遠足から帰ってきてからもララちゃんはなんだかしんみりしているなとは思っていた。
「ただいま」
「ただいまですぅ」
家に帰ってきて洗濯物を取り込んだり掃除をして、冷凍チャーハンでご飯を簡単に作って食べてお風呂に入ってっと後は寝るだけになった。
「おやすみなさい、ララちゃん」
「おやすみなさい……ケート君」
一度お休みを言って部屋へ向かったはずだったんだが。
トントン。
「あ、はい」
「ゲード君、はいっでいい?」
「どうぞ」
そこには涙で顔がぐちゃぐちゃになったララちゃんがいたのだ。
「えっ、あれ」
「うわあああああんん」
ララちゃんが俺に飛び掛かってきた。
おっぱいがぐにょぐにょ押し付けられてめちゃくちゃ柔らかいがそれどころではない。
「わあああん、ひくっ、ひくっひくっひくっ、わああああん」
突然泣き出してしまうララちゃん。
「おうち帰りたい。エルフの里に戻りたいですぅぅ」
「あ、ああ」
「パパにママにそれからロイヤに会いたいのに、無理で」
「ロイヤ?」
「ロイヤは幼馴染で一緒のパーティーで冒険してて」
「ああなるほど」
ロイヤ君か。響きからすると男だろうか。
そっかこんだけ美少女を男が放っておくわけないか。そりゃ彼氏の一人や二人いるよな。
いや厳格なエルフは二股しないんだっけ。
幼馴染と結婚するの普通だったよな、確か。
「そっか、そうだよな。帰りたいよな」
「はいっ、寂しいですぅ。みんなに会いたい」
「うん」
だがどうやら強制転移だったそうで戻れる可能性はほぼないという。
ちょっときつい話だけど故郷のエルフの里に戻れることはない。
一応、ワープホールの研究は父さんたちがしているようだけど、それでめちゃくちゃ忙しいらしいのだが、とても難航しているというのが現状だとか。
彼女はもう日本にいるしかないのだ。
他の国は受け入れを拒否しているので、他国に行くこともできない。
世界でぽつんと一人だけのエルフ。その孤独感は相当のものだろう。
「よしよし、いい子だ。いい子」
「ひぐっ、ひぐひぐ」
「ララちゃん。戻るのは難しいけど俺が家族になるって決めたろ」
「うん。新しい家族になってくれるって」
「そうだ。今五月だろ」
「うん」
「六月にはプール。七月は七夕祭り。八月は海水浴場」
俺は小さなカレンダーをララちゃんに渡した。
そこに予定を書き込んでいく。
これは俺がコンビニで印刷してきたやつで都合よく来年の分もある珍しいタイプだ。
六月プール。七月七夕、夏休み。八月海水浴場。
九月運動会、景都の誕生日。十月ハロウィン。十一月ハルカの誕生日。
十一月ララの誕生日。十二月クリスマス。一月正月。
二月バレンタイン、エリカの誕生日。三月ホワイトデー。四月桜祭り。
五月ゴールデンウィーク、そして一周年。
「五月、一周年」
「ああ、一年間イベントはいっぱいある」
「イベント……」
「それで一年頑張れば一周年だ。まずは一年間、一緒に生活して頑張ってみないか?」
「いいよ。ケート君とずっと一緒なら私、頑張ってみますぅ」
「そうだ、いい子だよ」
「うん」
まだ目に涙が浮かんでいるが、零れ落ちてはこない。
ララちゃんががばっと抱き着いてくる。
すげえいい匂いがする。そしておっぱいが柔らかい。さらに温かい。
「ケート君。ケート君。ケート君」
「ああ、ララちゃんどうした」
「この世界では唯一頼れるのはケート君だけ。ララは独りぼっちだから」
「そんなことないって。ハルカもいるだろ」
「うん」
「あと頼りないけどアキラも」
「ふふふ」
「笑えるなら大丈夫。まだララちゃんは折れてない」
「そうですねぇ」
ララちゃんがくっついたまま顔をぐりぐりする。
甘えんぼさんだ。小さい女の子みたい。
「あの頭、撫でて慰めてほしいですぅ」
「お安い御用」
俺はララちゃんの頭にそっと手を置くとゆっくりと動かす。
さらっさらの金髪はとても綺麗だ。
金髪は黒髪などより細くて量が多くとても繊細だ。
つるつるしていて触り心地も抜群だった。
俺に抱かれたララちゃんが顔を上げて上目遣いで俺を見つめてくる。
すげえ破壊力。誰だって一発で恋に落ちそうだ。
俺だってもうララちゃんの視線に首ったけである。
ぱちくりとララちゃんが瞬きする。
そのまつ毛が長くて美しい。
目の虹彩なんてすごい澄んだ青色で、ビー玉みたいというかお人形みたいで、めっちゃ綺麗。
「ララはね、優しいケート君が好き」
「おっおお」
「キスしてほしいですぅ」
「えっ」
「ダメ? 唇にチューしてほしい」
「いや……国際問題になると困るんだけど」
「ララが黙らせるから大丈夫」
「うぅ……」
「んっ」
そういうと上目遣いの姿勢のまま目を閉じて唇を突き出してくる。
え、唇にしろってことだよな。
俺どうしたらいいかマジで分からないんだけど。
ええい、ままよ。
俺もララちゃんのお口の位置に合わせて顔を動かす。
そして重なる。
ちゅ。
「んっんんっ」
ララちゃんが艶めかしい声を出すのですぐにひっこめる。
そしてパチッと目を開けた。
「……景都君、ありがとう。うれしい」
いつものケートではなくはっきりと景都と発音していた。
それから顔を真っ赤にして立ち上がり自室に走って逃げていく。
「行っちゃったけど大丈夫なのだろうか」
バタンとドアが閉まる音がする。
少し物音がしてすぐに静かになった。
少なくとも泣いてはいないようだ。
「大丈夫……みたいだな」
それにしてもキス、しちゃったな。
はぁ俺は何をやってるんだろう。自制しないと国際問題だぞ国際問題。
明日どんな顔をして会えばいいんだ。
俺は布団にくるまって悶々として過ごしたが、いつの間にか眠りに落ちていた。
夢の中ではララちゃんが花畑で満面の笑みを浮かべて踊っていた。
ララちゃんにはどうかこの世界でも幸せになってほしいと切に思う。