンピロスが現れる。

 そして、ドクターの胸元へと躊躇なく、取り出したショット・ガンを撃ち込んでいた。



 逃げられた。

 遅れて、イリーザが現れる。

「とにかく、地下の精神病棟には向かわせないように、厳重に鍵を閉めて、罠も仕掛けたわ。でも、ドクターなら易々とくぐれる筈」


 イリーザは、セルジュとヴァンピロスを連れて、ある部屋へと向かった。

 そこは、彼女が衣装ケースと呼んでいる場所だった。

 彼女は、その部屋の鍵を開ける。


 中には、無数の人間の皮で作った仮面が飾られていた。

 マネキン人形の上に、人体の皮膚を貼り付けているものもある。

 クローゼットや、テーブルなどにも、人間の皮膚が貼り付けられていた。


「お前…………」

「ドクターの趣味でもあるわ。そして、私も集めるようになった」

「よく、こんなに剥いで殺したな…………」

「J国だけでも、年間行方不明者は何万人もいる。ちょっとくらい増やしたっていいじゃない。それに私だけがやったものじゃないの、これは。ドクターの趣味でもあるし、先代の城の住民が集めていたものだってあるわ」

「先代って…………」

「今は、807号室の患者をやっている。とにかく、人間の顔や皮膚を使って、仮面や衣服を作るのが趣味だったみたい。ホームレスなど、身元が確認しづらい者達をよく狙っていたらしいわよ。彼は、本来なら、ドクターが面倒を見ているんだけど……」

「あんな狂人に他の患者の面倒を見させるなよっ!」

 セルジュは、少し呆れかえる。


「一体、何に使うんだよ?」

「ドクターが気に入っている、仮面があるわ」


 それは、アステカ文明のインディアンが付けていたようなお面だった。ぼさぼさに伸びた白髪に、耳に無数の巨大なピアスを付けている。褐色の肌の上に幾つものフェイス・ペイントが施されているデザインのお面だ。


「彼の中にある”ジュオプックル”という人格が目覚めるの、会話が出来る、サモルの次に無害で、ひたすらにダンスを踊った後に、二十時間くらいは寝ている。その後、ドクターを拘束すればいい」

「それにしても、一体、あいつどれだけの人格があるんだよっ!?」

「私が確認しているだけでも、14ある。うち、人を殺す人格は、そのうち6人いて、その中で、人間を拷問する人格は、4つある」

「もう、ほんまもんの化け物じゃねぇかああああああああああぁあああぁぁぁっ!」

 マトモに理解しようとするのは、駄目だ。

 セルジュはそう判断する事にした。


 ひとまず、今は暴走しているドクターを止めなければならない。

 この城の何処かに隠れているに違いない。


「セルジュ」

「なんだ?」

「簡単にセキュリティが破られた。ドクターは地下の精神病棟の方へと向かったわ」

 彼は、もうなんだっていいや、といった気持ちになった。



 ドクターは、102号室の潜水艦好きの少年を人質に取っていた。


 そして、イリーザが見せてくれなかった患者が二人程、地面に血塗れてで倒れていた。背中を裂かれて、肋骨を抜き取られている。そして、肺へとゴマのドレッシングをぶちまけたみたいだった。

 クモサソリ男は、部屋の外に出ていた。その光景を見て、とても面白そうだった。


 ドクターは震えながら、先の尖ったスプーンを少年の口へと押し込んでいる。

「これ以上近付くと、この少年の喉をスプーンで掻き毟るぞっ!」

 わざわざ、使いにくい凶器を選ぶのは、彼の趣味らしい。


「お前のスプーンで彼の喉が毟られるよりも早く、俺はお前の腕を撃ち抜ける。だから、早くその少年を放して、檻に戻れっ!」

 ヴァンピロスが銃を構えながら、ドクターに降参するように呼び掛けた。

 ドクターは、構わず、少年の喉へとスプーンを突っ込む。

 ヴァンピロスは発砲する。

 ドクターの両肩に穴が開き、少年は解放される。


「うひひぃぃああああああぁぁぁぁあああっ!」

「今、出ている人格は”ビィービィー・チュン”だったかな? 確か映画の悪役で凶悪殺人犯という人格だった筈だ。セルジュさん………」

 ヴァンピロスは、セルジュへと呼び掛ける。


 セルジュは、ドクターに向かってお面を投げ付ける。

 すると、ドクターは両手を、だらんと垂れ下げながら、お面に強い興味を示していた。そして、恵比須の面を脱ぎ捨てると、そのお面をおもむろにかぶる。……面を取った、ドクターの顔は、精悍な顔の老人だった。美形といってもいい。


 その後、ドクターは、ダメージを受けた両腕であるにも関わらず、ひたすらに全身の手足で踊り始めた。何度も、回転したり、飛び跳ねたりしている。


「終わったわ。ヴァンピロス、これからドクターを拘束するわよ。セルジュもありがとう」

「あ、ああ。俺はあんまり何もしていない気もするが……」

 セルジュは、完全にゲンナリした顔で、その様子を見ていた。



 城を出ていく際に、この騒動を収めたお礼として、セルジュはデス・ウィングからの依頼と、騒動を収めた依頼の金を貰った。


 ちなみに、デス・ウィングが渡した包み紙の中身は、今では入手困難な『モワ・ディス・モワ』というゴシック・ヴィジュアルバンドのメンバーが身に付けているアクセサリーの模造品だったらしい……。


 そして、精神病棟の患者代表として、508号室の患者からも謝礼を貰った。


「これ、お礼なのか…………?」

 セルジュは、首をひねる。


 それはバッグだった。

 人間の顔の皮膚やら、眼球やら鼻やら耳やらがバッグの表面に縫い付けられている。歯まである。留め金は何処かの骨を使っているみたいだった。


 イリーザいわく、良かったわね。ゴシック・ロリィタのドレスに似合うじゃない、だそうだ……。

「これを手にして、歩け、というのか…………?」

 セルジュは、かなり困惑していた。

 確かに、精巧な作りをしていた。


 セルジュは、城の帰り道、改めて気付くと、この城の周辺が墓場だらけな事に気付いた。沢山の死体が、この城の周辺には埋められている。……イリーザ達が、墓を作らなかった者もいるかもしれない。


「…………、こんなもの使っていると、呪われそうだ……」

 バッグは、何かを言いたげだった。

 とても悲しげな顔をしているかのようだった。

「わ、分かったよ。仕事(ビジネス)に行くときなどに使ってやるよ。だから、この俺をそんな顔で見るなよっ!」

 城からの帰り道、荊(イバラ)だらけの坂道を降りながら、彼は神妙な顔で人間の部品(パーツ)が貼り付けられた報酬のバッグをまじまじと眺めているのだった。



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