丘を降りて町の中心に戻ってきた。
ここにはスエル教会がある。
スエル教会はもちろん、スエルメティス様の信仰しているスエル教の教会だ。
それでこの教会にも孤児院が付属しているんだけど、こちらは修道院ではないので、男女両方を受け入れている。
ただ丘の上のクエシニコ女子修道院が女子を受け入れているので、こちらは男子が多い。
まあとにかく、スエル教会にはお布施をする人も多く訪れて、こちらは畑とかなくてもやっていけそうだ。
めちゃくちゃ裕福というほどではないが、クエシニコ女子修道院よりは贅沢な暮らしをしていそうだ。ちょっとうらやましい。
そんな派手すぎないものの、白い綺麗な石でできた建物は、お高そうだ。
スエル教会に入ってお祈りをする。
「神スエルメティス様のご加護に感謝して」
「「――セドーレ」」
みんなでいつものように祝詞を捧げる。
教会の礼拝堂は修道院よりも大きく、奥にある祭壇の女神像も立派だった。
「さて、属性を見てもらいましょう」
「うん、楽しみ!」
「……属性」
「属性にゃ、属性にゃぁ」
教会の付属の部屋に移動すると、そこには祝福のアクセサリーとかを売っているお土産コーナーがある。
さらにその隣の部屋がいわゆる属性判定部屋だ。
「「失礼します」」
その窓が小さく、なんとなく暗い部屋の奥に、五属性がついた水晶玉が台に載せられていた。
あれが属性判定機だ。
「いらっしゃいませ」
「あ、どうもどうも。お願いします」
「どの子が属性判定をするのかな?」
係のお姉さんは優しげな微笑を浮かべて質問してくる。
「えっと、サエナちゃん、シリスちゃん、ミリアちゃんを」
「金貨で3枚となりますが、よろしいですか? 前払いですけど」
「はいっ」
資金は金貨4枚銀貨11枚だ。
金貨を3つ、袋から出すように見せて、アイテムボックスから取り出して渡す。
お姉さんはちょっと目を大きく開けて驚いたけれど、なんでもないという風に気を取り直していた。
金貨をぽんと出したので、びっくりしたのだろう。
私たちはどう見ても駆け出し見習い冒険者だし、貧乏そうだから銀貨30枚で出してくると思ったに違いない。
「お、おっほん、はい確かにいただきました」
「にゃは」
「では順番にこの装置に手をつけて、魔力を流してください」
「あの、魔力の流し方が分からないんですけど」
サエナちゃんのいうことももっともなのだけど。
「大丈夫ですよ。手を付けると吸い取られるので」
「あ、はい」
ということで先行、サエナちゃん。
こぶし大の水晶に手を付けると、水晶がほの白く発光した。
周りにある属性石のうち青い水の石も光っていた。
「はい、おめでとうございます。水の属性に適性があるようです。魔力量は人並みくらいですね」
「はわわ、ありがとうございます」
やったと両手を万歳させる。ちょっとかわいい。
「次はシリスちゃん」
「……はい」
たんたんと返事をして、シリスちゃんが判定機の水晶に手をつける。
「んっ」
ちょっと魔力を吸い取られた感じがしたらしく、小さく声を出した。
さて結果は緑と黄色だ。風と土の魔法に適性があるようだった。
真ん中の水晶は白く光っていた。サエナちゃんより明るいので、魔力量が多いのだと思う。
「……やりました」
そして最後、ミリアちゃん。
「にゃっ」
水晶は少しだけ白く光っているものの、心もとない。
しかし赤い属性石は、それよりも強く光って反応している。
「これは、火属性に高い適性があるようですね。ただ魔力量は少ないので、残念ですが」
「はいにゃ」
何発も撃つことはできないのだろうが、高い適性があるとその属性の魔力変換率が高くなるので、強い魔法を撃つことができる。
いざという時に必殺の炎魔法を使えるかもしれない。
もしくは高い変換率で、炎の魔法剣とか。
「みんな、ちょっとは適性があってよかったね」
「うん」
「……やった」
「にゃああ」
とにかく全員に一応、属性はあった。
ひとつもほとんど反応しない人も一定数はいる。
多くの人が属性は1つだし、当たりではないだろうか。
私トエ 魔力量大 全属性
サエナちゃん 魔力量小 水
シリスちゃん 魔力量中 風 土
ミリアちゃん 魔力量微 強火
エミリーさん 魔力量小 火
こんな感じかな。
ミリアちゃんは獣人なので、魔法適性が一般的には低い。使えるだけでも儲けものらしい。
ここにはいないけどエルフは魔法、特に風魔法が得意だ。
「では基本魔法の練習をしましょう」
係のお姉さんに提案される。
金貨1枚で属性判定だけでは、ちょっと高いよなぁとみんな思うはずだ。
そこでここではおまけとして初級魔法の練習をさせてくれる。
もちろんできるようにならない人もいるけれど。
「「はーい」」
さらに隣に続く扉があり、くぐると中庭に出た。
「水魔法の基本魔法は『ウォーター』ですね。お手本をお見せします」
「はい」
「水よ――『ウォーター』」
水の塊が向こう側にある的に向かって飛んでいってべちゃっと当たった。
攻撃というには弱いが、確かにそれは水魔法だった。
「どうでしょうか。次はお客様です」
「は、はいっ」
サエナちゃんが真剣な顔になって構えをとる。
「水が出て飛んでいくところを強くイメージして、それから指先から魔力を放出する感じで、さあどうぞ」
「水よ――『ウォーター』」
水鉄砲みたいな水がぴゅーっと飛んでいった。
威力は最低だ。
向きとか強さとかイメージが弱かったのだろう。
しかし第一歩としては素晴らしいではないか。この最初ができない人が多いんだそうだ。
「やったやった」
「……水」
「サエナ、水魔法にゃあ」
「次はそちらの方ですね。えっと風と土でしたか」
「はい」
「では、風よ――『ウィンド』」
風がぶわぁと私たちの周りに吹く。
「続いて、地よ――『アース』」
土の地面が、ぼこっと盛り上がった。
シリスちゃんは魔力も多いし、魔法適性が高いようで、難なくこなした。
こうしてシリスちゃんも無事に初級魔法が使えるようになった。
「火にゃ――『ファイア』」
手本を見せてもらいミリアちゃんもやってみるが、ものすごい小さいマッチぐらいの火が一瞬だけついた。
「ふぁにゃああ」
まあ、かなりびっくりしていたけど、できたことはできたので、よしとしましょう。
ふむみんなよろこんでいて、いい感じだ。
軽く抱き合ったりしている。ぐへへ。
女の子同士のスキンシップとか眼福、眼福。にへらぁ。