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第42話 エルフちゃんとエリカの誕生日


 さて熱狂的なバレンタインが終わった。

 潮が引くみたいに女の子たちの熱もあっという間に引いていくから面白い。

 なんというか本当に一瞬で絶好調まで達して今はもう普段通りだった。

 女の子たちはそういう引き際をわきまえているのだ。


 そんな中、俺は逆にそわそわしている。自分でも分かる。

 妹のエリカの誕生日が二月二十八日にある。


 正直何を贈ったらよろこんでくれるのだろうか、全然見当がついていない。

 それとなく聞いてみても「お兄ちゃんの贈ってくれるものなら何でもうれしいよ」という大変ありがたい言葉を頂戴した。

 だがしかしこれで俺の調査は打ち切られどうしたらいいか分からなくなってしまったのだ。


 それで今日、緊張しながら特選レトルトカレーを食べている。

 例の種類の多いレトルトカレーだ。十分美味しい。

 手で作るほうがいいとはいえ毎日そんなことをしていられないので大変助かっている。


「エリカ、正直に聞いていい?」

「なあにお兄ちゃん? エリカのことなら何でも聞いていいよ。エッチなことでも」


 そういって一瞬ララちゃんを見た後頬を染める。


「ちょっちょっ」

「ふふ、冗談。エッチなこと以外なら何でも聞いて」

「あ、うん」


 ちょっと一瞬変な雰囲気だったので俺は戸惑ったけど意を決する。


「あの、誕生日プレゼント、ぶっちゃけ何がいい?」

「そうだなぁ、そうだ、いひひ」

「お、悪い顔だ」

「あのね、お兄ちゃん独り占め、一日デート券がいい」

「なるほど」


 ララちゃんが目を丸くする。

 それからうんうんと妙に納得してうなずいていた。


「なるほどさすが妹だけはありますぅ」

「どういうことだ?」

「いつもだいたいララやハルカさんが一緒にいるから、妹だから遠慮もしているのでしょう。最近、二人っきりで出かけたことないでしょう?」

「えっそうかな、うーん。確かにあれ、考えてみたけど、一回もない」


 確かにうちにはララちゃんもいるので、基本俺はフリーにならないのだ。

 俺もララちゃんも元々妹の病院へ通うために部活もやっていないというか妹部に入っていると言ってもいい。

 でもその妹も二週間に一回の健診のみになった。

 そして妹本人は長いこと勉強に励んでいたので、俺と二人っきりになったことがないのだ。


「分かった。ごめんなんだか」

「ううん。私に付き合わせてごめんね?」

「いや謝ることはないよ、まったく問題ない」

「ありがとうお兄ちゃん、じゃあ次の日曜日はデートね」

「妹とデートか」

「そうだよ。ちゃんと外で待ち合わせだから」

「えっ、そこからやるの?」

「もちろんです」


 あっという間に日は過ぎ、デート当日。

 俺は適当な服を着たら家から追い出され、先に待ち合わせの駅前にいた。

 正直ちょっと寒い。もっと室内とかで待ち合わせにすればよかった。頭が回っていなかったわ。


「お待たせ、お兄ちゃん」

「おう、おはようエリカ」

「どう? お洒落してきたんだけど」

「もちろん、ベリーグッドでございます。かわいいよ、エリカ」

「えへへ」


 ニコニコと笑顔を浮かべて照れ笑いをする。

 もうこれだけでもお兄ちゃんのハートは撃ち抜かれていてめちゃんこかわいいです。

 前は病室でむりやり笑顔を浮かべていたのに比べたらここは天国かと思うくらい。


「じゃあいこっか」

「うん」


 手をつないでベタベタくっついてくる。

 頭を摺り寄せてくる子猫のようでかわいらしい。

 頭を撫でようとしたら今日は珍しくベレー帽をしている。


「動物園へれっつごー」

「ほーい」


 ということで電車に乗って動物園へ。

 やっぱり定番といえば水族館や動物園だろう。

 映画という手もあるが妹が感激して泣きだしたら困るし。

 お兄ちゃんはどうしたらいいか分からなくなっちゃうからね。


 さっそくチケットを買う。ペア一枚と元気よく言うところがかわいらしい。


「キリンさん!」

「キリンだな。首が長い」

「ふふふ、お兄ちゃん、それ説明になってない」

「そうだけど、他によく知らないし」

「ぶーぶー」

「文句言われても知らないものは知らない」

「もうアニメばっかり見てるから」

「ぐぬぬ」


 キリンだ。

 伝説の麒麟きりんとはだいぶ違うなとは思う。


「異世界にいるのかな、麒麟」

「キリンくらいいるんじゃない?」

「そっちじゃなくて中国の麒麟。足が速くて空を飛ぶ方」

「ああぁビールとかの麒麟さん? なるほど、そういう話は面白いかも」

「そうか? 千里を駆けるとか麒がオスで麟がメス。方角は中央、色は黄色。黄色い龍ともいう」

「へぇ、そういうのあるんだ、物知り」

「アニメも伊達じゃないだろ」

「うんっ」


 こちらはお気に召したようで、よかった。


「バク。夢を食べる」

「漢字だと獣偏に砂漠のばくだっけ」

「そうそう、よく字まで知ってるね」

「えへへ、ちょっと勉強しちゃった」


 現実の動物と空想の動物について順番に話していく。

 こういう機会って実はあまりなくて知識をまとめて話すことの難しさを痛感する。


「フラミンゴ。赤い鳥というと鳳凰ほうおうかな。フェニックスみたいな火の鳥」

「へぇ」

「厳密には西洋のがフェニックスで東洋のが鳳凰で別らしいけど」

「どこまでが伝承として伝わったとか研究するだけで一苦労だよね。シルクロードだもんね」

「そうそう、シルクロード」


 爬虫類はちゅうるいもいる。


「オオトカゲ。ドラゴンと龍みたいな感じ」

「これも西洋の竜と東洋の龍だと違うみたいな話?」

「ご明察。頭がよくて助かります」

「あはは、ぶいぶい」

「それで、実は中国の龍は絶滅した大ワニって説がある」

「へぇ」


 こうして話してみるとかなり話ははずみ楽しい時間を過ごした。


「ララちゃんの異世界……こういう動物、いるかもしれないんだよね?」


 妹が目をキラキラさせて俺を見てくる。


「ああ、実在する可能性がある。すごいよな」

「本当、世界の大発見なのに、誰も知らないんだ」

「そういうこと。知ってるのはララちゃんだけ」

「そっか。やっぱりすごいんだね。じゃあ戻ろっか。ララちゃんもハルカお姉ちゃんも待ってると思うし」

「おう」


 こうして俺たち兄妹だけのデートは終わりを告げた。


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