さて外へ冒険に行くのも一段落したころ。
「ねえねえ、夏ミカンのアルバイトとかどうかしら」
私がみんなを誘ってみる。
「いいねぇ、どんなことするの?」
サエナちゃんが聞いてくる。
「貴族様の屋敷の庭によく生えているでしょ。あれを収穫するの」
「なるほど、さすがトエ。恐れを知らない!」
「まぁね。でも大丈夫よ」
そう。秘密だけれど貴族は恐れられているけれど、実際にはヘマをしなければ怒られることもない。
彼らだって普通に人間なのだ。
「じゃ、みんなで行きましょう」
「「「はーい」」」
ということで冒険者ギルドで仲介してもらい、貴族の屋敷の夏ミカンの収穫のアルバイトをする。
「えっと、今日はエルディアン男爵家だっけ」
「そうですね」
地方都市なので男爵でも十分な高位であり、立派なお屋敷だった。
「今日はよろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします」」」
「はい。みなさんよくきました。私はエルディアン家で雇われてる庭師のジョージです」
「ジョージさん」
ジョージさんに案内されて、表側から裏側に回り込む。
「いっぱい、ありますね」
「はい。夏ミカンはよく植えますね。手入れもしやすくあまり高くならないので」
「なるほど」
「ではおねがいします」
「「「「はーい」」」」
みんなで手分けをして木になっている夏ミカンをナイフで採っていく。
くっついている枝は思ったより頑丈で、手でプチッて採れるほどではなかった。
「採れました」
「……こっちも」
「えへへ、できましたにゃ」
みんなうれしそうに、両手で持ってバッグへと入れていく。
四人でやるともちろん一人でやるよりずっと早い。
「みなさん、お茶の時間にしましょう」
「「「はーい」」」
三時のお茶にお呼ばれする。
「紅茶にクッキーだ」
「……クッキー」
「美味しいにゃ」
こういうおもてなしにも皆は慣れていないもんね。
おっかなびっくりカップを傾ける。
そうしてクッキーを頬張る。みんな笑顔。
やったね。美味しいね。
みんなで盛り上がった。
「作業再開しよっか」
「「「はーい」」」
やる気は十分。作業を再開する。
夏ミカンを採りまくる。たくさんなっているので大変だ。
どんどんバッグへと入れていく。
そうして夕方、やっと全部の作業が終了した。
「はい、終わり」
「「「「ありがとうございました」」」」
「はい、ありがとうねぇ、ちっちゃいのにえらいねぇ」
お屋敷の人にもほめてもらった。
みんな報酬を貰って夏ミカンを冒険者ギルドへ納品に行けば終わりだ。
「はい、夏ミカンの納品にきました」
「そういえば、お手伝いしてるんだったわね」
「そうです!」
「えらい、えらい」
こうして代金を受け取って、一緒に来ていた庭師の人にお金を渡す。
「はい、これで完了です。お疲れ様」
「「「「やった」」」」
順調にアルバイトのお仕事ができて、ほっと一安心だ。
そういう貴族の屋敷を何軒もギルドに紹介してもらう。
私たちはそのうちに貴族家の間で噂になったようで、評判に評判を呼び、夏ミカンの収穫の依頼までギルド経由でくるようになった。
毎日、違う家の夏ミカンを収穫しにいく。
土日はお休みだ。
大きな家では三日かかるほど何本も植えてある家もあった。
どの家でも夏ミカンを植えるのだけど、収穫の手間を惜しんでそのままにしてある家もあったのだ。
私たちがちょうど収穫のお手伝いをするというのでちょうどいいからとして雇ってくれる家もある。
それから他の貴族の家での実績もあって、やっと受け入れてくれるような家もあった。
「毎日毎日、大変だぁ」
サエナちゃんが夜、孤児院でぶつぶつと言っていた。
まぁそうだね。
なんだかお仕事みたいになってしまっている。
でも、みんななんだかんだってけっこう楽しんでいるから、大丈夫だろう。
お土産でいくつも貰うものだから、孤児院では夏ミカンが余り気味だ。
最初は一つを割ってみんなでちょっとずつ食べていたのが懐かしい。
今では一人一個くらいある。
「夏ミカン、甘酸っぱくて美味しい」
「これも全部、トエたちのおかげだね」
「まぁね、えへへ」
「冒険者組は外へ働きに行ってるんだもんねぇ」
「トエちゃんたち、頑張ってるね」
いろいろ声を掛けてくる。
心配の声も少しあったみたいだけど、今のところ大丈夫だ。
というかもし危険なことがあっても私たちには魔法もあるので、実は対処できるつもりでいる。
もちろん相手がそれ以上の実力者だった場合はどうにもならないけど、そのときはそのときだ。
市内でも夏ミカンがあちこちでセールで売られて、今ちょっとしたブームになっていた。
安く食べられる機会はそれほどないので、プチ祭りみたい。
どの家庭でも一つ、二つと買っていくらしいのだ。
こうやって市民生活に影響を与えるなんて、思ってもみなかった。
「これもそれもトエちゃんたち、さまさまだねぇ」
サファエ院長も私たちを見て、おほほほ、と手を頬にあててほめてくれた。
なんだか、立派になったつもりというか、どこか気恥ずかしい。
こんな感じで夏ミカンを収穫して回る日々が過ぎていった。