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第33話 エルフちゃんの誕生日


 誕生日は誰にでもある。

 そう、もちろん異世界出身のララちゃんにも。

 彼女の世界とこの世界は瓜二つで、暦もだいたい同じだ。

 それで誕生日は十一月二十五日らしい。


 ということでララちゃんのために誕生日プレゼントを探すことになったけど、自分も一緒に行きたいとご指名だったので、俺とララちゃんとハルカの三人で行くことになった。

 妹のエリカは最近中学校に登校するのも復活して放課後も残って勉強をしている。つきっきりで付き合ってくれる先生には頭が上がらない。


「何がいいかな?」

「ララにもよく分かりません。一緒に探してくださいですぅ」

「はーい」


 と軽い会話をしてまた東川駅周辺をうろちょろしている。

 ハロウィンが先月終わった街で今度はちょうどブラックフライデーだった。


「なんか知らないけど、どこのお店も大安売りしてますぅ」

「ブラックフライデーだな。クリスマス商戦の前に大安売りをする習慣があるらしい」

「へぇぇ、お得ですぅ」

「アメリカ発祥だけど近年日本でもよく見かけるようになったね。前はそうでもなかったんだけど」

「そうなんですか?」

「うん。小さい頃は一部の楽器屋さんとか外国チェーンだけだった気がするな」

「時代なんですねぇ」


 今では商魂たくましい大手スーパーでさえ当たり前の顔をしてやるようになった。

 売れりゃあなんでもいいのかもしれない。

 消費者としてはこの物価高で安い分には文句もないわけで、世間に広く浸透しつつあった。


 それで商店街でもブラックフライデーの黒いのぼりがズラッと並んでいた。


「何買いましょうか?」

「ブラックフライデーといえば俺の中では楽器だけど」

「ララちゃんピアノとか欲しいの?」

「別にいらないですぅ」

「そうか。じゃあ何がいいかな」

「そうですぅ。音楽か美術の選択じゃないですかぁ。それで美術を選んでいますけど、画材セットとかどうですかぁ」


 確かに画材セットなら結構高い。

 世界で唯一のエルフが描く異世界の美術画なんてファンタジーマニアだったらどんなに下手くそでも万札出すだろうな。

 写真はないわけで描いてもらう以外に再現のしようがない。

 まあ別にPCもあるのでデジタルの絵でも構わないけど。

 ただしエルフなのは国家機密なのでそういうふうに大々的に売り出すわけにはいかない。

 いっそのこと、もう認めて公表してしまえばと思わなくもないが、国際関係の各国の思惑が衝突するとそう簡単にはいかないのは容易に想像できた。


「よし、じゃあ画材にするか」

「はい、欲しいですぅ」


 手頃な値段帯だという物でも結構なお値段のする物を選んでいざ買う段階になって物申しが横から入った。


「タンマ。画材は私に払わせて」


 なぜか赤い顔のハルカだった。


「あのね、景都からはシルバーリングを贈ってあげて欲しいの」

「あぁ、ハルカ。自分だけ指輪貰って気にしてたのか。考慮してやれてなくて、すまん」

「ううん。これは私のワガママだから」

「そうだな、一人は指輪。一人は画材じゃ割に合わないか」

「うん」


 やはり値段はともかく指輪とそれ以外では重みが違う。

 婚約指輪でないとしてもだ。


 にへへとハルカが指輪をした左手を見せてうれしそうに微笑んだ。

 そうだよな、ララちゃんにも同じように笑って欲しいもんな。

 普段からララちゃんは明るく笑顔ではあるが、こういう照れ笑いのラブラブ笑いをすることはあまりない。

 ということで特価割引サービスの画材はハルカからの誕生日プレゼントとなった。


 次はそういう流れなのでこの前の宝石店に向かう。


「こんにちは」

「こんにちは。この前いらしてくれたお客様ですね」


 覚えていてくれたらしい。


「その金髪と青い目に流暢な日本語は珍しかったので」

「そりゃあそうか」

「そちらのお客様がお友達ですね。当店の指輪をしていただきありがとうございます」


 自分とこの指輪かどうかは分かるらしい。流石はプロだけはあった。


「あはは、うれしいですね指輪は」


 ハルカがそう言って左手を持ち上げ指輪をアピールして微笑む。


「あの今日はこちらの彼女に同じ指輪を」

「かしこまりました」

「指輪のサイズは拝見したところ、そうですね。同じ物でよさそうです」


 つまりサイズも同じで全く同一品となるようだった。

 なんだかお揃いをプレゼントできると思うと感慨深く運命的なものを感じる。

 俺がそういう非科学的なものを考えていると思うと笑ってしまうが。

 運命的とか俺には全くこれっぽっちも似合わないな、あはは。


「在庫もございます。本日はつけて帰りますか?」

「えっあの、ええっと」


 ララちゃんが困惑している。


「誕生日は明後日だけど、別に前借りしてもいいぞ」

「それじゃあ、つけて帰りますぅ」


 こうして指輪をお買い上げとなった。

 流石に俺が指につけたりはせずララちゃん自身につけてもらう。


 ハルカとララちゃんが左手の指輪をお互いに前に出してニコニコと笑顔を浮かべる。


「ありがとう、ケート君」

「ありがとう、景都」

「あ、ああ……」


 まあたまにはこういうのも悪くはない。


 そうして二十五日の誕生日当日となった。


「ララちゃん誕生日おめでとう」

「ララちゃんお誕生日おめでとう」

「ララお姉ちゃんお誕生日おめでとうございます」

「ありがとう。三人ともうれしいですぅ」


 同じようにうちの居間でテーブルを囲って誕生日を祝う。

 そういえばララちゃんは妹の席を前は使っていたが現在は母さんの席に移動している。

 そのうちテーブルは大きめなので誕生日席に椅子を一つ付け足そうかなと考えていた。


 妹のプレゼントはやはりハルカの時と同じようにハンカチだったのだけど、なぜかララちゃんも目を潤ませてよろこんでいた。

 このハンカチよほどのものなのだろうか。

 謎は深まるばかりだ。聞いてしまえばいいけど妙に真剣なので藪蛇だと怖いなと思って聞いていない。


 こうしてララちゃんの誕生日も無事に迎えることができた。

 もうララちゃんも立派にうちの家族の一人だ。

 何気ない日々も幸せに過ごせるようにしていきたい。


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