夏休みはまだまだ続く。
今度は山でキャンプをしようということになっている。
今回は泊りがけだがアキラはお休みだ。女の子と泊りがけなど絶対に許されないらしい。アキラはどちらかというとちゃらんぽらんな性格なのだが家は厳格だったりする。
参加者は俺とハルカとララちゃん。それからハルカのお父さん、
夏休みを貰ったそうなので、車の運転を買って出てくれた。
正直キャンプ道具を持って電車とか無理っぽいので大変助かる。
車はゲンジさん所有の三ナンバーのワゴン車だ。
向かう先は前の予定の通り、俺のおじいちゃん家のすぐ近くとなっている。
普通なら駐車場がすぐ満車になって無理なのだが、近所であるおじいちゃん家に車だけ停めて荷物を河川敷へ持っていけば利用できるという特別待遇だった。
「おじいちゃん、おばあちゃん、きたよー」
「おおぉケートよくきたなぁ」
「ケート、早くあがりなさい」
「「「おじゃまします」」」
おばあちゃんとおじいちゃんがニコニコ笑顔で迎えてくれた。
「すみません、娘ともどもお世話になります」
「なぁに、ハルカちゃんのお父さんならもう親戚みたいなものだよぉ」
「そうですね、よろしくお願いします」
「ご丁寧にどうもぉ」
「ララちゃんだっけぇ、外国人さんは金髪に青い目、すごい美人だぁ。よくきたねぇ」
「あはは、お世話になりますぅ」
ララちゃんが頭を下げた後も、ゲンジさんとおじいちゃんとおばあさんがぺこぺこしあっている。
こういうところはどちらも大人だ。
そっか親戚か。もう結婚するつもりでいるんだ。気が早いが俺も考えたことがあるので、なんともいえない気分だ。
というか、なんだかなまりのある祖父母とララちゃんが会話してると妙な異世界感がある。
これはこれで眺めているぶんには興味深くて面白い。
よく冷えた麦茶とトマトを御馳走になり、一休みしたところで川へ向かった。
設置の仕方とかはゲンジさんが詳しいので助かった。協力してテントを張る。
二人で一つなのでゲンジさんとハルカ。俺とララちゃんになった。
男女別という手もあったが、女子だけよりはどちらのテントにも男子がいたほうが安全だろうという判断らしい。
娘はまだやらん、という意味かもしれないが。
夜ご飯は鉄板焼きで焼肉を御馳走になる。出資はゲンジさん。助かりますありがとうございます。
川へ入るのは色々面倒なので明日ということに。
「それじゃあ、ちょっと早いけど、おやすみなさい」
「おやすみなさい、ケート君」
「あ、ああ」
ドキドキする、としか言いようがない。
真横におっぱいがある。
それから半分開いたつやつやの唇。整った顔。綺麗なまつ毛。エルフ耳。
エルフ耳だけは他の人は体験したことがないだろう。
こうして見ているとたまに耳がぴくぴく動く。
人間の中にも耳を動かせる人はいるらしいが、エルフちゃんのははっきり動く。
それからなんだか女の子の甘い匂い。
「んんっ、んっ、どうしました? 眠れませんか?」
「あ、うん。ララちゃんは?」
「私も暑苦しくて。エルフの里は夏でもそれほど暑くなかったので」
「そっか、思ったより蒸し暑いよな」
「はい」
なんだかララちゃんと心が通じたみたいでうれしい。
ララちゃんが目の前にいる。数十センチ前に一緒に寝ている。
俺は緊張しまくりんぐ。
寝袋だから大丈夫だけど、ララちゃんが寝返りなんてうってこっちに転がってきたら、俺はララちゃんの胸にぎゅっと押しつぶされてしまう。
「少し話しましょうかぁ」
「うん」
「ふふふ、なんだかテントだと一緒に冒険者をしているみたいですねぇ」
「そうだね」
「私が前衛で攻撃、ケート君が後衛で補助と支援でしょうか」
「逆じゃないの?」
「あ、そうなんですか。ケート君の戦闘スタイルを知らないので」
「俺も戦闘したことないから分からないけど」
「そうですよねぇ」
「まあ補助かもしれん、うん」
うふふとララちゃんが微笑む。
携帯ランプの明かりに照らされた顔はめっちゃかわいい。
「あの日。私とロイヤのペアは古代遺跡の探検をしていたんです」
「あ、うん」
突然、昔話になった。俺は緊張しつつも話を聞く体勢になる。
冷や汗が首筋を流れていく。
「調査済みの部屋だったのですが、未発見のギミックがあったのです。私たちはそれを偶然発見し、そして起動させてしまいました」
「あ、それが」
「はい。転移ゲートでした。気が付いた時にはすでに起動術式が完成していて、なんとかギリギリ魔法陣の圏外だったロイヤを残して私はたった一人地球へ……こうして飛ばされてきたんです」
「そっか、そんなことが」
「春の終わりごろだったので季節は連動しているようですね。カレンダーもそっくりそのまま二つの世界は表裏一体のように似ているところが多いです」
「なるほど」
「いまごろは向こうでもロイヤが調査をしてくれていると思います。もしかしたら再びゲートが起動して、ロイヤも飛ばされてきたりなんて」
「そうしたらうちの居候は二人になっちゃうね」
「うふふ、そうですね。両手に花でいいじゃないですか」
「ハルカも入れると花で囲まれちゃうよ」
「もう、何人囲うつもりなんですかぁ、悪い子ですぅ」
「いやはや、面目ない」
それからとりとめもない話をいくつかしているうちにララちゃんがこっくりこっくりするようになったので携帯ランプの明かりを消す。
「おやすみ、ララちゃん……」
「ケート君……好きですぅ」
「うおぃ、って寝言か」
「みゃむにゃむ」
翌日、またメロンの水着を着たララちゃんたちと透明な川で泳いで遊んだ。
川は思った以上に水質も綺麗で最高だった。
魚もたくさん泳いでいてララちゃんも大興奮でご満足いただけたようだ。
セミの声が川辺に響く。とても長閑で空気もよくて、またみんなで来たいと思った。