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第32話 エルフちゃんと林間学校


 十一月である。

 俺たちの高校では林間学校がある。


 バスに揺られて県下の山岳地帯へと進んでいく。

 そうして山の中腹まできたところでバスを降ろされた。


「うへぇ、すごい山道だった」

「エルフの里みたいに深い山は大好きですぅ。ケート君は大丈夫ですかぁ」

「おい、しっかりしろ、景都大丈夫か」

「もう下ばっかり見てるからそうなるのよ」


 山道でララちゃんのおっぱいが揺れるなと思っておっぱいばっかり見ていたら少し酔ってしまったようだ。

 こればかりは俺の自業自得といえる。反省しきりである。

 もっと外の方を見ればよかった。


 到着早々、今日はオリエンテーリングをするらしい。

 一応説明すると地図とポイント周辺図を貰い、ポイント間を移動して進むというスポーツのような何かだ。

 よく地図を間違えて読み、変な道を進むのがあるあるだった。

 俺なんて過去しょっぱなから道を間違えて酷い目に遭ったことがある。

 途中で引き返してきたけどそのぶん、長距離を歩かされた。


「ということで出発」

「「「おー!」」」


 やる気を見た目だけでも見せる。

 今日は春の遠足と同じジャージ姿だ。

 だいぶ秋も深まってきた。


 山道を進んでいく。最初のチェックポイントは道路が左カーブの所にある歩行者用の分かれ道が右へ、手前の角に小さな小屋がある。

 こうやって目印を見て、それからチェックポイントの看板があれば、それを確認して先に進む。

 チェックポイントにはアルファベットが割り振られていて判別できる。


「なるほどですぅ」

「ララちゃんは初めてだもんな」

「そうですぅ」


 そりゃエルフ領にはオリエンテーリングなんてないだろう。

 ただし彼女のほうが経験はある。

 どういうことかというと冒険者だから、こういう山には強い。ジャングルみたいなエルフの森を毎日歩き回っていたはずなのだ。

 チェックポイントを見て進むなんてのももちろん日常的にやっているから、朝飯前なのだろう。


「道間違えて死んじゃうエルフもいましたぁ」

「そっか、異世界は厳しいな」

「はいですぅ。ここは迷子になっても大丈夫なんですよね?」

「まあ、一応。たまに事件にはなる」

「それじゃあ、気をつけて進みましょう」

「「「ほーい」」」


 エルフ先生に先導されて先に進む。


 歩行者用の登山道を進んでいく。

 道自体は狭いが宿泊施設周辺はオリエンテーリングのために整備自体はされているので、藪の中を進むようなことはない。

 周辺は山だったり一部は畑も広がっている。

 日本の平野部はほぼ畑などに利用されているので、林業とかで使っているならともかく未開拓地というのはあまりないのかもしれない。


「カエルさんですぅ」


 ぐげぇぐげぇ。


 変な野太い声で鳴く。それにしてもデカい。十五センチくらいある。

 色は茶色。いわゆるガマガエルと言われるタイプだと思う。


「持って帰って、食べますか?」

「いやいやいやいや、いらん」

「そうですかぁ。美味しいのに」

「いらん」

「そう……ですか」


 なぜか悲しそうなララちゃん。

 そんなにうまいのだろうか。

 うまかったとしても少年自然の家にお世話になっているので、取ってきて食べるわけにはいかない。


 カエルを避けて進む。

 しばらく進んだらまた闖入者ちんにゅうしゃだ。


「ううぉおお、ヘビヘビ」

「ヘビちゃんですぅ」

「ララちゃん、毒ヘビかもしれないから」

「大丈夫ですぅ。これくらいなら平気ですぅ」


 ララちゃんがヘビの首根っこをひょいっと掴み、ポイッと遠くへ投げる。

 ヘビはバサッと草むらに落ちて逃げていく。


「すげえ」

「冒険者ならこれくらいへっちゃら、ちゃらんぺ、ぽんぽんぽんですぅ」

「ふふ、なにそれおかしい」

「ララちゃん……面白い子だったか」


 普段見せない陽気なララちゃんはなんだか面白い。

 これならペアを組んでいたロイヤちゃんもさぞ楽しく冒険者活動をしていたのだろう。

 それを思うと、ちょっと寂しく感じてしまう。


 こういう明るいララちゃんを俺たちは学校で勉強させているのだ。

 もっと本来は元気な子なのに。

 義務教育ではないけれど、転移してしまって窮屈に思っていないのだろうか。


「ララちゃん、学校は楽しい?」

「はいっ、いつも色々知らないことを勉強できて楽しいですよぅ」

「そっか」


 悪くは思っていないようだ。

 本人が楽しいというのなら俺たちがとやかく言う権利はない。


 オリエンテーリングは俺たちの班がタイムも短くて優秀だったらしい。ララちゃんのおかげだ。


 夜。キャンプファイアをやる。

 煌々こうこうと輝く炎を見ながら、周りをみんなで踊る。

 強制的な参加はもうだいぶ前に廃止されて、今は好きな子だけが前へ出て踊るような仕組みになっている。

 なかにはここで本当に好きな子と踊るために、一生に一度の大告白をしてダンスに誘っているニヤニヤしてしまう男子とかもいた。


「おっと告白成功おめでとう」

「「「おめでとう」」」


 無事にカップルになったらしい。

 女の子が積極的なのか顔を近づけて唇同士のキスを決めた。

 キャンプファイアの炎にテンションが上がっているのだろう。

 あの女子にしても普段はもっと大人しい子だった。


「「「うぉおお、おめでとう」」」

「「「ひゅーひゅー」」」


 みんながはやし立てる。

 そして二人は他に踊っているペアたちに交じってダンスをする。


「俺たちも踊るか」

「もちろんですぅ、ケート君、リードしてくださいねぇ」

「あはは、お手柔らかに」


 俺はララちゃんそして順番にハルカとも踊った。


「なんだ景都、ララちゃんとハルカ両方と踊ったのかぁ」

「両手に花だな、馬の脚に蹴られないように注意しろよ」

「浮気なんて不潔です。景都君は真剣に一人を選ぶべきです」


 なにやらクラスメートにここぞと言われてしまったがぐうの音も出ない。

 夜ご飯のカレーを作って食べ男女別に分かれて睡眠をとり朝は炊き込みご飯のおにぎりを食べた。

 とにかくこうして楽しい林間学校を過ごした。

 また俺たちの予定カレンダーが埋まっていく。

 ララちゃんと一年頑張ろうと約束した五月から半年が経過していた。


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