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ちょっと待って!それ不正ですよ?
桜花香里
現実世界仕事・職場
2024年08月03日
公開日
10,257文字
連載中
プリンター製造・販売を手掛けている岬電気工業の佐伯悠は、突然、地球環境チームへの配属を命じられる。
地球環境チームとは、地球に優しい製品を作っているかを確認するかを担当するチームのようだ。主に環境対応や認証に関する業務を行うチームである。
そのチームの課長は本社からやってきた岡田壱夜。年上で仕事はできているのに、どこか抜けている。
壱夜のもとで慣れない認証の仕事をこなす悠であるが、互いに独身、一人暮らしという共通点から、なんとなく休みの日に出かけるようになるのだが――。
不正を防ぐ最後の砦である地球環境チーム、裏では地球防衛軍と呼ばれている部署が不正に目を光らせる!!
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

プロローグ

 ――バチッ

 目の前に火花が散った。何が起こったか理解できず、呆然とそれを見つめる。

「見えましたね?」

 穏やかな声。彼の声はいつも落ち着いている。問題が起こったとしても取り乱すことなく、冷静に物事と向き合う。

「空間距離が不足している結果です。このまま製品が市場に出回ったら、本製品によって怪我をするお客様だっていたかもしれない」

 新規開発中のプリンターの出荷試験において、絶縁耐圧試験が通らないと品質管理部よりクレームが入った。その原因を探るべく、技術部門と品質保証部門で再現試験を行っていた。

 この新規開発プリンターの売り文句は『世界最小』だろう。コンパクトで場所を取らない。どこか他社と差別化をしなければ、製品は売れない。そのため『世界最小』をコンセプトに製品の開発を行ってきた。

 この『世界最小』という売り文句は、意外とどこのメーカーでも使用する。だが、ここには抜け道があり、いるの調査基準であるかを明確にすることで『世界最小』をうたえるのだ。開発中に『世界最小』が更新されるなんてザラ。発売後に更新されるのもよくある。だから同時に『世界最小」がいくつも存在するのだ。

 そしてその『世界最小』プリンターの量産第一ロットを迎えた今日、その量産機で問題が発覚した。

「意図的でなかったからよい、というわけではありません。無知は罪です。その無知によって、お客様の安全を揺るがす事態を作ってはなりません」

 その声によって、試験を見守っていた技術者たちは、唇をきつく結ぶ。

 誰も、何も言えない。

「このままでは、このプリンターの出荷を許可することはできません」

 つまり、出荷停止。この言葉は技術者が一番嫌う。

「ですが。第三者認証の安全試験はパスしてますよね? 認証がおりているはずだ」

 男の野太い声が響く。

「認証試験に使った装置と、今ここにある装置。同じレベルのものですか? もしかして、ゴールデンサンプルを使ったというわけではありませんよね?」

 ゴールデンサンプル――認証試験を行う際、認証機関にサンプル装置を送付する。試験をクリアするために、試験が不合格になれば対策を行うのが一般的だろう。その対策をサンプルには適用したが、量産品には適用しなかった。そういった事例は、残念ながら多々あると聞いている。それはこの会社に限らず。

「同じものです。認証機関から指摘された内容は、すべて図面にフィードバックしました。その図面は、品証でも承認しましたよね?」

 声を張り上げたのは女性技術者である。彼女が誰よりもこの案件に真剣に取り組んでいたのは知っている。だからこの現状に、人一倍、胸を痛めているはず。

「はい。変更図面については、私たちも確認しております。それは問題ありません」

 その声で、彼女は愁眉を開いた。

「では、認証は通ったのに、ここで試験が通らないのはなぜ?」

 ここにいる誰もがそう思っている。

「……あっ」

 認証の試験レポートを確認していた彼女が、声をあげる。

「わかったかもしれない」

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