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第25話 エルフちゃんと防災訓練


 夏休み後半。

 父親と母親が俺んちに帰ってきた。いわゆるお盆休みだ。


「ただいま、ケート、ララちゃん元気にしてる?」

「おかえりお母さん、親父」

「こんにちはっ、お久しぶりですぅ」


 ということで数日間、俺んちに泊っていくというと変か。自分の家だから。

 別に前から出張も多かったが中学に上がってから母親まで一緒にくっついていくようになって、妹は入院をするようになり、俺は一人で生活してきた。

 親がいることにもいないことにも別段なんとも思わない。


 それでさっそく最近元気になってきた妹の病院へ車で向かう。

 父親の自家用車だが、なんだかこれに乗るのは懐かしい感じがする。


「元気だった? エリカ?」

「お母さん、お父さん、あのね、あのね、私、もうだいぶ元気になって、そのうち退院できそうなんだよ」

「あらそうなの? よかったじゃない、おめでとう」

「おめでとう、エリカ」


 父親も母親も目頭が熱い。

 海外を飛び回っていたが、その目的の一つにエリカの治療を探すことがあった。

 公式には何もないことになっているが、もしかしたら国際問題児のエルフのララちゃんを日本で受け入れさせて家にまで連れてきたのは、そういうカラクリがある可能性はあった。

 それが実を結んだとしたら、これほどうれしいことはないだろう。


 病院スタッフもいるので、父親も母親もララちゃんについて言及はしない。なかなかの仮面っぷりだが、本心では感謝をささげているのだろう。

 たまにララちゃんのほうをチラチラ見ていた。


「ララお姉ちゃんには、本当によくしてもらってるよ。それからお見舞いのお兄ちゃんもハルカお姉ちゃんにも」

「ああ、よかったな」

「うんっ」


 前はこうやって元気に振舞おうとして返事をすると、すぐ咳き込んだりしていた。

 今はもう本当に平気らしい。

 顔色も前はもっと青白い感じだったが頬がほんのり赤くなって、元気を取り戻してきているのが分かるほどだ。

 こうやって見ると妹もかなりの美少女だな。シスコン兄の補正を抜きにしても、そう思う。


 妹は相変わらず原因不明ということになっていて病院から出られないので、俺たちは母親の実家とこの前にもキャンプで行った父親の実家の両方に顔を出して、墓参りをした。


「ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんが眠っているんですねぇ」

「そうだよ。その後は順番にお墓に入るのが日本の伝統」

「なるほどぉ。エルフの里だと一族ごとに墓地があるけれどお墓は個人ごとですねぇ」

「なるほどねぇ」


 そっかお墓の作り方も国によって違う。


「火葬なのは一緒ですね。エルフの里というか向こうの世界ではゾンビになってしまうので」

「おう、そうだった。怖っ」

「ゾンビは怖いですよぅ。ごく稀に森の中の死体がゾンビになって襲ってくるですぅ。冒険者は命がけなのですぅ」

「ララちゃんよくそんな職業してたよね」

「冒険者はあこがれの職業ですからねぇ。一攫千金も夢じゃないんですよぉ」

「なるほど」


 夏休みも終わり、防災訓練があった。


『訓練。地震です、地震です。これは訓練です』

「わわっ、なんですかこれっ」


 事前に知らされているとはいえ、今までなかった放送にララちゃんもびっくりしている。

 机の下に隠れることになっているので頭を突っ込む。

 それから防災頭巾というものがあるので、それを被って並んで校庭に避難する。


「なんだか軍隊みたいですぅ」

「まあそう思うよな」


 なんというか自分が知ってる範囲の知識だと空襲警報の避難に似ている。いややったことはないけど。軍隊っぽい集団行動なのもまあそうだろう。

 地震や火災で実際に避難が必要になる可能性は常にある。

 この日本列島に住んでいれば実感自体は誰にだってあるだろう。

 ただ自分の番が回ってくるとはあまり思っていないのも事実だと思う。


「頭を保護するんですねぇ」

「そうだよ」

「確かに冒険者も頭が取れちゃって死んだ子とかもいましたね」

「怖いこと言うね」

「手足の怪我ならひたすら痛いですけど、ハイポーションを使えばほとんど治るんですけど、なぜか頭はダメなんですよねぇ」

「なぜかって、まあ、なんでって言われると脳みそが入ってるから、だよな、うん」

「頭が取れたら頭を復活させちゃダメなんですかね」

「自意識って頭に詰まってると考えられるから、さすがに頭がないのはダメなんだろうね」

「なるほど、地球のほうが医学というのが進んでいるんですね」

「らしいね。でもポーションで治るならそれでもいいよね」

「はいっ」


 どちらかではなく両方できれば万々歳だと思う。

 こうしてララちゃんも防災訓練をして、また一つ経験値を積んだ。

 やはり見るだけと経験するのでは違うようで、感心していた。


「夏もいよいよ終わりですねぇ」

「うん」

「次は何ですかぁ」

「えっとね、体育祭だね。運動会」

「体育祭なんですか運動会なんですか?」

「えっと学校によるね。うちは体育祭だと思う」

「なんで名前が違うんでしょうね」

「さぁ俺も考えたことがなかったから」

「不思議ですぅ」


 さすがエルフさん。色々疑問に思うようで俺たちは当たり前だと思っていることでも、聞いてみるとなるほどそれも疑問だなというのが結構ある。

 ということで次は体育祭だ。

 みんなララちゃんとハルカの活躍が見れるとあって、最近張り切っている。まったく男ってやつはこれだから。

 まあ俺も男なので楽しみではある。他人のことは言えない。


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