ララちゃんとハルカとソフトクリームを食べた。
家に戻ってきて居間でくつろぐ。
「ケート君、あのね」
「なんだ?」
「いや大したことじゃないんですけどね。ソフトクリーム美味しかったなって」
「うんうん」
「エルフの里ではこの時期暖かいのに氷なんてそれこそ氷魔法でも使わないといけなくて」
「あぁそうだよな。この世界にいると冷暖房って普及してて何とも思わないけど」
「そうみたいで不思議だったんです。例えば冷蔵庫とかもずっと冷えててすごいなって思いましたぁ」
「だよね。あれも氷って明治から昭和初期まではなかったみたいなんだけどね」
「えっと百年くらい前ですか?」
「うん、たぶん」
明治とか昭和とかも知ってるのかなララちゃん。
それならかなりのことを勉強したと見える。
まったく日本に来て定住するっていうだけでも大変なのに、馴染もうとしてすごい頑張ってきたようだ。尊敬するなあ。
「氷魔法で食べる氷菓子のようなものがあって、シャーベットみたいなものなんですけどね、高級品なんです」
「あぁぁ、なんとなく想像つく」
「それで暑い日とかになると冒険者の魔法使いさんがお小遣い稼ぎと称して氷を作ってくれることがあって、その時だけ安く食べられるんです」
「なるほど」
「でもめったにないから、魔法使いさんがくるのを毎年夏になるととっても楽しみにしてたんですよ」
「ほほーん」
小さいララちゃんが冒険者の魔法使いさんの列に並んでシャーベットを受け取っているところを想像してしまった。
なんだかとっても長閑でかわいらしい。
いやぁ小さいころはめちゃくちゃかわいかったんだろうなぁ。
今でもかわいいけど、方向性がちょっと違うというか。お姉さんになってきた。
小さい子のかわいさはまた別格だ。
「氷といえばかき氷もあるよね」
「かき氷ですか。もちろん贅沢品でしたよ」
「今から食べたい? 確か棚の奥にしまってあるはず」
「やってみたいです。やりたいです」
「分かった。準備する」
かき氷器を出してきて水で洗う。
冷凍庫から氷をかき氷器の上のところに入れて上からハンドルで押さえる。
「ハイ、準備オッケー」
「いいんですか? では回しますね」
俺が本体を押さえて、ララちゃんに上のハンドルを回してもらう。
ガリガリガリガリガリガリ。
あ、うん。必死にハンドルを回すと体も揺れるので、そのおっぱいもプルンプルン揺れる。すごい。
「わっわわ、白い雪みたいなものが」
「そうだね」
「すごい、すごい、かき氷」
たまに受け皿の位置を調整しながら山を作っていく。
「ハイ完成。えっとシロップも去年のがあったはず」
冷蔵庫を見たらまだ去年買ったメロン味のシロップがあった。
「グリーンです!」
「うん、メロン味」
「メロンっ」
シロップを掛けると氷が少し溶けて山がへこむ。
「いただきます」
「どうぞ」
ララちゃんがかき氷を食べている間に俺は自分のを作る。
「美味しい……うっ、頭が痛いですぅぅ」
「あはは、それそれ。アイスクリーム頭痛っていうんだよ」
「アイスクリーム頭痛、ですか?」
「そそ」
ララちゃんが頭をトントンしている。
上顎が冷やされると脳が冷たいのを痛いのと勘違いして頭痛が起きる、らしい。
「えへへ、楽しいです。もう一回やっていいですか?」
「いいよ、氷はまだ残ってるから入ってるの全部使っちゃって」
「分かりました」
かき氷器の中の残りの氷を削っていく。
また目の前でプルンプルン揺れるが見なかったことにするか……。
「かっきごーり~かっきごーり~」
ララちゃんがご機嫌でかき氷器を動かしていく。
昔はよくやったし、去年もハルカが来た日に何回かやった。
それでもずいぶん使う回数も減ってきた。
お役御免となりそうなところを命拾いをしたようだな、かき氷器君。
「美味しーです」
「そりゃよかった」
「たのしいでーすぅ」
「よかったよかった」
氷そのものはまだ冷蔵庫に残っている。
夕食後、お風呂に入って出てきたララちゃんがパジャマに着替えて戻ってきた。
「ララちゃん、お水に氷入れる?」
「え、入れます、入れます」
水道水をコップに注いで冷凍庫から氷を入れる。
「水には浮くんですよねぇ。すごく不思議ですぅ」
「そっか、そう言われればそうだな。考えたこともなかった」
「多くのものは温度が低いほうが小さくなって重くなるんです」
「そうだね、熱膨張だもんな」
「そうです。でも氷は三度が一番体積が小さくて、凍ると大きくなるんでしたよね」
「そんな感じ」
「やっぱり不思議ですぅ。魔法よりも不思議なくらいですぅ」
「あはは」
俺には魔法のほうが不思議だ。
妹のエリカを治すのにしても、それから本来の魔法「ヒール」とか「ファイア」とかの魔法も。
そうそう、おっぱいも氷みたいに浮くんだよね、確か。
一度見てみたいが、一緒にお風呂には入らないと決めたので、ぐぬぬ。
「魔法って使える? 例えばここで」
「はいっ、ファイア」
そう言って指を立てると人差し指の先からマッチみたいに火が灯る。
「おおおぉお、すげええええ」
「あはは、こんなの子供だましですよ。全然すごくないです」
「いや、この世界だと、最強級のすごいことなんだけど」
「そうですか、えへへ、褒められちゃいましたぁ」
「笑ってるエルフさんでよかった。あぁ怒りを買ったら世界が崩壊するかもしれない」
「そんなことできたとしても、やらないですよぉ、やだなぁ」
「え、できるの?」
「メテオの魔法を何回も撃って都市に隕石の雨を降らせば簡単ですぅ」
「あっ……」
俺は気が付いた。
世界が誰も受け入れてくれなかったエルフ。
各国は単なる卑怯者だと思っていたが、魔法が使えるエルフは強い。
怒りを買ったらどうなるか分からないのは事実なのか……。
俺もあんまり怒らせないようにしよう。
「あのごめんなさい、冗談です。さすがに世界は崩壊しないと思います」
「そうなのか、冗談でよかった」
うぉお、どこまで本気か分かんないというね。
まあでも今は笑っているから大丈夫だろう。
この子がずっと笑顔でいられるようにしたいと心の底から思った。