「はじめまして、
「あ、ああ……」
「あの……よろしくお願いしますぅ」
タクシーから降りてきて、俺んちの玄関でにっこり笑顔の金髪碧眼の美少女。
場違いと思えるような綺麗なお辞儀をした。
身長は俺より小さいので百五十センチくらいか。胸がデカい。
だが納得できないものがある。彼女は耳が尖っていた。
「え、エルフ?」
「はいっ! ご存じですか? うれしいです。異世界から来たエルフ族のラーラミン・ハイッペロット・トワイライトです。ララって呼んでくださいねぇ」
「分かった……」
っておい。分かるかよ。
なんだよエルフって。聞いたことねえぞ。
確かに父さんは国家公務員で、安全保障周りを担当している防衛省の職員で今は出向により外務省で海外勤務をしている。
それで預かった子らしいのだが、エルフなのか?
父さんの仕事が宇宙人や異世界人を担当としていることは、薄々気が付いていた。
たまに漏れ聞こえる電話の会話から、俺たち以外の知的生命体がいることは分かってはいた。
しかし国家機密というか国際機密なのだろう。
エルフの美少女が俺と同棲するのか。今日から。マジか。
聞いてねぇ。マジ聞いてねえんだが、それ。
◇◇◇
数日前のこと。
俺の携帯電話が鳴っている。相手は普段海外を飛び回っている親父だった。
母親も一緒にくっついていったので家にいない。
「やっと出たか。
「なんの用、父さん?」
「ああ、それでだ。今度、我が家に外国から留学生がくることになった」
「はぁ? 俺んちって俺しかいないけど」
「まあなんだ、ちょっと特殊な子でな。世界中をたらい回しにされた挙句、すまんがうちで預かることになった」
「それで?」
「よかったな、金髪碧眼の美少女だ。あと日本語は普通にしゃべるからコミュニケーションは大丈夫」
「あ、うん」
「んじゃ、そういうことで。母さんの部屋使ってもらうから布団干しといてくれ。明後日タクシーで家に直接来る」
「はぁ……」
とまあ、こういう会話があったのが三日前か。
晴れていたので布団は無事干した。
それでだ。
玄関で巨乳の金髪碧眼エルフちゃんとご対面をした俺は彼女を家に入れた。
「あ~ぅ、よろしくお願いしますぅ」
「ああ、っておい、いきなり、うおぉ……」
エルフのララちゃんは靴を脱いで家に上がったと思ったら、俺の横を通り過ぎるわけもなく、俺にガバッと抱き着いてきた。
何がとは言わないけど、ナニが二つ。すげえ柔らかい。当たりまくってるんだが。
いや当たってるどころじゃなくて、ぐいぐい押し付けてくる。
「想像してた通りの優しそうな人です。私、うれしいですっ」
「あ、ああ」
やっとのことで離れてくれたララちゃんを居間に通す。
テーブルがあり椅子が四つある。
両親と俺、それから妹の分の椅子。
妹も訳あって家にいない。今は
「そこ、妹の席なんだけど入院しててな、座っていいから」
「はい、ありがとうございますぅ」
エルフちゃんが椅子に座る。
俺はお茶を淹れに台所へ行き素早く日本茶を準備すると、それを持って居間に戻ってくる。
うちはいわゆる居間とキッチンが続き間になっているダイニングキッチンではなく、別々の作りだった。
「お茶持ってきたよ」
「ありがとうございます、うれしいですぅ」
彼女は丁寧語だけど、なんか独特のイントネーションが末尾付近にある。
なんだろう、エルフ語なまりなのだろう。
エルフ語……。考えるとめっちゃすごいのでは。
それからさっきから現実逃避をして気にしないようにしていたことがある。
おっぱいがテーブルに乗ってる。うん。
彼女は背が低いのに胸が大きい。
そのためテーブルが相対的に高く、ちょうど胸がテーブルに、どんと。
そのおっぱいの前にお茶を置いた。
「美味しいですぅ」
「はは、ありがとう。日本茶の味が分かるんだね」
「はいっ、あの、エルフの里にも似たようなハーブティーがありまして」
「なるほど」
「エミルル茶という名前で、森に生えている低木の葉っぱなんですけど、こう蒸して丸めたものを乾燥させておいて、あとでお湯で戻して飲むんですよ。たぶん似たような作り方なんだろうなって」
「そうだね。だいたいそんな感じ」
日本茶の作り方は実はあまり知らないけど、確かに蒸すんだったはず。
それにしてもテーブルの上に乗ってるソレが気になって真正面に座ってるけど、ついついガン見してしまっていた。
ふと気づいて俺は視線を逸らす。
そうすると彼女もお茶から視線を俺に一瞬移した後、明後日のほうを向いて顔を赤くする。
目をスッと細めていた。
やはり向こうも気が付いたか。その目は恥ずかしいと書いてあるようだった。
「あの、このおっぱい……気になりますよねぇ」
「え、ああ……ごめん、じろじろ見て」
「いいえぇ、見られるのはもう慣れているので。でもなんだか男の子にじっと見られることって今までなかったので……恥ずかしかったですぅ」
「そうか」
「はい。でもこれから同棲っ、するんですから、慣れないとですよね」
「まあそうだね」
「毎日いっぱい見てくださいね。早く日本にも順応しなきゃですもの。これから一生住まわせてもらうつもりなのに」
「そっか。エルフの里ってそれほど都会じゃないのかな」
ここは大都会東京。人はいやというほどいる。
もし人口の少ない田舎なのだろうエルフの里から転移してきたのだとしたら、環境が違いすぎてびっくりしちゃいそうだ。
「はい。エルフの里、キャシュリルメーベルリの人口は一万人ぐらい、でしょうか。たぶん」
「たぶんか」
「はい。人口の統計とかいうのでしたっけ、そういうのまだなくて、すみません。異世界ってちょっと遅れてて」
「でもすごい技術とかもあるんでしょ」
「はいっ。ミスリルやアダマンタイトの加工技術とか、魔法薬、ポーションとかですね。長年の研究の積み重ねなんです」
「すごいね」
「えへへ、ありがとうございますぅ」
ぺこりと頭を下げると、テーブルの上の胸がぼいんと揺れる。
俺はギョッとするところだったけど、なんとか誤魔化した。
このおっぱい、攻撃特化スキルが付いてるに違いない。
こちらの防御力なんて、童貞のソレだ。紙切れみたいに吹き飛んでしまいそうだ。
かろうじて共学の中高なので、女の子そのものには慣れているけれど、これほどの攻撃力はめったにお目に掛かれなかった。
俺とエルフちゃんの同棲学校生活。
どうなってしまうか期待と不安のごちゃませした感情が湧き上がってきた。
変な感情に負けてしまわないように、これからは毎日頑張ろう。
俺は心に誓った。