昼食を摂り、午後になった。
また二階から丘を監視する。
丘の一本道を一台の幌馬車が登ってくる。
「きたきた、ライエル商会さんきたよ~」
「「わーぁああ」」
みんなで孤児院の玄関に向かう。
馬車が進んできて、玄関前に止まった。
「「こんにちは~」」
「はい、こんにちは。ライエル商会のジョン・ライエルです」
「「わああああ」」
まずは孤児院と女子修道院の取引で、野菜とワインがハムや塩などに交換されていく。
私たちはお手伝いをしたり、それを見学したりして、自分たちの番がくるまで待機する。
「ではあとは個人取引だね」
「ライエルさん、乾燥ホワイト草を」
「ああ、最近取引が増えてうれしいよ」
私が採ってくるようになってから、他の子も真似してお小遣い稼ぎをするようになった。
「んじゃあ、私の番かな」
「はい、トエ嬢ね。今日は何を持ち込んだかな」
「まずは乾燥ホワイト草、それからサクラ草を」
「おお、サクラ草ね。今の時期はちょっと値段が落ちるけど、いいかな」
「もちろん。はいこれです、よろしくお願いします」
「どれどれ。そうだな、全部で金貨1枚銀貨6枚くらいかな」
「ほほう」
思ったより高い。
ホワイト草だけだと銀貨8枚ぐらいだったので、倍くらいだ。
「サクラ草は新しいようだし、綺麗だからね。元々ちょっと高いし」
「ほむほむ。じゃあその値段で、お願いします」
「はいよ」
ホワイト草とサクラ草を交換した。
「あとはですね。スライムの魔核が9個、サルノコシカケの小さいのが3つですね」
これは今日までに森を探索した時の収穫だ。
普通のキノコは食べちゃうけど、サルノコシカケは取っておいた。
「お、おう。……金貨1枚、銀貨5枚だな」
「ありがとうございます」
けっこうぽんぽん金貨がもらえるけど、1万円相当だ。
本来ならそんな金貨になったりしないけれど、魔核が1つ銀貨1枚だし、私の場合はちょっと特殊なのだ。
ちなみに計算が難しくなると誰も計算できないので、大銅貨、銅貨の分は省略されていて、けっこうどんぶり勘定になっている。
1,980円とか異世界にはそういうのはないのだ。ずばり2,000円、銀貨2枚というふうに。
「それで、欲しいものが……」
「あいよ。あるもんしか出せないけど、見てってくれ」
幌馬車の荷台を覗き込んで物を探す。
といっても、今回欲しいものは決まっている。
「あのおじさん、胡椒が欲しいんですけど、ありますかね?」
「あぁ、あることはあるよ。どんくらいにする? 結構高いよ」
「金貨1枚分で」
「ああ、この子はぽんぽん金貨出すけど、価値が分かってんのかね」
「金貨でパンが100個買えるんですよね、分かってますって」
「あぁん、ああ、確かに理解はしてるようだな。普通なら100個とかすんなり計算できないもんだが」
「算数は得意なので、えへへ」
「トエ嬢は変わっているな、まあいい、はい、胡椒を金貨1枚分。これで全部だ」
「はい、ありがとうございます」
だいたい革の袋一杯分かな。
毎日20人の料理に使ったら2週間分くらいだろうか。
胡椒もそれからトウガラシも高い。
なんせ南からの渡来品だ。
トウガラシは入ってきて日が浅い。ここエストリアでも栽培できるけれど、ほとんど普及していないので、現地調達とはなかなかいかないので、高い。
「トエちゃん、これなんの種なの?」
「これが胡椒の実だよ。トウガラシとは違った風味があって、ちょっとだけ辛いけど、これすごくおいしいの」
「美味しいんだ! やったぁ」
サエナちゃんがよろこんでくれるなら、色々お買い物する甲斐がある。
胡椒を厨房のおばちゃんに渡して、塩スープにトウガラシと同じ要領で胡椒を入れてもらうことにする。
胡椒を入れるときはトウガラシは入れないで、って言っておいた。
辛いスープにするならトウガラシに胡椒を少し入れてもいいけれど。
午後の畑仕事をする。
だいたいが野菜の手入れだ。
脇芽を摘んだり収穫したり、水を撒いたりする。
水は撒かずに、雨まかせの植物もあるので、そこまで大変ではないけれど、それなりに手間は掛かっているようだ。
夕ご飯になった。
挨拶のお祈りを済ませて、いただきます。
「んっ、なんか黒い粒が入ってるけど、これのせいかな、美味しい!」
「本当、美味しい、食べたことない」
「美味しい、美味しい!」
みんな胡椒入りスープはなかなかお気に入りのようだ。
今までほとんど塩で、この前トウガラシを使っただけだから、胡椒の風味はたまらない。
私は領主館の料理でも、胡椒が使われていたので、塩スープを初めて飲んだときには、薄味でちょっと物足りないと思っていたのだ。
やはり胡椒は偉大だ。
しかし、問題は値段と、この辺では栽培がうまくいかないらしいということだろう。
胡椒は実そのものだから、そのまま植えたら生えそうなものだけど、そうはいかないらしい。
何はともあれ、私たちの食生活に胡椒が加わった!