そんなこんなで2日に1回のペースで、午前中の朝の仕事を終わらせた後、森探索をしていた。
定期的に食べられるキノコや、薬用のサルノコシカケ、ホーンラビット、スライムの魔核などを持って帰ってきた。
食べられるものは食卓に上り、美味しい料理の一部になった。
売れるものはライエル商会に売却して、代わりに香辛料などを買った。
みんなで採ったホワイト草などの代金からお金を出し合って、お肉の追加分を買ったりもした。
この前のキイチゴなんかも、みんなよろこんでくれた。
そんな生活をしていたある日、院長先生からこんな提案がされた。
「トエさんたちは、孤児院の仕事は免除にして、冒険者をやってみたらどうかしら」
「ええぇ」
今までも森など冒険者のまねごとはしていたけれど、こういう提案がすぐにされるとは思わなかった。
もっと余裕ができたら将来、大きくなってから冒険者をしてもいいとは思っていたので、渡りに船ではある。
選抜されたメンバーは、私トエ、サエナちゃん、シリスちゃん、ミリアちゃんだ。
「4人とも、剣といっても木剣のようですけれど、少しは使えるようになったのかしら?」
「はい、院長先生」
「そう。なら安全な街の周辺に限定するけれど、小さな森だけでなく、城壁の向こう側の平原と森の入り口付近までなら、行ってみてはどうかしら」
「はい。そう言ってもらえるとありがたいです。小さな森だけでは、そのうち探索しつくして、資源も取りつくしてしまいそうでしたので」
「そうよね。森がハゲ上がったら大変だわ、うふふ」
ちなみに尼さんだからといっても、この宗教ではハゲにはしていない。
でも男性の敬虔な宗教家の中には、頭の毛を剃っている意識の高い人もいるので、そういう冗談らしい。
「朝食後から夕方までの外出を認めます。日曜日は礼拝が終わった後からです。お昼ご飯は現地調達するのが条件です。夕食は一緒に食べましょう。お金を持って帰ってくるのがお仕事ですが、お肉やキノコ、果物など食べられるものを持ち帰るのもいいわね」
「はい」
「では明日からとします。そうそう、餞別というわけではないけれど、修道院にある護身用の剣を進呈しますから、使っていいですよ」
「ありがとうございます」
こうして私たちは、冒険者になることになった。
剣はすでに用意されていて、その場で4本、渡された。
女性でも取り扱いやすいショートソードの中でも比較的小さいタイプだ。
これなら、みんな使えるだろう。
木剣もそこそこ重いので、訓練すれば使えるようになると思う。
まぁ、スライムくらいならどうとでもなる。
まだ魔法はお披露目をしていない。
本格的に冒険者になるなら使う機会も出てくるだろう。
火とか水、あとヒールくらいなら見せても平気だ。
当面の目標は防御の強化と、それからマジックバッグだ。
アイテムボックスは何があっても秘密にしたい。
マジックバッグは金貨10枚ぐらいの値段がすると聞いたことがある。
今現在の私の所持金は金貨4枚ぐらい。
まだぜんぜん足りない。
今日も一日が終わって、ベッドに横になる。
「なんだかドキドキするね」
「外の世界でも大丈夫だよ、へーきへーき」
「トエちゃんは強いね」
「本当にこう見えて強いんだよ」
「へぇ、じゃあ明日からもお願いね」
「まかせておいて」
ピーチチチ。
スズメか何かが鳴いて飛んでいくのが聞こえる。朝だ。
井戸に行って顔を洗ったりして、朝ご飯を食べる。
いつもの朝食だ。
固いパンと、塩に少し胡椒もいれたスープ、それからサラダだ。
スープはダイコン、ニンジン、タマネギなど根菜が多い。
それから一切れ分を細切りにしたハムが入っている。たぶんこれは豚のハムだと思う。
サラダは畑のレタスとタマネギの生サラダだ。
不味くはないけれど、胡椒以外は質素ではある。
本音を言うなら、もう少しタンパク質、お肉があるといいと思う。
朝と昼は食べられるだけでもいいけれど、せめて夜のメインディッシュに、お肉を出せるような稼ぎをしたいものだ。
ハンバーグとかステーキとか、お肉の薄焼きとか。
領主館では、毎晩そんな感じだった。
今思えば、やっぱりかなりの贅沢だったんだな。
「行ってきます」
「「行ってきます」」
「行ってらっしゃい、あとで話を聞かせてね」
孤児院の子たちのうち何人かに見守られて孤児院を後にする。
普段、ここの人たちは孤児院および修道院の敷地から出ることがない。
孤児は別に将来修道院に入るにしても、現在は修道院預かりではないので、こうして外出なども一応はできる決まりではある。
それでも、ほとんど敷地から外に出ることはない。
丘の上の草原と小さな森は敷地内という認識なので、なんとか大丈夫だったのだ。
丘の一本道を歩いて降っていく。
ブドウ畑が見えた。領主様の命令でワイナリーのまねごとをしているのだ。
反対側には小麦畑もある。その青い絨毯は、風に靡いて気持ちよさそうに揺れていた。
「長閑だね」
「うん? う、うん」
「……のどか」
「えへへ、のどかにゃ」
サエナちゃんにはいまいちピンとこないようだ。
小さいころからここにいると、外の世界がどうなっているか、あんまり知らないのだろう。
もっとも領主館と裏の森以外、ほとんど外出できなかったので、実家にいたころの私も大した違いはないんだけれど。
私には前世のビルが立ち並ぶ首都東京のイメージがあるからね。
あれとこれとは雲泥の差だ。
どちらがいいか、と言われると、どっちも嫌いではない。
ビルはビルで生活するには便利だし豊かだった。
この何もない麦畑も風情はある。何もないけど。けれどそこがいいところなのだと思う。
丘の下のほうまでくると、低い街区の壁があり、その下は貴族街となっていた。