朝、冒険者ギルドによっていく。
「エミリーさんいますか?」
「はーい」
声掛けは私。
見えていたので知っているけれど、声を掛ける。
「それからドゴーグさん」
「いるぜ」
こちらもツルッとした頭があったのでお声掛けする。
「あの、実はお願いが。今日は空いてますか」
「ん、いいよ」
「おう、もちろん暇だぜ、がはは」
頭に手を当ててニコッと笑うドゴーグさん。
それを少し嫌そうに見てから笑顔を向けてくれるエミリーさんだった。
「あの今日、実はウルフ戦をしようかと思いまして」
「お、なんだやる気か?」
「はいっ」
私も満面の笑みでもって答える。
「そうか」
「剣も練習していますし、魔法も使えるようになりました」
「魔法か、ほう?」
「この前はコボルトを倒しました」
「そうか、そうか、それで?」
ドゴーグさんが品定めするようにこちらを見てくる。
その顔は面白そうだと書いてある。
「それで万が一のためにお二人に引率をお願いしたいんです」
「おう、自分たちだけで行ってきて死んじまったらバカだからな」
「はい」
「いいぜ」
「私もいいわよ」
「ありがとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
みんなで頭を下げる。
「まったく、かわいい子たちに頭まで下げられたら、やるしかないわね。な、ドゴーグ」
「ああ、俺たちに任せとけ」
ということで二人を伴って外の森へと向かった。
森に入ってすぐに「エリア・サーチ」でウルフの位置を確認する。
今日もいつものような巡回ルートなのか、現在位置よりもう少し北側にいるようだ。
「北ですね。スライムをシバきながら進みましょう」
「エリア・サーチね、ふぅん」
ドゴーグさんが感心したふうに答える。
魔法は全ての人が使えるわけではない。
特に自分が欲しい属性をピンポイントで使えたらいいんだけど、そんなのは無理なわけだ。
今度は魔力消費が少ないリソース・サーチをちょくちょく使いながら周りを調べる。
「この辺は初めてかな。こっちへ」
少し向きを変えて進む。
みんなはすでに私の能力を知っているので何も言わずについてくる。
「サルノコシカケですね」
「――いいの見つけたな。高く売れるぜ」
「この子、リソース・サーチも使えるのよ」
「あぁそれでピンポイントなのか。便利だな」
倒れた大木の根本に大きなサルノコシカケが生えていた。
協力して木から採ってバッグに入れる。
これだけで金貨1枚くらいだろうか。
「ぐへへ」
「はやくマジックバッグ欲しいもんね」
「うむ」
口からよだれが垂れてしまいそうだった。
サエナちゃんに言われて私は深くうなずく。
さてスライムを倒しながら進んでいく。
魔核を回収していく。今日はすでに十個取れたのでほくほくである。
「だいぶ近くなってきました、注意を」
「了解」
「あぁ」
そろそろウルフのテリトリーだ。
「ワオオオオオン」
「「ワオオンオ」」
「「ワオオオオン」」
遠吠えが聞こえてくる。
すでに囲まれているが、こちらもリソース・サーチの探知内なので場所はわかる。
「がるうぅうう」
正面に吠えながら突っ込んでくるウルフが見えた。
「――土人形、防御」
正面に私は土人形を配置、盾役として使用する。
ウルフは土人形に突撃して一撃でバラバラにしてしまう。
「くぅっ。いきますよ」
「――ファイア」
「――ウォーター」
「――ウィンド」
「――ファイア」
私たち子供四人の魔法が正面のウルフに集中する。
他のウルフが戦闘に参加してしまう前に、倒してしまおうと話し合った作戦だった。
「きゃぅううん」
ウルフに魔法が次々命中かなりのダメージを与えた。
しかしまだ動けるようで、よろよろしている。
「がるぅううう」
左側からも新しいウルフが攻撃してくる。
「左は任せてにゃん」
初撃でファイアを撃ってもう魔法が使えないミリアちゃんが鉄の剣でウルフを牽制してくれる。
剣が振られ、ウルフに当たったりぎりぎりで避けられたりと一進一退だった。
「――ファイア・ボール」
私はファイアより弾が大きいファイア・ボールを使って正面のウルフにブチ当てる。
これをもろに浴びたウルフは火に包まれて動かなくなった。
「やった」
「きゃぅうんん」
これを見た左のウルフ、それから右側のまだ様子を見ていたウルフが尻尾を巻いて逃げていく。
どうやら正面のウルフが司令塔だったようだ。
リーダーを失い逃げることにしたようだった。素早い判断だった。
「エリア・サーチ」
私は再び探知魔法を使う。
ウルフの群れは東側へ移動したようだ。すでに私たちが追うのは無理そうだった。
「ウルフの群れはすでに離れてますね。大丈夫です」
ウルフの血抜きをする。
ゴブリンやコボルトと異なり、ウルフはあまり流通していないけど食べられる。
ウサギ肉とは異なり、牛肉に近い味がする。私は領主館で食べたことがあった。
「お肉だねぇ、お肉お肉」
「今日は豪華」
「うん。お肉にゃ」
「ハムじゃないお肉。しかもウサギじゃないだよ」
「そそ」
サエナちゃんがちょっと興奮気味に言った。
シリスちゃん、ミリアちゃんとそれに続く。
みんなごくりと喉を鳴らす。
とにかくお肉を持って帰ろう。本格的な解体はギルドか孤児院の厨房だ。
ギルドだと解体費用を取られてしまう。
「私たちいなくても大丈夫だったわね」
「ああ、そうだな。お嬢ちゃんたちは強いぜ、まったく」
エミリーさんとドゴーグが呆れていた。
そうしてこうして孤児院に戻り、厨房のおばちゃんにウルフの解体をしてもらう。
「任せときな!」
おばちゃんはたくましい。
夕方ウルフは解体されて立派な毛皮が取れた。
「いただきます!!」
「うまうまっ」
「肉だよ、肉だよ」
「こんなお肉私はじめて」
「うまっ、美味しい」
肉たっぷりシチューがみんなに振舞われて大好評となった。
じっくりと煮込んだお肉は柔らかくなっていて食べやすい。
肉特有の旨味は子供たちを虜にするほどだった。
キノコやイチゴを採ったり、お肉になる魔物を倒してみんなで食べる日々。
私たちの冒険と孤児院スローライフは続いていく……。